第ニ話 誤転生と世界崩壊①
時間は戻って、修学旅行1か月前の祈里の部屋。
俺は祈里の部屋のど真ん中で立ち尽くしていた。
メズルフは俺の焦燥なんてお構いなしにあくびをしている。本当に緊張感のない奴。
一方、俺は触ってはいけない大きな爆弾が胸にあるような気分だった。
早く何とかしてほしくて、唯一助けを求めれるそのアホ天使に声をかける。
「おい、どうすんだよこれ!!」
「さぁ? 私は羽を伸ばしにここへ来ただけですから」
「俺を導けとも言われてただろ!?」
「そうでしたっけ?」
メズルフは関係なさそうに首を一回傾げるとふかふかの布団に寝転がった。
「あ、楽さん。そこにある漫画取ってください」
「早速くつろいでんじゃねぇよ!! そして俺はパシリじゃねぇ。どうするんだって聞いてんだよ!」
「そう言われましても……適当に祈里さんとして過ごせばいいんじゃないですか? そのまま、死んで地獄に落ちやがれです」
「て、てめぇ!! 職務放棄にもほどがあるだろおおお!! この羽は天使の証だろうが!!」
この天使、適当過ぎる!
俺は収まらない怒り込めて、思いっきりメズルフの羽の根元をむんずと掴んで引っ張った。
「ひゃぁ!!」
思ってない声が上がったが俺は構わずに怒りをメズルフにぶつける。メズルフはプルプルと小刻みに震えながら俺の手をどけようと必死でもがいているが、怒った俺の力には敵わない。
「てめぇ、コラ。いい加減にしろよ!? 天界代表、責任とれよコラ!! 俺の体に戻せ!!」
「や、やめてくださぃっ!! は、羽は!! ひゃははっ! は、離して!!」
どうやら、この天使、羽が弱点らしい。俺は悪代官宜しく、にやりと笑った。
「羽が弱点なのかぁ! それは良いことを知った。さぁ、まずはこの状況をきちんと説明してもらおうか」
「ふう、ふぅ……わ、解りましたからぁ!! あ、あははっ!! 私の知ってる事全部はなしますからぁっ!! く、くすぐった!! お願いっしますっ……!! 離してくだひゃい!!」
顔を真っ赤にして懇願してくるメズルフは意外とかわいい。俺はもう少し優越感に浸りたい気持ちになりながらも仕方がなく手をそっと放してやる。
解放されたメズルフはあっという間に俺との距離を取った。
俺はメズルフが逃げられないように、そっと窓を閉じ、鍵を掛ける。
ガチャリという音がして逃げ場が亡くなったメズルフが涙目で俺をにらんだ。
「さぁて、すべて吐いてもらおう。お前が知っている情報全てだ!!」
俺が放った一言は、もはや、悪者が言うソレだった。
メズルフを見ていると、メズルフは未だにフーフーと鼻息を荒くして怒っている。
「私、あなたの事、大っ嫌いです!!!!」
「まぁ、そうだろうな。それより、説明してくれるよな?」
俺はメズルフに向かって指をワキワキと動かしながら近づいて見せる。メズルフは再び羽を触られるのではないかと思ったのか部屋の隅っこまで後ずさりし、壁に頭をゴンとぶつけた。
「あいてて! もう、分かってますよ!! そこに座りなさい!」
「どうしてこの状況で命令口調なんだよ」
半分呆れながらも立ったまま話を聞くのも足が疲れる。俺はドカッと床に胡坐をかいた。
座るなり俺は思っている事を口にする。
「俺は元に戻れるのか? ってかなんで祈里の体なんだ? 祈里は大丈夫なのか?」
「……質問は一個ずつしてください」
「ああ。わりぃ」
一気に質問をしたところで応えられないか、と俺は少しだけ冷静になって改めてひとつずつ質問を始める。
「じゃぁ……まず、どうして祈里の体に転生したんだ?」
「分かりません」
「そ、そうか。じゃぁ、祈里の体に入ったけど祈里自身は大丈夫なのか?」
「分かりません」
「……えっと。じゃぁ、俺は俺に戻れるのか?」
「分からないですね!」
「……」
「他に質問は?」
「結局何一つわかんねぇじゃねぇかぁぁぁ! このアホ天使ぃぃぃぃ!!!!」
俺は全力で叫んだ。こいつ本当に使えない!チェンジが出来るならほかの天使とチェンジしてほしいくらいだ。当のメズルフはけたけたと笑っている。
「あはは! 全部イレギュラーな事ばっかりで! 知らないものは知りません! 残念でしたね!」
「こんの、アホ天使いいいいいいい!!! お前!! 羽を出せ羽を!」
「いやですよーだ!!」
そういうと、メズルフは羽と天使の輪っかを消した。……消せるのか。
「これでもう、くすぐる事ができせんね! ふっふーん!」
得意げなメズルフの顔。なんだか腹が立つ。そうだ、こいつはアホだから……そう思い俺は笑顔を作った。
「羽って仕舞えるのか、便利だなぁ!」
「でしょでしょ! 人間にはできない芸当でしょ?」
「ああ、流石、天使って感じだ。魔法みたいで凄げぇ!!」
「魔法みたいで凄い!? 本当ですか!?」
「あぁ、凄い凄い! なぁなぁ、出し入れどうやってるんだ? 見せてくれよ」
「見て見たいですかー!? ふふっ! 仕方がありませんね!」
ちょっと褒められいい気になったメズルフが羽を出した瞬間、俺が羽を鷲掴みにしたのは言うまでもない。この天使、やっぱりアホだ。
その後しばらくメズルフは俺の腹いせの道具と化したそうだ。
めでたしめでたし。
……いや、まったくめでたくないけどな。




