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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第十章 犠牲者の上に立つ勝利

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第54話 こういう時カモにされる人

「アタシがどうしたんだ?」 


 そう言うかなめをアメリアがにらみつけた。かなめが一斉に『お前がやれ』と言う雰囲気の視線を全身に受けると頭を掻きながら身を引いた。アメリアは誠が修正した設定画をめくってその中の一つを取り出した。


「それ、アタシのキャラか?それがどうしたんだ?」 


 そんなランの言葉にアメリアは再び厳しい瞳を向ける。だがすでにランは諦めきった様子を見せていた。それをアメリアは満足げに見下ろす。


「なんだよ、アタシがテメーになんかしたんか?え?なんでアタシがこんな餓鬼みてーな格好しなきゃなんねーんだ?アメリア、アタシに不満が有るなら聞いてやる。言ってみろ。アタシがオメーに何をした?こんな罰ゲームみたいな恰好をアタシがしなきゃなんねー理由を教えてくれ」 


 ランは最後の抵抗を試みる。だがアメリアの瞳の輝きにランは圧倒されて黙り込んでいた。


「いえいえ、中佐。中佐はかわいらしいからこんな格好をお願いしたいんです。中佐の趣味が着流しに和傘を持って下町を歩くやくざ者と言うことは承知の上でお願いしてるんです。……それでついでと言っては何ですが、お願いがあるんですけど」 


 その言葉の意味はカウラとかなめにはすぐ分かった。かなめは携帯端末を取り出して、そのカメラのレンズをランに向ける。カウラは自分が写らないように机に張り付いた。アメリアはランを今回の選挙戦の目玉に据えてその魅力を引き出すために表情のサンプルを撮ろうとしているのであった。


「なんだ?」 


 携帯端末で自分を撮影しようとしているアメリアの迫力に気おされながらランは恐る恐る尋ねた。


「ぶっきらぼうな顔してくれませんか?一瞬で良いんです!そんな難しい話じゃないでしょ?お願いですから。ここは部下を立てると思って」 


 アメリアの意図を察したかなめの言葉にランは呆然とした。


「何言い出すんだ?なんでそんな顔しなきゃなんねーんだ?その写真をどうしよーって言うんだ?アメリア、テメー何を企んでる……言ってみろ」 


 ランは明らかに助けを求めるようにかなめを見つめた。かなめはただニヤニヤ笑ってランの困る様子を眺めていた。


「そうね、じゃあかなめちゃんを怒ってください。いつもみたいに自然な感じで。これなら簡単ですよね。いつもやってることじゃないですか?それを写真に撮りたいんです。ここはぜひお願いします!」 


「は?何言ってんだ?テメーは?一体何がしてーんだ?そんな写真何に使う?アタシはオメーに協力する義務はねーぞ。部下を立てるって、そんなことしてテメーの何の役に立つんだ?」 


 突然アメリアに怒れといわれてランは再び訳がわからないという顔をした。


「あれですよ、その画像を参考に誠ちゃんにキャラデザインをしてもらう時に使うんですから。さあ怒ってください」 


 すでにアメリアの意図を察している上でアメリアの狙いに否定的なカウラまでそう言いながら笑っていた。気の短いランは周りから訳のわからないことを言われてレンズを向けているかなめに元から悪い目つきでにらみつけた。


 シャッターの音がした。かなめはすぐ端末をいじってデータをアメリアに送った。アメリアは何度か端末を覗き込んだ後、満面の笑みを浮かべた。


「これ結構いい感じね。採用!誠ちゃん、今この画像送るから!小夏ちゃんとの戦闘シーンのイラスト作ってね!期待してるわよ!」 


 アメリアは端末の画面を見て満足げに頷いた。


「なんだよ!いったい何なんだよ!神前!テメーもだ!戦闘シーン?なんで魔法少女モノに戦闘シーンが出て来るんだよ。魔法少女モノと言えば魔法で世界を平和にする穏やかな作品なんだろ?だったら戦闘なんて起きねーじゃねーか」 


 ランはたまらずアメリアに詰め寄った。ランのイメージする魔法少女モノは日本の昭和の時代の典型的な少女向けの魔法少女アニメだった。


「ランちゃんそんなに騒がないでよ。静かにしてね!ここは職場だっていつもランちゃんがそう言ってるじゃないの。誠ちゃんの集中が途切れるじゃないの」 


 そう言ってアメリアは誠を一瞥してランの唇を指でつついた。その態度が腹に据えかねたと言うようにふくれっつらをするランだが、今度はカウラがその表情をカメラに収めていた。


「オメー等!わけ分かんねーよ!オメーの魔法少女のイメージはアタシのそれとは違いすぎる!まったくわけ分かんねーよ!」 


 ランは思い切り机を叩くとそのままドアを乱暴に開いて出て行った。


「もしかして、本気で怒らせた?」 


 アメリアはさすがに自分もやりすぎたと言う自覚が有るようで、少し控えめにそう言った。


「まあしょうがねえだろ。気の短いあのちんちくりんに理解できねえことを押し付けたんだ。怒らねえほうがどうかしている。とっとと仕事にかかろうぜ」 


 そう言うとかなめは誠の描いたキャラクターを端末に取り込む作業を始めた。それまで協力する気持ちがまるで無かったかなめだが、明らかに今回のメインディッシュがランだと分かると嬉々としてアメリアの部下を押しのけて画像加工の作業を開始するために端末の前に座っていた。


 そんな騒動を横目に正直なところ誠はかなり乗っていた。


 フェスの追い込みの時にはアメリアから渡されるネームを見るたびにうんざりしていたが、今回はキャラクターの原案と設定が描かれたものをデザインするだけの作業で、以前フィギュアやプラモデルを作っていた時のように楽しく作業を続けていた。


「神前は本当に絵が好きなんだな。仕事をしている時よりも本当に生き生きしているように見えるぞ」 


 ひたすらペンタブを走らせる誠にカウラはそう言って呆れたように見つめた。だが、彼女も生き生きしている誠の姿が気に入ったようでテーブルの端に頬杖をついたまま誠のペンタブの動きを追っていた。


「なるほど、これがこうなって……」 


 ルカは端末に取り込んだ誠の絵を加工するしていた。その様子を楽しそうに見ているのはかえでとリンだった。


「やってみますか?結構コツが要るんで初めての人には難しいかもしれないですけど」 


 そんなルカの一言にかえでは首を横に振った。


「できないよ、僕にはこんなこと。それと……これ、もしかしてこれ、僕かな」 


 画面を指差して笑うかえでに思わず立ち上がったカウラはそのままパーラの前の画像を覗き込んだ。そこには男装の麗人といった凛々しいがどこか恐ろしくも見える女性が映し出されていた。


「役名が……カヌーバ黒太子。アメリア。悪役が多すぎないか?」 


 カウラの言葉にアメリアは一瞬天井を見て考えた後、人差し指をカウラの唇に押し付けた。


「カウラちゃんこれはあれよ……凛々しい悪役の女性キャラってそれだけで萌え要素なのよ」 


 アメリアは自信を持ってその歪んだ趣向を吐露した。


「そんなお前の偏った趣味なんて聞いてねえよ。やっぱオメエは歪んでるわ。だからオメエのゲームの売り上げはいまいちなんだ」


 かなめはアメリアがいつも自作の同人ゲームの売り上げが、人気絵師の誠を擁している割に今一つなのを愚痴っているのを聞き逃してはいなかった。 


「そんなこと言うならかなめちゃんはちゃんと出番をたくさん用意するからがんばってね。この映画の人気をかなめちゃんの演技でカバーしてよ、お願い」 


 壁に寄りかかってぶつぶつとつぶやいているかなめにアメリアが笑いかける。かなめはその言葉に頭を抱えてしゃがみこんだ。



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