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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第七章 巻き込まれていく人々

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第39話 性癖の特殊性

「ああ、それじゃあ隣の騒動止めに行かないといけないんで!」 


 菰田との交渉が成立したアメリアは立ち上がると誠の手を引いて管理部の部屋を出た。


 廊下に出たアメリアと誠の前にぼんやりとたたずむのはかえでだった。そのしょんぼりとした瞳がアメリアと誠に注がれた。


「また僕だけハブられるんですか……なんだか僕の意見の賛同者はあまりに少ないような気がするんだが……」


 かえではかなめにベルばらの意見を拒否されたのが相当ショックの様だった。 


「そんなこと無いわよ。管理部に言ったけどパートの白石さんはもうすっかりベルばらに決まったものだと言う雰囲気で話してきたわよ。支持者はきっと隠れているわよ」


 アメリアはそう言って天井を見つめてとぼけているかなめに目をやった。


「おう!ご苦労さん」 


 明石はそう言いながら二人を迎えた。ひしゃげた椅子が一つ、その隣には折れた竹刀が放置されていた。


「ランちゃんまたやったの?」 


 いつものようにかなめの怒りとランの権威が衝突した結果の惨状に誠はあきれ果てていた。


「おい、アメリア。上官にちゃん付けか?随分偉くなったもんだ。同じ中佐でも軍隊では先に中佐に昇格した者を先任士官として敬うべきものとされているんだ。しかもアタシはここの副隊長だ。運航部の一部長に過ぎねーおめーにそんな口を利かれる覚えはねー!」 


 ランが視線をアメリアに向けた。アメリアは今度は自分に火の粉がかかってくると感じて引きつった笑みを浮かべてランを見つめながら姿勢を正して敬礼して見せた。


「いえいえ、中佐殿の判断は実に的確であります」 


 完全に舐めきった口調でランをからかうアメリアだがランはそうやすやすと乗るわけも無く、すぐに視線を端末の画面に移した。


「楽しみですね!どれに決まるか!」 


 大判焼きの件でランに徹底的に説教されたことをもう忘れてニコニコ笑いながらはアンはアンケート用紙の裏に絵を書いていた。それはなぜか馬の絵だった。その馬の股間が異様に巨大に見えたのは誠の気のせいだろうと自分に言い聞かせた。


「私としてはかえで様の希望に沿うものを願っているのですが、多数決となるとなかなか難しいでしょうね。でもさあ、誰が脚本書くんですか……クラウゼ少佐ですか?」 


 天井を眺めていたリンの視線がアメリアに向かう。明らかにアメリアは自分が書くんだ!と言うように胸をはっていた。


「そうですか……そこで質問しますが、かえで様と私の濡れ場は用意していただけるんでしょうね?当然、長尺で複数のカメラアングルから快感に震える二人だけの愛を確かめ合うエロティックなシーンが無いとどのテーマに決まっても観客は満足しないと思うのですが」


 誠はただ唖然としていた。この主人にしてこの家臣である。かえでが露出狂である以上、リンもまた露出狂だった。


「リンちゃん。一応、市の行事なのよ、これは。だから濡れ場無し!ディープキスシーンも無し!それにそんなこと期待して来る観客はこちらからお断りだから!」


 アメリアの一言にリンはショックを受けたようにその場に崩れ落ちた。


「この自由の国東和に来れば自由に裸を晒すことが出来ると聞いていたのに……なんてことなんでしょうか?これでは遊郭のある甲武より厳しい性制度がある国では無いですか?誠様……男としてそれでよろしいんですか?もしよろしければこの場で私が誠様の性のはけ口となることは出来ないのでしょうか?ああ、なんと可哀そうな誠様」


 リンは他人事を気取っていたところにいきなり話題を振られて狼狽えた。


「そんな……僕がどうにかできるわけでは無いし……それにリンさんには直接では無いですがいつも貰っている動画でお世話になっているので大丈夫です」


 とりあえずごまかしにかかる誠をリンは冷たい視線で見上げた。


「そのようなあいまいな態度を取られるようでは立派なかえで様の『許婚』にはなれませんよ。かえで様の『許婚』になると言うことは、側室として私共に子を授けると言うお仕事もしていただくことになるのです。しっかりなさってください」


 リンはうるんだ瞳で誠を見つめると吐息を誠の耳に吹きかけてきた。


「側室!そんなことまで決まってるんですか?そんなの聞いてないですよ!」


 誠はリンの時代がかった思考について行けずその場に固まった。


「大変だな、神前。まあ、遼帝家の皇帝には後宮があって数千人の女性をそこで側室として囲っていたと言う話だからな。なんでも旧王朝最後の皇帝霊帝の子供は少なくとも300人はいたらしい。まあ、皇帝などと言うものは次の皇帝を作るのが仕事みたいなものだからな。側室の数千人が居たところで何の不思議も無い。神前も遼帝家の出だ。側室が居ても不思議じゃないだろう」


 カウラはただ神前の追い込まれた状況に同情の言葉を漏らすしかなかった。



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