第七話 仮想現実と男男恋愛④
ジュージューと、いい音がキッチンに響き、お肉の香ばしい匂いが辺り一面に充満する。
俺は鼻歌交じりでハンバーグを焼いていた。
手元のフライパンにあるハンバーグは全部で3つ。
(俺の分と、メズルフの分。そして、祈里の分だ)
俺は朝、祈里が用意してくれた朝食の事を忘れてはいなかった。
炊いたご飯、みそ汁、そしてちょっとした野菜を盛り付けたメインのさらにハンバーグを添える。
我ながら出来栄えは上々だ。
ひき肉も野菜も、今朝祈里が使って良いと言ってくれたクレジットカードで買ってきたものだし、何より祈里に俺の作ったハンバーグを食べて欲しくて、俺は皿にハンバーグを盛り付けてラップをかけた。
近くに置いてあったメモ帳に『祈里へ、朝食ありがとうな。これ、食べてくれ』と書いておいておいた。
「さってと、戻るか」
俺は二人分のごはんをトレイに乗せて、リビングにいるメズルフの元へ移動した。
「あ! ちょ、ちょっともう戻ってきちゃったんですか!?」
俺を見たメズルフは慌ててそう言った。
「あ? なんだ、どうかしたか?」
「い、いえ!なんでも!」
「……ゲームどうなった?」
「あー……それが、何と言いますか。全く進みませんでした」
「だろうな」
「だろうなってなんですか!」
「全く期待はしてなかった」
「ひ、酷い!! ひどい言いようです!!」
「いや、ヘルモードだしよ? それより、ハンバーグ食おうぜ?」
「いえ!食べません!!」
「なっ!?」
「針が動くまで、私は食べません!!!」
「意地になるなって!」
「なってません!!!」
メズルフはそう言うと画面と再び睨めっこを始めた。
俺は仕方がなくハンバーグを一口。肉汁が口の中に溢れる。即興で作ったケチャップベースのソースは絶妙に美味しい。
隣ではメズルフがちらちらとこっちがハンバーグを食べるのを恨めしそうに見る。お腹までぐ~と音を立てていて、今にも涎が出そうな顔だ。
そんな目で見るなら食えばいいのに。
「うん、上出来。うまいぞ、メズルフ。冷める前に食えよ」
「絶対! 好感度を!! 動かすまでは食べません!!」
「ったくしょうがねぇなぁ……」
人にハンバーグを作らせておいてこれである。
「まぁ、いいや。俺、宿題だけこなして来る。祈里は絶対宿題を忘れないタイプの奴だから」
「おお、いい心がけですね! これ以上矛盾が生じては、もう破滅するしか道はありませんから」
「破滅……そう言えば、こっちの針はどうなったかな?」
俺は両手を合わせて『正道の天秤』を呼び出した。
そして呼び出した瞬間、カタン。
音を立てて、レッドゾーンへと傾いていった。まぁ、そりゃそうかと、針を確認するや否やすぐに消し去った。いくら見てもそんなに変わることなどないだろう。
「だよなぁ」
「これで針が戻って行ってたらこのゲームを攻略する必要なんてないですよね……」
「いや、そもそもこのゲーム攻略、意味をなしてないぞ今のままじゃ」
「でもさ、この天使の反応、あっちの楽とちょっと似てるんですよね」
「……どういうことだ?」
「脈無しって言うんですかね。興味がまるでこっちに向いていないというか」
「ふぅん……じゃぁ、この天使を攻略したら、少しはアイツに近づけるかな……?」
「ええ、きっと!」
「……じゃ、その糸口はメズルフに任せたから!」
「え!? ちょ、ちょっと!?」
「ハンバーグはちゃんと食えよ?!」
「針が動いたら食べますね!」
「強情な奴……」
「見ててくださいっ! 任されたからには必ずこのクソ天使を……」
「今、クソって言ったな」
「ち、違っ!! ほら! 楽の口癖が移っちゃったじゃないですか!!」
「人の所為にすんなよ」
「あーもう! さっさと宿題でも何でもしてください!! 私が攻略して見せます!!」
「ああ、任せた!」
「……ええ、まかされました!」
俺は軽い気持ちでそう言った。
確かに俺にも非はあると思うが、予想できないだろう?
メズルフがこのゲームの天使を攻略するのに1週間も要するなんて。




