第十六話 旅行計画と事前調査①
「楽さん、なんとか、ギリギリでテスト通過したって顔してますね?」
昼休み。意気揚々と前楽に話しかけているのはテストとは無縁の女メズルフだ。
返ってきたばかりの数学のテストを眺めながら安堵した表情の前楽に、ニヤニヤと話しかけているのを俺は横目で見ていた。からかう気満々の顔だ。だが、前楽はメズルフのにやけ顔なんてなんのその、満面の笑みで俺に目配せするとテストをドヤ顔で広げて俺に見せた。
そこには大きな赤ペンで『31点』と書かれている。
「おぅ! 祈里に教えてもらったからな! ありがとな、祈里!」
「ど、どういたしまして……」
因みに赤点は30点以下だ。
よくよく見ると最後の計算式で三角を貰っている。この1点が貰えてなかったら世界は終わっていただろう。ありがとう、情けをかけてくれた先生よ……。あなたの三角のおかげで世界は崩壊せずに済みそうです。
俺の安堵とは裏腹に、メズルフはこの点数を見てぷぷっと笑った。
「31点でよくそんなに堂々とできますね」
「ばーか! 1点でも多ければ合格なんだっての!」
「ご、合格できて良かったね」
「人の事笑ってるけどよ、そう言うメズルフはテスト何点だったんだ?」
「私? 見ますか?」
メズルフがテストの用紙を広げると、100点満点のテストが五枚並んだ。
思わぬ結果に俺も思わず3度見した。10点が重なっているとかではなく全教科満点の輝くような答案用紙だった。
「……まじかよ」
「うそ」
「ふっふーん! これくらいのテスト私くらいになると朝飯前だって言ったじゃないですかぁ?」
「ずるした?」
「カンニングか?」
「してません! 失礼ですね!!」
こいつ、以前から大丈夫とは言っていたが。ここまで頭が良いならお前が最初から前楽に勉強を教えてれば良かったんじゃないか!?と不満を感じた。それとは別に祈里との問題もあったし、自分自身が努力したきっかけにもなったから口には出さなかったが。
「何にせよ! 俺がテストをクリアできたのは祈里のおかげだ! これで心置きなく修学旅行を楽しめるな!」
修学旅行、そのワードに一瞬顔が引きつってしまう。俺が死ぬ日が刻一刻と近づいている事に恐怖を感じてしまう。今のうちに好きな食べ物たくさん食べておこうとひっそりと誓った。
「楽しみですね、修学旅行! 私たち同じグループだから、一緒にいろんなところ回るんですよね!?」
「あ、旅行計画しねぇとな! なぁなぁ、どこ行きたいかもう決まったか?」
「いえ、まだ何も。でも、舞妓体験には憧れています」
前楽がそう言った瞬間、真心がくるりと後ろを向いてきた。
「ちょっと、私を置いて話を進めないでよ?」
「ごめんごめん、そんなつもりはないよ。午後の授業学活で、グループでの旅行計画をするはずだから安心して?」
修学旅行では俺、メズルフ、前楽、そして真心の4人で行動をすることになったのだ。話が勝手に盛り上がってるのが面白くなかったのだろう、真心はちょっと拗ねた顔をしていたが、俺の言葉を聞いてクシャッと笑った。
「嘘だよ! うそうそ。楽しそうだったから混ぜて欲しかっただけよ。それで? 午後からなにするって?」
「たしか、地図とか時刻表とか見てどこを周るかの計画書を出すんだよな!」
「そうですね! 歴史的建造物の見学ポイントを1カ所周りさえすれば後は時間内どこに遊びに行ってもいいはずなんです」
目を輝かせてメズルフがそう言った。俺は一回経験済みだが、今回はメンツが違うし、行く場所も全く変わるだろう。人生で二度目の修学旅行。このタイムリープ転生で一番得をした部分はここかもしれない。正直楽しみではあった。
「待ちきれないですね! 計画するのも楽しみです!」
メズルフは目を輝かせてそう言った。目を輝かせてられたのはこの時だけだったが。




