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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第九章 遊びに夢中で仕事をしない人々

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第50話 鉄火場となった『特殊な部隊』

「やっぱり誠ちゃんね。仕事が早くて助かるわ。選挙戦は時間との戦い。一刻も早く仕上げてちょうだいね」 


 てきぱきとアメリアが提示したキャラのラフを仕上げていく誠の姿を見てアメリアは感心したようにそう言った。


「クラウゼ中佐!」 


 叫んだのは菰田だった。アメリアは呼ばれてそのまま奥のモニターを監視している菰田の隣に行った。


「予想通り来ましたよ、サラさんの陣営の合体ロボの変形シーンの動画……ここまでリアルに仕上げるとは……こりゃあメカニカルのアドバイスを島田がしてますね。それにこの動きの滑らかさはプロの仕事ですよ。島田の野郎の族時代の仲間に漫画家のアシスタントをしていた奴がいたとか聞いてますから、そいつのコネを使ってアニメスタジオとかに外注したんですね。これは相手もプロを動員してきましたよ」 


 菰田はそう言って頭を掻いた。アメリアは渋い表情で画像の中で激しく動き回るメカの動画を見つめていた。


「メカだけで勝てると思っていたら大間違いと言いたいところだけど……あちらには情報将校共がいるからねえ。それにああ見えてサラは誠ちゃんの原画づくりのアシスタントをしていて結構かわいい衣装のデザインとか得意だから。敵キャラに悲劇のヒロインで主人公を庇って自爆するような美女が出てきたら一大事よ」 


「あちらのデザイン担当はサラさんですか。確かに僕のアシスタントをいつもお願いしてるんでかなり僕の絵柄は盗まれてると思います」 


 下書きの仕上げに入りながら誠が口を開いた。そこに描かれた魔法少女の絵にカウラは釘付けになっていた。アメリアのデザインに比べて垢抜けてそれでいてかわいらしい小夏の衣装にかなめと誠の押さえ役という立場も忘れてカウラは惹きつけられていた。


「でもまあ、合体ロボだとパイロットのユニフォームとかしか見るとこねえんじゃないのか?合体ロボの主役はなんと言ってもロボだからな。パイロットなんて添え物だ」 


 そう言ったかなめの顔を見てアメリアは呆れたように首を振った。


「あなたは何も知らないのね。設定によっては悲劇のサイボーグレディーとか機械化された女性敵幹部とか情報戦に特化したメカオペレーターとかいろいろ登場人物のバリエーションが……」 


 アメリアはとりあえずロボット物に出てきそうな女性キャラを羅列しながらそう言った。


「おい、アメリア。それ全部アタシに役が振られそうなキャラばかりじゃねえか!アタシをおもちゃにするのがそんなに楽しいか?言ってみろ、怒らねえから。神前の次のターゲットはアタシなんだな?アタシをおもちゃにして楽しみたいんだな?」 


 かなめはそう言ってアメリアの襟首をつかみあげた。


「え?気のせいじゃないの?それにアタシの頭ではこっちの作品の構想は全部できているんだから。あと、付け加えておくとかなめちゃんをおもちゃにするのは本当に楽しい。いじっていてこんなに楽しいことは無いわ。『女王様』としてドMをおもちゃにすることに慣れてるかなめちゃんならわかるでしょ?」 


 得意げに胸を張るアメリアにかなめは頭を抱えた。


「オメエのことだからもうすでに設定とかキャスティングとか済ませてそうだな、教えろよ……さっきのは却下な。悲劇のヒロインなんかやらねえからな」 


 かなめは半分あきらめながらつぶやいた。だが、アメリアはかなめの手を払いのけて襟の辺りを直すと再び誠の隣に立った。


「やっぱりいつ見ても仕事が早いわよねえ。この杖、やっぱり色は金色なの?」 


 アメリアは会議机の中央に箱ごと並んでいたドリンク剤のふたをひねると誠の隣に置いた。夏コミの時と同じく誠はその瓶を右手に取るとそのまま利き手の左手で作業を続けながらドリンク剤を飲み干した。


「ちょっと敵役の少女と絡めたデザインにしたいですから。当然こちらの小さい子の杖は銀色でまとめるつもりですよ」 


 ドリンク剤を飲み干すと、誠は手前に置かれたアメリアのラフの一番上にあった少女の絵を指差した。

 

「これってもしかして……」 


「ああ、それはクバルカ中佐よ。あの目つきの悪さとか、しゃべり口調とか……凄く萌えるでしょ?主人公の永遠のライバルキャラとしてあそこまで完成された素材はそう居ないわよ」 


 アメリアに同意を求められたカウラは理解できないというように首をひねった。誠の作業している隣ではかえでとリンがアメリアの作ったキャラクターの設定を面白そうに眺めていた。


「あの餓鬼が役を受けると思うのか?どうせアタシと同じ噛ませ犬だろ?『人類最強』のキャラ以外やらねえんじゃねえのか?いっそのことランの姐御をヒロインにしたらどうだ?姐御はリアル『魔法少女』だし」 


 散々アメリアの書いたキャラクターの設定資料を見ながら笑っていたかなめが急にまじめそうな顔を作ってアメリアを見つめた。


「ええ、大丈夫だと思うわよ。ああ見えてランちゃんは部下思いだから。それにランちゃんはあくまで引き立て役に徹してもらわないと。あの顔はどう見てもヒロインにしてはガラが悪すぎるもの」 


 アメリアは断言口調でそう答えた。


「部下思い?まあな……姐御は義理がたいのが売りだからな。『義理と人情の二ビットコンピュータ』の考えなんざ手に取るようにわかる」


 そう言うとかなめは腹を抱えて笑い始めた。タレ目の端から涙を流し、今にもテーブルを殴りつけそうなかなめの勢いに作業を続けていた誠も手を止めた。


「あのちびさあ……見た目は確かに餓鬼だけどさ。クソ生意気で目つきが悪くて手が早くて……それでいて趣味はカラオケと将棋と言う中身は完全にオヤジ!あんな奴が画面に出ても画面が汚れるだけだって……」 


 腹を抱えて床を見ながら笑い続けるかなめが目の前に新しい人物の細い足を見つけて笑いを止めた。


 かなめは静かに視線を上げていく、明らかに華奢でそれほど長くない足。だが、それも細い腰周りを考えれば当然と言えた、さらに視線を上げていくかなめはすぐに鋭い殺意を帯びたつり目と幼く見える顔に行き当たった。



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