第七話 仮想現実と男男恋愛①
「……って、なんでこうなるんだよ!!!」
俺は今日の昼休み、確かに「そっか」と言ってしまった。
つい、真心の理論に押されて、まるで真実であるかのように受け取って納得してしまっていた。
一筋の希望の光さえ見た。
だが、俺はその時そもそもBLが実際にどんなものかを知らなかったのだ。
少女漫画よろしくのイケメン同士がイチャイチャするBLゲームを俺は一つ手に取ってすぐに紙袋に戻した。
直視ができない。
「なんでって、メズルフが貸してほしいっていうから」
そう、今は放課後。
午後の授業をほぼ無言で終えた俺らは今、真心の家の前で待っていた。真心の家は学校のすぐ近くで、帰り道の最中にあり立ち寄ったのだ。
「いやぁ、ありがとうございます! 今日早速やってみますね!」
「それ、とってもおすすめだから。絵も綺麗だし、ストーリーは太鼓判を押してあげる」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
「じゃ、また明日ね!」
「はい。また明日!」
「またね」
そう言って俺らは真心と別れた。
「ふぅ、間一髪バレずに済みましたね!」
メズルフのこの一言である。
「あの言い訳に無理があると思わなかったのか?」
「え? どうしてです? 上手くいったじゃないですか!」
「たまたま、な?」
「じ、実力ですよ!?」
「ゲームの話なんて一切話題に出てなかったのに? 急すぎるっての」
「ああ、それですか。あの子がゲームが好きなのは分かったので!」
「……? どうして?」
「ふっふっふ! 教えて欲しいですか!?」
「え!? ……ああ」
俺でさえ、真心がゲームが好きだと気が付かなかったのに?俺は首を傾げた。もしかして、こいつには何か天使的な凄い能力があって、読心術とかで心を読めたりするのだろうか?、と俺はメズルフをじっと見た。
「黒髪パッツンで眼鏡……絶対にオタクでしょ!!」
「見た目かーい!!! ってか、レッテル酷くね!? 黒髪パッツンで眼鏡でもオタクじゃない人沢山いるからな!? むしろ違う方が圧倒的に多いからな!?!?」
「そんな事ないですよ! このメズルフの目に狂いはありません!」
「あるから!! その自信だけはどこかに捨ててこい!! 痛い目を見る前に!!」
「ええええぇぇぇ」
ああ、やっぱりこいつアホ天使だ。
「それにしてもそんなもの借りてどうするんだよ?」
「え? 楽にやってもらうに決まってるじゃないですか」
「……俺がやるの!?!?」
「そりゃそうでしょ。楽と付き合うにはまず、貴方がそう言うのに慣れなきゃ」
「そう言うのに?」
「男を好きになるのに、とはっきり言った方が良いですか?」
「俺が好きになる必要なくない!?」
「でも、近しい感情が芽生えなきゃ攻略なんてできませんよ?」
「出来るって! ってか、男好きになったら元に戻った時、祈里を愛せなくなるだろ」
「両方でいいじゃないですか。ジェンダーの壁を越えて行きましょう!」
「良いこと風に言うなよ!」
そんなどうしようもない話をすること15分。
俺とメズルフは祈里の家に到着した。
「ただいま~」
とつい口から言葉が出る。
「誰もいませんけどね」
「ウッせーな」
メズルフがしらっとそんな風に言ってくる。
「……おかえりなさい」
ぼそり。
背中からメズルフがそう返してくれた。
「ただいま」
振り向いて笑うと、メズルフはむすっとした顔を返してくる。
「さっさと家に上がってください。私が入れないんですけど!」
「だー、もう。一瞬だけ可愛げがあると思ったんだけどな!!」
「一瞬だけは余計です。私はメチャクチャ可愛い天使なんですから」
「はいはい」
そんな他愛のないやり取りが祈里の家の玄関に響くのだった。




