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第十四話 必死な攻略とおまじない④

 巨大パンケーキタワーが現れてから20分もの間俺とメズルフと前楽は必死にパンケーキにかぶりついていた。

 とはいえ、祈里ボディの俺がそうそう健闘できるはずもなく10段のパンケーキのうち2枚を食べたところでギブアップ。メズルフと楽が四枚ずつパンケーキを食べざるを得なくなった事に加え周りを彩るフルーツもかなり手強いようだ。仕方がなく俺はパンケーキを切り分けたりフルーツを配ったりするサポートと応援に徹していた。


「メズルフ〜! 楽〜! 頑張って! あと少しだよ!!」


 残り数分で残るパンケーキはメズルフも楽も半分くらい。フルーツはほぼ平らげていた。

 つまり10段の内の9枚は3人の胃袋に納まった計算になる。かなり頑張っている方だろうが、どうみてもメズルフも楽も限界だ。かと言って俺ももう一口たりとも入らない。やはりこの挑戦無謀だったのか。


 そう思っているとウエイトレスさんがストップウォッチ片手にこちらに歩み寄ってきた。

 雰囲気を察して楽が自分の皿のパンケーキにかぶりついた。続いてメズルフも一呼吸おいて、最後の半切れに手をつけ始めるが、一口口に入れただけで固まってしまった。限界をとっくに超えていそうな顔だ。


「あと3分です」


 素敵な笑顔でウエイトレスさんが俺たちに時刻を告げ、3人とも苦しい顔になった。だがここで諦める俺ではない。俺は祈里である利点を生かして精一杯かわいい応援ポーズをとって見せた。


「あ、後一口だよ! 楽、頑張って!! 楽ならいける!」

「……おうよ!!」


 俺の応援を受けて、前楽は苦しそうにしながらも笑い返してくれる。そして、なんとか最後の一切れを口に突っ込んだ。あとは飲み込むだけだからきっと3分以内に食べ切れるだろう。


 問題はアホ天使だ。先ほどからほとんど減っておらず、顔を真っ青にして微塵も動かない。実際のところ俺の倍食べようとしているんだ。無理もなかった。


「メズルフ! 私に、頂戴! 頑張ってみる!」

「……!!」


 本音を言うと吐き出しそうなほどお腹はパンケーキで埋まっているのだが、この苦しそうなアホにこれ以上頑張らせるわけにいかなかった。俺は、メズルフの皿を半ば強引に手繰り寄せ、切り分けておいたパンケーキをまとめてフォークで突き刺して一気に口の中に頬張った。


「が、頑張って下さい! お願いします!」

「残り1分です」


 食べきった事を証明するために飲み込んで口を開けるところまでがルールに書いてあったのを楽は忘れていなかったようだ。先ほどのパンケーキを飲み込んだ楽は大きめに口を開けてウエイトレスさんに見せた。


「あとは、祈里さんだけです!」

「頑張れ祈里!!」

「残り30秒!」


 俺は必死で顎を動かした。パンケーキ半分を一気に口の中に入れたのだ。正直口がいっぱいで飲み込むのに時間がかかっている。ちょっとずつ飲み込んでいたのだがもう時間がない!


「10」

「9」

「8」


 楽もメズルフも顔色が悪くなるほど頑張って食べていた。俺の倍の量だ。

 ここで俺がしくじるなんて絶対にできない!!


「7」

「6」

「5」


 口の中のパンケーキは結構な量、残っているがもう一気に飲み込むしか間に合わす方法はない!

 俺は意を決して口の中の全ての塊を喉に押し込んだ。


「4」

「3」

「2」

「1〜!」

「……んっ!!!!!!」


 大きく口を開けてウエイトレスさんに見せたのと同時に、ピピピピッとストップウォッチの音が鳴り響いた。

 ほぼ同時に鳴り響いたストップウォッチと俺の口を交互に見てちょっと困った顔をしてから、また元どおりの笑顔でこちらに向き直った。


「おめでとうございます! チャレンジ成功です!!」


 拍手をしながらにっこりと笑ってくれた。


「おおおおお!!! マジか!! 間に合ったのか!!」

「やったぁぁぁ!! やりましたね! 楽、祈里さん!!」


 どうやら、俺たちのチャレンジは成功に終わったらしい。……のだが、いま実はそれどことじゃないのだ。先ほど無理やり大量のパンケーキを飲み込んだせいで息ができていない。俺は慌てて自分のお冷やを飲もうとしたがすでにグラスは空っぽ。喜ぶ二人を遮るようにメズルフのコップを指差した。


「むぐっ」

「え?」

「むぐぐっ」

「どうして喋らないんですか?」

「……あ!? ま、まさか……」

「まさか?」

「吐きそう!?」

「ええええ!?」


 違う!!!そして苦しい!!!!


 俺はだんだん余裕がなくなってきて、メズルフの横にあるコップに手を伸ばした。


「吐くならコップなんかじゃなくてトイレでお願いしますよ!!」


 吐きそうだと勘違いされたメズルフに阻止されてしまった。違うんだ、コップに吐こうとするわけがないだろ、このアホ天使!!って言うかそれなら自分の目の前にコップあるから!!


 俺の必死の形相も虚しくメズルフは断固として俺に水が入ったコップを渡そうとしない。こうなれば……もう一つの水は正面にある。次のターゲットにされたことに気がついた前楽は一瞬ビクッとした。


「い、祈里? トイレ付き添うからコップはやめよう? な?」


 お ま え も か!!!


 前楽がコップを俺から遠ざけた。

 あ、まずい。本格的に酸欠でクラクラしてきた。


 俺が変に頑張っちゃったせいで祈里が窒息死したらどうしよう……パンケーキの大食いで。

 その場合、死因パンケーキとかになるのかな。

 あ、あはは。


 気が遠くなっていく中、パタパタと言う慌てた足音が近づいてきた。


「あのお客様?」

「?!」


 見ると、笑顔が素敵なウエイトレスが心配そうな顔でこちらをみている。そして、手には光り輝くコップとたっぷりと注がれた水。


「お冷やお持ちしました。飲んでください」

「!!!!!!」


 俺の異変にいち早く気づき助けてくれたのは、天使以上に天使なウエイトレスさんだったのだった。




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