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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第十七章 作業は快調に進むものの

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第86話 決まらない題名

「題名未定ってなんだよ」 


 受け取ったかなめがつぶやいた。


「プロットを組み合わせただけだからしょうがないのよ。なに?それともかなめちゃんが考えてくれるの?」 


 アメリアが目を細めるのを見てあからさまに不機嫌になったかなめは仕方なく台本を開いた。


「役名は……ここか」 


 カウラはすぐに台本を見て安堵したような表情を浮かべた。深刻な顔をしていたのはランだった。彼女はしばらく台本を自分の机の上に置き、首をひねり、そして仕方がないというようにページを開いた。


「ブラッディー・ラン。血まみれみてーな名前だな。アタシの過去を知ってる人間からすれば当然の名前か……これも宿命って奴か」


 ランは諦めたように大きなため息をつきつつそう言った。 


「いいじゃねえか。……勇名高き中佐殿にはぴったりであります!」 


 いやみを言って敬礼するかなめをランがにらみつけた。そして誠も台本を開いた。


『マジックプリンス』 


 誠はまず自分の目を疑った。だが、そこには明らかにそう書いてあった。そしてその下に『神前寺誠二』と名前が入った。


「あの、アメリアさん?」 


「なあに?」 


 満面の笑みのアメリアを見つめながら誠は言葉に詰まった。


「僕もあれに変身するんですよねえ?それにこの名前なんとかなりませんか?そのまんまですよ」 


「そうよ!子供向けに分かりやすくしたのよ!配慮してるでしょ?子供向けにしろってみんなが言うんだもの」 


 あっさりとアメリアは答えた。昨日調子に乗ってデザインしたあからさまにヒロインに助けられるかませ犬役。そして自分がその役をやるということを忘れて描いた全身タイツ風の場違いなシルクハットの男の役である。


「ざまあみろ!調子に乗っていろいろ描くからそう言う目にあうんだよ!」 


 かなめが誠の肩を叩きながら毒を吐く。その後ろで魔女姿のランが大きく頷いていた。


「じゃあ私の憧れの人が神前の兄貴なんだね!もしかしてそのままラブラブに……」 


 そんな小夏の無邪気な言葉が響き渡るとアメリア、カウラ、かなめ、三人の女性の顔色が青くなった。そんな空気を完全に無視して小夏は誠の腕にぶら下がる。口元を引きつらせながらアメリアはそれを眺めていた。


「あ!そうだった!じゃあ台本書き直そうかしら」 


 そう言ってアメリアがかなめの手から台本を奪おうとした。かなめは伸ばされたアメリアの手をつかみあげると今度は小夏の襟をつかんで引き寄せた。


「おい、餓鬼は関係ねえんだよ……ってカウラ!」 


 小夏の言葉にいったん青ざめた後に、頬を真っ赤に染めて誠を見つめていたカウラがかなめに呼びつけられてぼんやりとした表情でかなめを見つめていた。


「オメエが何でこいつの彼女なんだ?」 


 かなめがカウラを指差した。誠は台本の役の説明に目を落とした。


『南條カウラ、ヒロイン南條小夏の姉。父、南條新三郎の先妻の娘。大学生であり自宅に下宿している苦学生神前寺誠二と付き合っている』 


 自然と誠の目がカウラに行く。カウラもおどおどしながら誠を見つめた。


「アメリア。さっき自分が神前の彼女の役やるって言ってなかったか?」 


 大声で叫ぶかなめに長い紺色の髪の枝毛をいじってアメリアは無視していた。


「そうよ、そのつもりだったけどどこかの素直じゃないサイボーグが反対するし、どうせ強行したら暴れるのは目に見えてるし……誠ちゃんがまた頭を強打したら大変だし」 


 とりあえず色気の無いカウラを誠の彼女役にしておけば問題ないと言うアメリアの計算に誠はあきれ果てていた。


「おい、誰が素直じゃないサイボーグだよ!」 


 叫ぶかなめを全員が指差した。ランに助けを求めようとするが背の低いランはかなめの視界から逃げるように動いた。


「神前!テメエ!彼女持ちなんてこの恋愛結婚率0.01パーセントの国で大層なご身分じゃねえか」 


「なんで僕なんですか!西園寺さん八つ当たり先として僕を利用するのはいい加減止めてください!」 


 いつもストレスのはけ口にされている誠はずるずると後ずさった。かなめはアメリア達から手を離してそのまま指を鳴らしながら誠を部屋の隅に追い詰めていった。


「オメエがはっきりしないからこうなったんだろ?責任とってだな……」 


 そこまで言ったところでかなめの動きが止まる。次第にうつむき、そのまま指を鳴らしていた手を下ろしてかなめは立ち尽くした。


「あ、自爆したことに気づいたね。それにしても誠ちゃんがなにすればかなめちゃんは許すのかなあ」 


 小声で小夏がランに話しかけた。その間にも生暖かい二人の視線に目が泳いでいるかなめが映っていた。


「そうだな……なんだろな」 


「本当に素直よねえ、かなめちゃんは。だから面白いんだけど」 


 そうランに言ったアメリアの顔面にかなめは台本を投げつけた。


「ったく!やってられるかよ!」 


 そのままかなめは走って部屋を飛び出していった。


「あーあ。怒らせちゃった。どうするの?アメリアちゃん。このお話、かなめちゃんの役はやっぱりかなめちゃんじゃないと似合わないわよ」 


 駆けつけたサラの言葉にアメリアは台本をぶつけられて痛む頬をなでながら苦笑いを浮かべた。


「市からの委託事業の一つだからな。一応これも仕事だぞ。神前、迎えに行け」 


 小さな魔女の姿のランがそう誠に命令した。小悪魔チックな少女が軍の制服の誠を見上げて命令を出すと言う極めてシュールな絵に見えたが、誠には拒否権が無いことに気づいた。



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