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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第九章 遊びに夢中で仕事をしない人々

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第47話 仕事中は仕事をしましょう

「あのなあ、仕事中はちゃんと仕事してくれ。特にアメリア。オメーは一応佐官だろ?それに運行艦と言う名称だが、『ふさ』は一応クラスは巡洋艦級。ゲルパルト連邦共和国宇宙軍ローレライ級高速重巡洋艦二番艦の艦長様なんだ。多くの部下も抱えている身だ。それなりに自覚をしてくれよ……こんなこと言わせんじゃねーよ」 


 そう言うとランは再び端末の画面に目を移した。そんな言葉に耳を貸すアメリアでは無いことはランも重々承知していたので、アメリアが何の反応も示さないことに特に関心を持っていなかった。


「ランちゃん、これも市民との触れ合いと言う同盟機構の理念に沿った内容の活動の一環なわけ。つまり仕事の内よ。一生懸命になるのも当然でしょ?まあ、いいわ。つまり票が多ければいいんでしょ?それと……このままだと際限なく票が膨らむから範囲を決めましょう。とりあえず範囲は東和国内に限定しましょうよ」 


 アメリアにランの忠告を聞く気などさらさらないことは明らかだった。そしてサラに馬鹿騒ぎの範囲を限定することを提案した。


「はい。それで行きましょう。東和国内ならどこでも良いのね、任せといて!そっちの方がうちにとっては有利なんだから!整備班が取引しているメーカーや商社の数を舐めないでよ!」 


 アメリアとサラを囲む情報将校はお互いにらみ合ってから分かれた。サラは偉そうにふんぞり返りながらアメリアについて去っていった。


「何やってんだか。アイツ等任務に関係ねーこととなると異常に燃えやがる。まったく困ったもんだぜ」 


 呆れたように一言つぶやくとランは再びその小さな手に合わせた特注のキーボードを叩き始めた。


『心配するなよ。オメーの女装はアタシも見たくねーからな。アタシはサラに加勢する。菱川重工とのつなぎは任せとけ。あそこの重役連とは05式導入の際に何度も顔を合わせてる。そん時のコネを使う。まー見てろ。悪いよーにはしねーから』 


 誠の端末のモニターにランからの伝言が表示された。振り向いた誠にランが軽く手をあげていた。


「なんだか面白くなってきたな。とりあえず宇宙全体にうちの『特殊な部隊』ぶりが広まらなくなったのは残念だが……まあ、この国じゃあその別名の方が有名なんだから仕方ねえやな」 


 そう言って始末書の用紙を取り出したかなめがサラに目を向けた。


「おい、神前。賭けしねえか?アメリアが勝つかサラが勝つか。トトカルチョだ」 


 誠の脇を手にしたボールペンでつついてきたかなめが小声で誠に話しかけてきた。


「そんなことして大丈夫ですか?時々職場で高校野球とかを対象にトトカルチョやって摘発されたとかテレビで見ますよ」


 誠はギャンブルと言えばカウラなのになぜかノリノリのかなめにそう言い訳して逃げ切ろうとした。 


「大丈夫な訳ないだろうが!トトカルチョはパチンコと違って違法行為だ!そんなこと見逃がせると思ってるのか!」 


 当然誠をいつでも監視しているカウラはそう叫んだ。だが、それも扉を開いて入ってきた嵯峨の言葉に打ち消された。


「はい!サラが勝つかアメリアが勝つか。どう読む!一口百円からでやってるよ」 


 突然、機動部隊の詰め所の扉が開いて、メモ帳を右手に、左手にはビニール袋に入った小銭を持った嵯峨が大声で宣伝を始めた。


「じゃあ、サラに10口行くかな」 


 そう言ってかなめは財布を取り出そうとした。ランは当然厳しい視線でメモ帳に印をつけている嵯峨を見つめていた。


「ちょっと……隊長。話が……」 


 帳面を手に出て行こうとする嵯峨の肩にランは背伸びをして手を伸ばした。


「ああ、お前もやるんだ。ラン、お前さんはどっちにいくら賭ける?」 


 嵯峨がそこまで言ったところでランは嵯峨から帳面を取り上げて出て行った。さすがの嵯峨もこれには頭を掻きながら付いていくしかなかった。


「じゃあここに本部を置くわね……技術部の部屋だとサラが邪魔するから。それに運航部の部屋はパーラがかえでちゃんにぞっこんの部員数名と語らってベルばら押しなのよ。もうまったくこんな時に造反なんてパーラもやってくれるわね。いつもあんなに大事な仕事を任せてあげているのにその恩を忘れるだなんて、本当に恩知らずだわ」


 再びの沈黙だが主のいないおそらくパーラに引き込まれて運航部に選挙事務所を構えているだろうかえでの席を当然のように占拠してアメリアが端末で何か作業をしているのが誠にも見えた。そしてパーラの造反は単にアメリアの面倒ごとに巻き込まれたくない為にかえでのやる気を利用しているに過ぎないこともすぐに理解することが出来た。


「ふっふっふ……。はっはっは!」 


 アメリアが挑発的な高笑いをした。


『昼食の時にミーティングがしたいからカウラちゃんを連れてきてね。ああ、かなめちゃんは要らないわよ』 


「誰が要らないだ!馬鹿野郎!」 


 隣から身を乗り出して誠の端末の画面を覗き込んでいたかなめが突然叫んだ。隣で漢字を覚えるために辞書を引きながら新聞を見ていたアンもかなめの顔をのぞき見ていた。


「もういーや。お前等も好きにしろよ!アタシはもー知らねえ!どうにでもなれってんだ!」 


 嵯峨を引き連れて戻ってきたランは諦めたようにそう言った。そとでピースサインをした嵯峨が帳面を手に戻っていった。その様子を見ていらだったような表情を浮かべていたかなめの顔色が明るくなった。


「それってさぼっても……」 


「さぼってってはっきり言うんじゃねーよ。どうせ仕事にならねーんだからアメリアと悪巧みでも何でもしてろ!ただ言っとくけど神前の野郎の女装だけは上官命令として絶対認めねーからな!そんな気持ちわりーもん誰が見てーんだ!」 


 そう言ってランは端末の前に陣取ると報告書の整理を再開した。かなめはすぐさま首にあるジャックにコードを挿して何かの情報を送信した後、立ち上がっていかにも悪そうな視線をカウラに送った。思わずカウラは助けを求めるようにランを見つめていた。


「クラウゼの呼び出しか?ベルガー、ついてってくれよ。こいつ等ほっとくとなにすっかわかんねーからな。ベルガーなら常識が有るから信用できる。クラウゼの暴走をなんとか止めろ」 


 カウラはランから無駄な仕事を頼まれて大きくため息をついてうなだれた。かなめとカウラは席を立った。かなめの恫喝するような視線に誠も付き合って立ち上がった。表を見た三人の目にドアの脇からサラが中を覗き込んでいるのが見えてきた。かなめが派手にドアを開いてみせるとサラが誠達に詫びを入れるように手を合わせた。



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