第七話 仮想現実と男男恋愛③
オープニングが終わると、物語は突然始まった。
ゲーム画面には天使への好感度ゲージが表れた。今はまだ出会っていないからか、薄暗い。
大学生の主人公が川辺をランニングをしていると、空が一瞬だけ明るくなる。眩しさに見上げると空から白い羽衣に包まれた羽の生えた人が落ちてくるようだ。
あなたは……
▷助ける?
▷助けない?
と言う選択肢が突然現れた。
「ちょっと待て。始めて1分経たない内に選択肢が出てきたぞ。こんな頻度で選択肢が出てくるゲームなのか!? ……しかも、何だ、このお決まりな選択肢は!!」
思わず俺はツッコミ纏い不満を漏らす。1分おきに選択肢が出続けるゲームだったら面倒くさすぎる。
「助けてあげましょ? 可哀想ですから!」
一方でメズルフは慈悲深い天使のような顔をしている。まぁ、本当は天使だからこれが正しいのだが、天使らしい事を言うのが珍しすぎる。それもあって俺はわざと違う提案をしてみたくなった。
「いや、物語的にはそれが正しいだろ? だから、敢えて助けないを選択したらどうなるか見てみたくないか?」
もしかしたら、これが天使じゃないキャラクターへのフラグなのかも知れない。こんな序盤で出てくる選択肢だ。何か特別な意味もあるのかもしれない。
「た、確かに。でもあの天使さん、助けられなかったらどうなっちゃうのですか?」
「それを見るんだろ? まぁ、ゲームだから気楽に行こうぜ?」
「むぅ!! 楽は悪魔ですか!」
「おぅ。ゲームの中ならいくら非道でも構わないだろ?」
「人にやさしくしないと罰が当たりますよ!?」
「ご忠告どうも。ゲームだから罰なんて当たらないと思うけどな。さぁて、選んでみるか」
俺がコントローラーのボタンを押すと『▷助けない』が点滅する。
途端、画面が赤くなった。
「げっ!? な、なんだこれ!?」
「ほら!! 言ったじゃありませんか!!」
「ホラーだろ!? こんなん!」
「あ、でも……何か、書かれていますよ!」
『ヘルモードへようこそ』
そこには赤い字でこう書いてあった。
そして、右上にあった好感度ゲージが通常表示になったかと思うと、半円を描いていたはずのゲージが正円となり、好感度を示す針が一番低い場所へとグイと動いた。
「……今の選択肢まさか……」
「……難易度選択用の選択肢だったようですね。ほら、罰が当たった」
「う、やり直せばいいんだろやり直せば!」
「えー!もう一回オープニング見るの、面倒くさいですよ」
「確かに面倒くさいな。このままやっちゃおうか」
「どんどん進めちゃってください」
俺らはこのまま『ヘルモード』でラブ☆エンを遊ぶことにした。
結論から言おう。
それは完全にこのゲームを舐めた行為だった。
俺が選択肢を選択するごとに通常のゲームだったらだんだんと好感度が上がって行く。
けれども、ヘルモードはプレイしてもしても、好感度などみじんも上がらなかった。
4時間が経過して、辺りはもうすっかり夜になる。
それでも、俺もメズルフも躍起になってゲーム内の天使の気持ちを己に引き込もうとあーでもないこうでもないと議論を続けた。
「ほ、ほら!! 楽! 今度こそ天使様と一緒に家に帰るのです!」
「わかってるよ! 同じ家に住んでるのにまるで話を聞かない天使だな! クソが」
「天使がクソなんじゃありません! 楽の口説き方が悪いんです!!」
「お前だって一緒に選択肢選んでるだろうが!!」
「あー! 人の所為にして!! 楽がヘッポコだから口説けないんでしょう!?」
「そう言うならお前がやれよ!!」
「……わかりました! 私がやってみましょう!」
そう言うとメズルフはコントローラーを俺から奪った。
「俺疲れたから、ちょっと休憩するわ」
「えー!?ちょっと、人任せですか?!」
「だって、ゲージ、まるで動かねぇじゃん。まぁ、夜ご飯作っておいてやるからさ」
「ハンバーグ作って」
「いきなり難易度たけぇな!?」
「……え? 作れるんですか? 『無理だよ、オイ!』って言われると思ったのですが」
「は? 作れるけど?」
「……!?」
「なんだよ、その滅茶苦茶意外そうな顔!!」
「いえ、脱いだものは脱ぎっぱなしで、『キングオブだらしない』の楽がまさかハンバーグを作れるとは思わないじゃないですか」
「てっめ、作ってやらないぞ?」
「えええ!? う、うそですって! 作ってください!! ……それにしても料理するんですね?」
「……まぁな。俺んちさ。年下の兄妹が多くてな? 両親共働きで帰り遅いから、晩飯は良く任されるんだ」
「へぇ! そう言う理由があったのですか!」
「ま、そんなわけだからそっちよろしく。このまま塩対応の文章を読み続けてもなんの得にもならねぇ」
「そこは愛天使メズルフにお任せください!」
「……その設定まだ続いてたんだ」
俺は半分呆れながら、ゲームの前を去り、台所へ向かうのだった。




