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第十四話 必死な攻略とおまじない②

 喫茶店に到着すると、綺麗なウエイトレスさんがお決まりの文句で出迎えてくれた。


「何名様ですか?」

「三人です」

「三名様ご案内です」


 ウエイトレスさんについていく最中あたりを見渡してみると全体的に白を基調とした清潔感のある店内には様々なアンティーク調の置物が置かれていておしゃれな印象を受ける。あまり広くない店内にも関わらずテーブルは案外埋まっていて、混んでいる印象を受けた。客層は若いカップルや女性同士が多い。


「ここのカフェは、パンケーキがおすすめらしいですよ!」

「ちゃっかりサーチしてるし」


 目を輝かせているアホ天使に少々呆れるも、純粋に楽しんでいるようでそれ以上ツッコミを入れるのは辞めておいた。流石に野暮というものだろう。


「こちらになります。ご注文がお決まりになりましたらボタンを押してください」

「わかりました」


 4人掛けのボックス席に案内されて俺は一瞬まずいと思った。何がどうまずいかと言うと4人がけの席に座るのが3人という点だ。この席順で今日の前楽攻略が大きく変わりかねない。なぜなら前楽もメズルフも基本的に考えなしなのだ。二人がなかよしこよしに隣の席に座りでもしたら祈里のアプローチはおろか、メズルフの方に気が入られてしまうかもしれない。それは、まずい。とってもまずい。


 なんて、考えている間に前楽は一番奥に座った。

 もちろん何も考えないであろう天使もその横に続こうとして俺は服をグイッと引っ張った。

 それだけは阻止しなくてはいけない。祈里のために、いや、世界のために!


「なっ!?」


 服を引っ張られたメズルフは怪訝な顔をして俺を見る。どうして引っ張られたかまるでわかっていないようだ。


「メズルフは私と座ろうね?」

「なぁんだ祈里さん、私と一緒に座りたかったなら服なんか引っ張らずにそう言ってくださいよ〜」


 屈託のない笑みがこちらに向いてきて俺は若干の苛立ちを覚える。そうじゃない。決してお前と座りたいんじゃなくて今日は俺が前楽にアタックを仕掛けるための喫茶店なのだ!それをこの天使はわかっちゃいなかった。


「……はぁ」

「なんで盛大にため息!?」


 俺とメズルフのやりとりを見て前楽がふふっと笑った。


「祈里とメズルフって仲がいいのな」

「でしょでしょー?」

「……はぁぁぁぁ」


 能天気に笑うメズルフと前楽を見て思わず二度目のため息が口から出て行くのだった。

 そんなこんなで前楽の正面に俺とメズルフが腰掛ける形に収まり、ようやく3人でのカフェタイムが始まった。


「早速パンケーキ頼もうぜ。おすすめなんだろ?」

「そうだね。はい、楽。メニュー表だよ」

「ありがとな」


 すかさずメニュー表を楽に手渡す。普段ならこんなこと絶対に面倒くさくてしないだろう行動だったが今日の俺は一味違うのだ。今日の俺の作戦、それは……『祈里の行動を全コピ大作戦!!」つまり、祈里ならきっとこう、行動する

 というシチュエーションを見事にこなすことで祈里の本来の魅力を再確認してもらうのだ。

 この間も祈里に出てきてもらったその時だけ針が動いたのだ。つまり普段通りの祈里であることこそ求められていることなのだ!という結論に至り昨日は懸命に祈里の普段の動作や以前にカフェに行った時の記憶をたどった。


「やっぱり祈里は気がきくな」


 前楽の自然な笑顔が俺に向けられ、俺も内心安堵した。


「ちょっとー!私もメニューみたいですー!」

「お前なぁ……」

「楽、一緒に見ましょ!」

「!?」


 そうやって身を乗り出したメズルフの服を俺はぐぐいと引っ張った。ぐえっという少し苦しそうな声がメズルフから漏れたが、強引に席に引き戻すことには成功した。


 あぶないあぶない。メズルフの今日の格好は前屈みになったら胸の谷間が見えかねない。超健全男児である俺にそんなものを見せては絶対にならないのだ。簡単に天秤の針はメズルフに傾く事だろう。


「えっと、メズルフは私と一緒に見ようね?」

「ちょっと!? そんなに強く引っ張らなくても!」

「いーいーかーらー!!!」


 頭が空っぽのメズルフはすぐに自分の置かれている状況を忘れてしまう。俺が誘導しないとすぐに世界を崩壊させてしまうだろう。しっかりとしなければ。


「世界崩壊」


 メズルフの耳元でぼそり。前楽には気が付かれない程度の声でメズルフに伝えるとまばたきを数回してから、俺に向かってうなずいてみせる。


「わかりました!」


 ばっちこーいといわんばかりのいい笑顔で俺に向かってそう言い放った正面には、意味がわからないと言う顔をした前楽がいる。


「ん? メズルフ? 何がわかったんだ?」

「え!? あ、いえ、えっと!」


 どこまでもアホな天使に俺はもう一度ため息をついてから適当に嘘をついた。


「あんまり食べすぎないでねって言ったの」

「え!? そんなに食うのか、こいつ?」


 変なところで驚かれてしまった。確かにこの間のハンバーグのことを思えば食べる方なのかもしれない。


「………」

「どうしましたか、楽?」

「あ、いや、なんでもねぇ」


 そう言って前楽はにやにやと笑った。また何かを企んでいるような顔をしているのは明白で、俺は食事前だと言うのに胃が痛くなりそうだった。



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