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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第二十一章 慣れない酔っ払いと

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第99話 最悪のタイミングでの帰寮

 考えてみれば時間が悪かった。カウラの自爆で『月島屋』をさっさと引き払った時間は9時前だった。到着したのはほぼ全隊員が起きていて暇を持て余している時間帯だった。


煌々と玄関を照らす光の奥では談笑する男性隊員の声が響いてきた。足を忍ばせて玄関に入り、床にカウラを座らせて靴を脱いだ。


カウラを萌えの対象としてあがめる『ヒンヌー教徒』に見つかればリンチに会うというリスクを犯しながら自分のスニーカーを脱ぎ、カウラのブーツに手をかけた時だった。


「おっと、神前さんがお帰りだ。やっぱり相手はベルガー大尉ですか、隅に置けないですね」 


 突然の口に歯ブラシを突っ込んだ技術部の伍長の声に誠は振り向いた。いつの間にか食堂から野次馬が集まり始めている。その中に菰田のシンパであるヒンヌー教団の信者達も混じっていた。


 『ヒンヌー教』の開祖菰田邦弘主計曹長に見つかれば立場が無いのは分かっている誠はカウラのブーツに手をかけたまま凍りついた。


「オメエ等!そんなにこいつが珍しいか!」 


 そう怒鳴ったのは駐車場から戻ってきたかなめだった。入り口のドアに手をかけ仁王立ちして寮の男性隊員達をにらみつけた。さすがに誠の事が嫌いなヒンヌー教徒達も敵とみればすぐ射殺するかなめが相手ではどうすることもできなかった。助かったと言うように誠はカウラのブーツを脱がしにかかった。


「なんだ、西園寺さんもいたんじゃないですか……」 


 眼鏡の整備班の伍長の言葉を聴くとかなめは土足でその伍長のところまで行き襟首をつかんで引き寄せた。


「おい、なにか文句があるのか?え?」 


 すごむかなめを見て野次馬達は散っていった。首を振る伍長を解放したかなめがそのままカウラのブーツの置くところを探している誠の手からそれを奪い取った。


「ああ、こいつの下駄箱はここだ」 


 そう言って脇にある大きめの下足入れにブーツを押し込んだ。


「神前、そいつを担げ」 


 そのまま自分のブーツを素早く脱いで片付けようとするかなめの言葉に従ってカウラを背負った。


「別に落としても良いけどな。と言うかむしろ落とせ。コイツは恋愛禁止令下にあるオメエに恋心を抱くと言うちっちゃい姐御に逆らう不埒な奴だ。神前、落とせ。アタシが許す」 


 ふざけたことを言いながらスリッパを履いて振り向いたかなめを見つめた後、そのまま誠は階段に向かった。


 食堂で騒いでいる隊員達の声を聞きながら誠はかなめについて階段を上った。そのまま二階のカウラの部屋を目指す誠の前に会いたくない菰田が立っていた。


「これは……」 


 何か言いたげに菰田は誠の背中で寝入っているカウラを指差した。


「なんだ?下らねえ話なら後にしろ!射殺されたいなら別だが」 


 かなめの高圧的な調子の言葉に菰田は思わず目を反らすとそのまま自分の部屋のある西棟に消えていった。かなめは自分の部屋の隣のカウラの部屋の前に立った。


「これか、鍵は」 


 そう言うと車の鍵の束につけられた寮の鍵を使ってカウラの部屋の扉を開いた。


 閑散とした部屋だった。電気がつくとさらにその部屋の寂しさが分かってきて誠は入り口で立ち尽くした。机の上には数個の野球のボール。中のいくつかには指を当てる線が引いてあるのは変化球の握りを練習しているのだろう。それ以外のものは見当たらなかった。カウラがはまっているパチンコの台だが、結局寮は狭すぎるので別に部屋を借りてそちらに置いてあるらしいと誠は聞いていた。だが、それだけにきれいに掃除されていて清潔なイメージが誠に好感を与えた。ある意味カウラらしい部屋だった。


「布団出すからそのまま待ってろ」 


 そう言ってかなめは慣れた調子で押入れから布団を運び出した。これも明らかに安物の布団に質素な枕。誠は改めてカウラが戦うために造られた人間であることを思い出していた。


「ここに寝せろ……それ以上の事は考えるなよ。変なところが立ったりしたら射殺する」 


 かなめの言うことにしたがって誠はカウラを敷布団の上に置いた。


「なあ、オメエもこいつのこと好きなのか?少なくともカウラの深層心理にはオメエの事が深く刻まれているらしい。それはアタシにも分かる」 


 掛け布団をカウラにかぶせながらかなめは何気なく聞いてきた。その質問の唐突さに誠は驚いたようにかなめを見上げた。


「嫌いなわけないじゃないですか、仲間ですし、いろいろ教えてくれていますし……でもそれを愛とか恋とか言う物かと言うと僕には良く分かりません。僕は所詮は遼州人なんで」 


 かなめが聞いているのはそんなことでは無いと分かりながらも、誠にはそう答えるしかなかった。



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