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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第七章 巻き込まれていく人々

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第40話 男装の麗人のそううつ状態

「僕はベルばらでない限り出ないぞ。それでないと意味が無い。なんでこの美しい僕の肢体を公衆の面前に晒すことが許されないんだ!そんなことは間違っていると思わないか?」


 ぼそりとつぶやくのはかえでだった。 


「えー!何に決まってもかえでちゃんが出てくれないと困っちゃうじゃない。それにそう言うのは露出狂と言って猥褻物陳列罪と言う犯罪になるのよ。いい加減かえでちゃんも分かって頂戴よ。この国にはこの国の法律と常識が有るの。良識ある市民は市民会館で濡れ場有りのベルばらなんて見たくないの。甲武風に堅い少女歌劇のシナリオのままでいいから。変な工夫とか必要ないから」 


 第三小隊の机の一群でポツリとつぶやいたかえでにアメリアがすがり付いていった。アメリアに身体を擦り付けられるとかえでは顔を赤らめて下を向いてしまった。


「困るもなにもこれは職務とは関係が無いじゃないか!それにヌードは芸術だ、ミロのビーナスしかり、ダビデ像しかり、僕の完璧な肢体を晒すことがどうして犯罪になると言うんだい」 


 尚も自分の肢体の露出に拘るかえでに視線を向けたのは意外にも明石だった。


「それはちゃうやろ?ええか、よく聞けや」 


 そう言ったのは黙って静観を決め込んでいた明石だった。こういうことには口を出さないだろうと言う上官の一言にかえでが顔を上げて明石を見た。


「何も暴れることだけがウチ等の仕事やないで。日ごろお世話になっとる町の方々に感謝してみせる。これも重要な任務や。それとミロのビーナスもダビデ像も彫刻や。生身とはちゃうで。それと郷に入っては郷に従えいうやろうが。甲武より自由と言うだけで東和には東和の法律と常識があるんや。そこんとこよく考えや」 


「そうそう、それもお仕事なんだよー。それと東和の国の法律や常識を守るのも警察のお仕事なんだよー」 


 風船ガムを膨らませながらランが投げやりに言葉を継いだ。


「ですが、僕は……」 


 かえではそれでもまだ納得がいっていないようだった。


「大丈夫!どのシリーズでも私がかえでちゃんの濡れ場では無くて、凛々しくかっこよく見える誰もがかえでちゃんに惚れるような見せ場を作ってあげるから。そしたらかなめちゃんも喜ぶわよ!惚れ直したって次の日徹底的に虐めてもらえるかも」 


「喜ばねえよ!それにかえでを調教するのはアタシの趣味だ。そんな事とは関係ねえ!」 


 かなめが半開きの扉から顔を出した。だが次の瞬間にはその額にランの投げたボールペンがぶつかった。


「うるせー黙ってろ」 


 しぶしぶかなめは顔を引っ込めて、足で器用に扉を閉めた。だが一人、まとわり付くアメリアの身体をがっちりと握り締めているかえでだけが晴れやかな表情で何も無い中空を見つめていた。


「お姉さま!かなめお姉さま!僕はやりますよ!お姉さま!」 


 まず誠が、続いてラン、カウラ、明石。次々と恍惚の表情を浮かべるかえでに気づいた。


「大丈夫か?日野?」 


「かえで様……」 


 明石が不思議そうに恍惚の表情のかえでに声を掛けた。リンは心配そうにかえでを見上げた。


「やります!なんでも!はい!誰もが僕に魅了される濡れ場でない凛々しい見せ場。それもまた悪くないものです!「」 


 かえではそう言うとアメリアを抱擁した。


「あ!えー!ちょっと!離してってば!」 


 抱きしめられて顔を寄せてくるかえでを避けながらアメリアが叫ぶが、彼女を助ける趣味人は部隊にいないことを誠は知っていた。部屋の中の一同は黙ってそのまま押し倒されそうになるアメリアに心で手を合わせていた。



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