逆鱗
あれから一日、俺は魔王城最深部にいた。
ただ1人で黄昏ていたわけではない。アイギスがどうしても会いたいと言うので、連れてきたのだ。
「あなたは」
「ん?」
アイギスが問いかける。
「あなたは、人間が嫌い?」
「そうだな………」
そう言いながら、俺は過去…転生する前を思い出す。代わり映えの無い退屈な日々、学校の冷たい空気、戦争により日々減っていく人々。あの世界は良くは無いのだろう。人間とは、どれほど愚かな生き物なのか…俺はあの世界で生活していたから嫌ほどわかる。それでも…
「特別嫌いというわけではない。」
「そう。じゃあ、なんで人間と敵対するの?」
「俺達魔族が、お前らの国に攻め込んだか?先代も、その前も、俺達魔族は人が攻めてくるから撃退していただけだ。腐っても俺は王、民は守らねばならぬのでな」
「そう…いつも愚かなのは人間。でも、私は滅ぼしたくない。」
一瞬儚い表情をしたものの、直ぐに無に戻る。その目はどこか…辛そうだ。
「今回の戦い、私達人間は急に攻めることを決定したの。理由は…あなたが、まだ幼いから。まだ、10にも満たない幼い魔王であれば、殺せるはずだと。」
「それで?」
「今代の勇者は、戦闘能力ではそこまで強くない。でも、異能は魔族殺しに特化している。残念だけど、多分あなたには勝ち目がない。その歳で異能を使いこなすのは無理があるはず。」
「だから、降伏して。そうすれば、この国も、あなたも、無事に助かる」
「…父が言っていた言葉がよく理解出来る。ああ、面白い…」
「面白い…?」
「ああ、そうとも。お前たち人間は、いつの時代も愚かなものだな。俺達に降伏しろと?確かに命は助かろう。だが、命と引替えに俺達は尊厳を、それ以上に大事なものを奪われる。」
「奴隷のようにこき使われ、死んでいるのと変わらぬ日々。それに降れと?…ああ、面白い………」
「……………っ」
無意識に、エスカの体からは魔力が溢れていた。それはともすれば、この世の全てを消し去ってしまうほどの圧倒的に濃密な魔力。
「あまり俺を舐めてくれるなよ、人間共。俺は他の魔王ほど優しくはない。貴様らの国、ひとつずつ潰してやろうか」
「…交渉は、決裂した。…勇者達は予定の日に攻め入る。」
辛そうな表情を浮かべて語るアイギス。そのまま帰ってしまったようだ。
「…エスカ様」
いつの間にか傍らにいたディアボロスが問いかける。
「エスカ様、よろしかったのですか?あのものを始末せずに」
「あれはただの人形だ。ここに来る勇気がないから、あの物にメッセンジャーとしての役割をさせていたに過ぎぬ」
殺す価値もないと言い放つ。それを受け、ディアボロスは
「では、私は再準備させておきます。」
「…?再準備?」
「えぇ、人間共の国を消すのでしょう?少なくとも、代々勇者を排出している国はそこに住む者達諸共消し去るおつもりのはず」
「よく分かるな、という顔をされても困りますよ。魔力が漏れております。」
しまった制御出来てなかった。鎮めて鎮めて…
では、と言い残し消えたディアボロス。あいつほんとに怖いよね…
「つくづく愚かなものだ。人形になりつつも、俺ならば分かってくれると…助けてくれると信じるとはな」
さて、初めての魔王業だ…!頑張るぞー!と1人叫ぶエスカ。それを映像で見る、60〜70代の老いた魔族。それに跪く、ディアボロス。
「エスカが人の国をな…」
「は」
「あれにそこまでの力があれば良いがな…まあ、なんにせよ儂には関係ないわい。もう、引退したしの」
「まあ、経過はわかったわ。続き頼むぞ。」




