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第八話 救世主とマル秘事項⑤

 俺は4人分のお茶と、貸し受けにポテチとかっぱえびせんを食卓に持って行った。


「サンキュー!」


 前楽はそれを笑顔で受け取ると早速一口飲んでいる。俺は真心とメズルフのもお茶を配るが、二人はBLゲームを進めようと画面に食い入るように見つめていた。


「結局遊んでるんだね。」

「ああ。俺、帰ろうかな」

「まぁまぁ、せっかく来たんだしゆっくりしていきなよ」


 思わず同情したくなるこの状況に俺は俺に同情した。


「それにしても、メズルフがあれだけやっても針が全く動かなかったのに、真心はどうやったの?」


 素朴な疑問が口から出る。

 先程のイベント(接吻)を終えゲーム内の大学生と、天使は仲良く手を繋いで家路に帰っているようだ。


「ヘルモードはね、押し続けても駄目なんだ」

「押し続ける?」

「そう、レズベルド……、あ、天使の名前ね? レズベルドの気を引くために主人公は他の子に気がある振りをする必要があるの」

「恋の駆け引きってやつ?」

「そうそう、なかなかよくできたゲームだよね」


 真心は楽しそうに俺を向いて笑うと、またすぐにゲーム画面へと目を戻した。


「あとね、選択肢は5秒以内に押さなきゃいけないのよ!」

「何その鬼畜仕様!?」

「流石ヘルモードですね!」

「そう言う問題!?」


 そして、選択肢で何を選べばいいのかはすべて真心の頭に入っているようで、選択肢が出るたびに真心は瞬時にボタンを押していく。恐るべし、真心の記憶力と言うか腐女子パワーというか。通りでストーリーがサクサクと進んでいくと思ったよ。


 俺はそんな真心を横目で見てから前楽の隣に座った。


「……凄いね。ゲームでそこまで疑似体験ができるんだね」

「……」

「楽?」

「あ、ああ、悪いちょっと考え事をしてた」

「??」


 隣でポリポリとえびせんを食べる楽はいつの間にか食い入るようにBLゲームを見つめている。

 どうした、俺。さっきまであんなに拒絶反応を示していたのに。


 俺は自分であるはずの俺が何を考えているのか分からずに少し変な感じがした。


「あ、あのさ?」

「どうしたの、楽?」

「さっき、このゲームの奴が俺に似てるって言ってただろ?」

「ああ、この状態じゃ全然似てないけどね」

「どういう事だ?」

「真心が来る前まではね、レズベルドっていう天使が全く主人公に見向きもしなかったの。メズルフってばヘルモードでゲームを始めちゃってね。意地になってたの」

「……?」

「ふり見てくれない人を、どうやって振り向かせようかをメズルフは一生懸命考えてたみたい」

「その答えが、さっき真心が言ってた?」

「うん。気を引こうと別の人に気がある振りをするって言うのがこのゲームの正解だったんだって」

「なるほどなぁ。それで、振り向かない奴が俺だったって訳か」

「そういうこと」


 まぁ、本当は前楽が勇気を出して祈里に告白してほしいだけ。なのに変に拗らせたから何とか解消しようと躍起になってるだけなんだけど。とは口が裂けても言ってはいけない。


「まぁ、ゲームの話だからね」

「……そうでもないかもしれないぞ?」

「へ?」


 前楽の真剣な横顔に胸騒ぎがした。

 俺は前楽の視線の先をたどると、そこには金色の髪が揺れている。


(まさか……)


 一途に自分に思いを寄せる(と勘違いしている)メズルフに、徐々に惹かれていってるんじゃないだろうな!?


 丁度その時視線を感じたのかメズルフは画面の近くに座っていたメズルフは俺と前楽の方を振り返った。


 キョトンとした目は大きめな青い瞳。

 サラサラの髪の毛が振り向いた拍子に綺麗に揺れた。

 普段憎まれ口しか叩かない唇も淡いピンク色をしていて閉じてさえいれば可愛い。


 控えめに言ってメズルフは、可愛いのだ。

 天使と言っても差し支えの無い……まぁ、本物の天使だが……容姿の外人の女の子。


 そんな女の子が突然現れて、自分を好きって言ってきたら?


「何見てるんですかー?背中に張り紙貼る悪戯とかしてないでしょうね?」

「……ないなぁ」

「へ?」


 いくら可愛くてもこの口を開いた瞬間の残念感は半端ない。こいつに恋に落ちることは俺はなさそうだ。

 俺は俺の心の声に安堵した。だって、前楽は俺なんだ。俺と同じように感じているはずだ。

 そしたら、やっぱり祈里の事が好きに決まっている。


「……なぁ、メズルフ?」

「はい?」


 前楽が突然立ち上がる。

 声をかけられたメズルフも目をぱちくりとさせて前楽を見た。

 そして一呼吸おいてこう言ったのだ。




「俺と付き合ってみないか?」



 世界が崩壊する前に俺の心が崩壊しそうな一言だった。

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