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第十四話 必死な攻略とおまじない③

前楽が悪い顔をした意味はものの数分で分かった。

色とりどりのパフェのメニュー表を見ている最中、突然ウエイトレスさんを呼ぶベルを鳴らしたのだ。コレには俺もメズルフも驚いた。


「え!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 私まだ選んでる……」

「いいからいいから!」

「!?」


そう言うとメニュー表をパタリと閉じられてしまう。


「どうしたって言うんですか?! パンケーキ楽しみにしていたのに!」

「メズルフ、さっき俺に奢れって言ってたよな?」

「え?!」

「祈里は庇ってくれたけどさ、今日は俺の奢りにさせてくれ」


一体どう言う風の吹き回しだろうか。嫌な予感が止まらない。

こう言う時は俺は大抵アホなことを考えているんだ。


「えっとー、申し出は嬉しいけど……本当に大丈夫?」

「任せておけって!」

「不安しかありませんけど」

「うん、不安だね」

「俺の信用低すぎじゃね!?」


そんな話をしているとベルに呼ばれたウエイトレスさんが半ば駆け足でこちらに向かってきた。混み具合から考えても忙しいのだろう。かわいいスカートがひらひらと揺れてそれもまた良いと純粋に思ってしまう。ウエイトレスさんは電子伝票を取り出すと忙しさを感じさせないプロのスマイルでこっちを向いた。


「ご注文は?」

「デラックスホットケーキ、大食いチャレンジで!」


間髪入れずに前楽がそう答えて俺とメズルフは固まった。大食いチャレンジ……大食いチャレンジだと!?それを本気で言っているのかと耳を疑ってしまうがウエイトレスさんがいる手前声には出さなかった。


おい、おい、馬鹿も休み休み行ってくれよ俺……女の子二人を誘っておいてやることじゃないだろう。そして、こんなおしゃれなカフェに大食いチャレンジグルメが用意されていることにも驚きだった。


まぁ、差し詰めさっきメズルフがたくさん食べるという話を聞いたからだろう。


「制限時間内に食べ終わると賞金が出るお一人様のチャレンジと、賞金は出ませんがお席の方全員で時間内に食べ終わると値引きになるグループチャレンジがございます。いかがいたしますか?」

「グループ戦でお願いします」

「かしこまりました。制限時間20分以内に食べきれば1000円、食べきれなければ3000円となります」

「3000円……!?」


思わず素っ頓狂な声が出た。万年貧乏な俺からするとこの額は生死を分かつと言っても過言ではない。俺のお小遣いは一ヶ月3000円。周りの男子と比べても額が低いのは重々承知だった。さらに言うとこの3000円から昼ごはん代を出さなくてはならない。もしチャレンジに失敗すれば、今後昼飯抜きになりかねないだろう。

焦る俺の内心など知る由もないウエイトレスさんは、電子伝票をしまうと笑顔で一礼してささっと去って行ってしまった。


「大丈夫? 本当に……」

「あはは、祈里は心配しすぎだっての」

「だって、結構高いからさ」

「そうですよ、修学旅行だって控えているのに」


俺の雰囲気を察してかメズルフも心配そうに前楽をみた。


「いやさ、こうやって俺ら3人で遊べる機会なんてもうないかもしれないだろ? もう少ししたら留学の期間も終わって海外に帰っちまうし。それなら少しでもメズルフの思い出になれたら良いなって思ったんだよ」


少し照れ臭そうに前楽はメズルフに微笑みかけた。突然打ち明けられた前楽の胸の内にメズルフはきょとんとして前楽を見つめた。


「私のためだったのですか?」

「まぁ、そうでもあるし、それだけでもない! 祈里にも楽しんでほしいし、今日を楽しめるのが一番だろ?」


ドヤ顔でそんなことを言ってくる前楽に俺とメズルフは目を合わせ吹き出した。笑われた楽はどうして笑われたのかわからない様子だ。


「……ぷっ! ふふふっ!」

「あはは!」

「な、なんだよ!? どうして二人して笑うんだよ!?」

「いえ、それで大食いを選んじゃうあたりが楽さんっぽいなって」

「なっ!?」

「そうだよね、ゆっくりとパンケーキに舌鼓を打つ予定だったのに、本当に楽らしいね」


メズルフと俺がクスクスと笑うと前楽は少し所在無い様子で俺ら二人を交互に見ている。


「あ……その……二人とも嫌だったか?」


おずおずとそう聞いてくる前楽にメズルフは肩を竦めて見せた。


「嫌だなんて、全然思ってませんよ?」

「楽のためにも頑張って食べなきゃいけないね」


その時だった、ウエイトレスさんが両手で運んできた大きなお皿にはパンケーキのタワーが姿を現した。ふわふわのパンケーキが十枚積み重なってまるで塔のように聳え立っている。そのパンケーキの頂上にはコレでもかと言うほどの生クリームに色とりどりのフルーツが載っている。


「…………」

「…………」


そのタワーの大きさに俺とメズルフは固まった。メニュー表を見ていたのは楽だけだったのでこんなに大きなタワーが来るとは思わなかったのだ。いや、コレはさすがに無理じゃね?というパンケーキタワーに言葉が出ない。100点満点のウエイトレスさんがポケットからストップウォッチを取り出した。


「今から20分以内に召し上がっていただければチャレンジ成功です。当たり前ですが、カバンなどに隠したり捨てたりすれば即失格となります。それではいきますよ! よーい、スタート!!」

「よし!! 祈里、メズルフ、頑張ろうな!」


一人だけやる気満々の楽に、俺もメズルフも何一つ言葉を返すことはできないのだった。



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