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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第二十章 大人になれば分かること

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第96話 潰れるカウラと呆れる人々

「おきゃくひゃん。つきだしですよ?」 


 そう言ってカウラは震える手で二人の前につきだしを置いた。


「……どうも……」 


 そう言ったひよこを今度は急に涙目で見つめるカウラがいた。


「どうも……ですか。すいましぇんねー。わたひは……」 


 そのまま数歩奥の座敷に向かう通路を歩いた後、そこに置かれていたスリッパに躓いて転んだ。思わず立ち上がった誠はカウラのところに駆け寄っていた。


「大丈夫ですか!」 


「神前……このまま……」 


 そこまでカウラが言ったところでかなめが立ち上がった。誠は殺気を感じてそのままカウラを二階へあがる階段のところに座らせた。


「おい!神前、帰るぞ!このままアルコールのある環境にカウラを置いとくと本当に急性アルコール中毒で死ぬ可能性がある!撤収だ!急げ!」 


 そう言うとかなめは携帯端末をいじり始めた。


「でも運転は誰がやるんですか?僕も西園寺さんも飲んでますよ」 


 誠達が月島屋に来たのはカウラの運転する『スカイラインGTR』である。運転手が居なければ車は動かない。


「だから今こうして運転代行を頼んでるんだろ?……はい、運転代行を頼みたいんですが……」 


 あっさりと帰ろうと言い出したかなめのおかげで惨事にならずに済んだということで女将の春子は胸をなでおろしていた。


「じゃあ……焼鳥盛り合わせ二つ!それに烏龍茶二つ!」


 とりあえず大ごとにならなかったことに安心してか、元気よく西が注文する。


 誠はただ呆然と彼等を眺めた後、カウラに目を向けた。彼女の目はじっと誠に向けられていた。エメラルドグリーンの瞳。そして流れるライトグリーンのポニーテールの髪に包まれた端正な顔立ちが静かな笑みを浮かべていた。


「おい!もうすぐ到着するらしいから行くぞ!それとカウラはアタシが背負うからな。神前が負ぶって良いのはいつでも神前に身体を任せる気満々の『許婚』のかえでとその家臣達だけで良い」 


 有無を言わせぬ勢いで近づいてきたかなめはカウラを介抱している誠を引き剥がすと、無理やりカウラを背負った。


「なにするのら!はなすのら!」 


 カウラが子供のように暴れた。女性としては大柄なカウラだが、サイボーグであるかなめの腕力に逆らえずに抱え上げられた。


「じゃあ、女将さん!勘定はアメリアの奴につけといてくれよ!」 


 そう言うと、突き出しをつつきながら談笑しているひよこと西を一瞥してかなめはそのまま店を出て行った。誠は一瞬何が起きたのか分からないと言うように立ち尽くしていたがすぐにかなめのあとを追った。


「別に急がなくても良いじゃないですか。それにカウラさんかなり飲んでるみたいですよ。すぐに動かして大丈夫なんですか?」 


 抗議するように話す誠を無視するようにかなめはカウラのスポーツカーが止まっている駐車場を目指した。


「こいつなら大丈夫だろ?生身とはいえ戦闘用の人造人間だ。頑丈にできてるはずだな」 


「うるはいのら!はなすのら!」 


 ばたばたと暴れてかなめの腕から降りたカウラはそのままよたよたと駐車場の中を歩き回った。


「まったく酔っ払いが……」 


 かなめはそう言うと頭を掻きながらカウラを見ていた。


「こいつもな、もう少しアタシのことを気にせずにいてくれると良いんだけどな……鈍い神前の野郎の心を開くことに関してはかえでなんて言う色情狂の敵じゃねえって言うのに」 


 ポツリとかなめがつぶやいた。


「え?」


「何でもねえよ!」


 誠を一瞥するとかなめは静かに夜寒の空を見上げた。



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