表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/94

第八話 救世主とマル秘事項②

 放課後、約束通りに真心と前楽は玄関で待っててくれた。


「ごめん、遅くなったね」

「掃除当番、おつかれさん」

「さぁ、祈里の家に行こう!」


 真心は妙に張り切ってそう言うと玄関を出て行く。


「なぁ、祈里? なんでアイツそんなに張り切ってるんだ?」

「……さぁ?」


 真心の張り切り用に少し戸惑いつつ、3人で家まで歩いた。


「ここだよ」

「へー! ここが祈里の家かぁ!」

「来るの久々だなぁ。まだ、アレ持ってるの?」

「へ?あ、アレって?」


 まずい。真心と祈里の思い出話の類は聞かれてもさっぱりわからない。


「忘れたの? 薄情だなぁ!」

「お、お、覚えてるって! その、アレだよね? アレ!」

「この反応は覚えてねぇな」

「もう! 信じらんない!」

「ごめん、本当になんの事?」

「!?」


 あ、ますますマズイ。

 真心の表情が強張っている。このままだと、俺が祈里じゃないとバレるか、それとも真心と祈里の友情にヒビが入るか、どの道いい方向には進まない。


 すると、その時、家の中からドタバタと足音が聞こえてきた。この騒がしい音は間違いない。メズルフが話し声に釣られて来たのだろう。


 扉が乱暴に開いた。


「楽!! 真心さん!!」

「あぁ!! メズルフ!」

「よぅ」


 真心と楽が軽く挨拶をすると、メズルフはいきなり泣き出した。


「ふえぇぇん!真心さん!!私に救いの手を差し伸べてはくれませんかぁぁぁ!」

「へ!?ちょ、ちょっと!?」


 先程の不穏な雰囲気を揉み消す程、メズルフは泣きじゃくる。


「も、もぅ。私にはどうしたら、良いか、わからなぐで、ぐすっ!!」

「あぁ、あぁ、こんなに思い詰めて!! 中でちゃんと話を聞いてあげるから。祈里、入るわよ?」

「あ、うん、どうぞ」


 そう言うと真心はメズルフを半ば抱きかかえるようにして中へと入っていく。

 取り残された、俺と前楽は顔を見合わせた。


「えっとぉ……入って?」

「あ、うん。お邪魔します」


 そう言って俺ら二人は家の中へと入っていった。


 前楽は終始あたりをキョロキョロしたりで落ち着かない。ああぁ、俺よ。そんなにジロジロ見ちゃ失礼だろう!!と内心で俺は俺を叱咤するがその想いなど届かない。


「あ、あのさ? そんなに見られると……」

「わりぃ!!」


 せめてもの言葉を前楽に書けると慌てた様子で畏まった。苦笑いが必然的に出てくる。


「二人は、リビングに行ったのかな?」

「なぁ、メズルフの奴あんなに思いつめてるのか?」

「へ?」


 そう言えば、ゲームの話など一切していなかった。メズルフが泣いていたのは他でもない、ヘルモードのゲームを1週間かけても微動だにしない好感度のあげ方を真心に教えてもらいたくて泣いていたにすぎないのだが、前楽からしたら訳が分からない事態になっているだろう。


「メズルフが、そこまで俺を想ってくれていただなんて……」

「は?」


 何を言っているんだこの俺は!!頭がわいているのか!?と思ったが、よくよく考えてみる。前楽にはメズルフが『私は楽が好き』と明言している。そして今朝は『メズルフが体調崩してるのってあんたの所為らしい』とも聞かされていた。そして、実際あのアホ天使は取り乱して真心に泣きついた。


 結論から考えると『メズルフが俺の事が好きで、思いつめてしまった』となった。


 って事だ。

 いやいやいやいや!!ちょっと待ってくれ!俺は慌てて弁明を入れる。


「え、えっと。ちょっと誤解が……」

「誤解?」

「あ、あのね? メズルフが楽の事を好きって言ったの、あれは、ほら、違うんだよ!」

「祈里?」

「外人ってこう、感情をオープンにするじゃない!?」

「オープン?そうか?」

「そう!絶対にそう!! だから、その、メズルフの『好き』は『LOVE』じゃなくて、『LIKE』なの」

「どうして、祈里そんなに一生懸命になってるんだ?」

「へ!?!?」


 確かにそうだ。メズルフの感情を何故俺が知っているっていう話になるよな!?

 いや、仲良しって事にして悩みを聞いたって事にして……ああああ!もう!どうしてこうややこしくなるんだ!!


「まさか……?」


 前楽が何かを言いかけた時。


 --カタン


 俺の手の中で何かがカタンと音を立てた。


「……!?!?」


 俺は驚いて手を見る。しかし、もちろんそこには何もない。


「今なんか音がした?」

「え!? 聞こえたの?」

「ああ」

「私にもわかんない。音が聞こえたよね。時計の針がカタンって感じの……?」


 そこまで言って俺は目を見開いた。そうだこの感触一回だけ味わったことがある。

 楽に告白をされずに、一番端まで一気に針が傾いたあの時の音にそっくりだ。



 それはつまり、手の中の『正道の天秤』が動いた音に違いなかった。

 一番端から動いた、と言う事は……。


(いい方向に、むかった……のか!?)


 天秤をこの場で出すわけにもいかず、俺は自分の手のひらをじっと見つめるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ