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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第七章 巻き込まれていく人々

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第37話 人の好い部長と嫌いな先輩

 ランが起こすカオスを予見したアメリアの機転で機動部隊の詰め所を脱出した誠達は管理部にたどり着いた。そこは年末の忙しさで火の車のような勢いで仕事をするパートのおばちゃん達であふれていた。


「ああ、神前君か。隣は相変わらずみたいだな。クバルカ中佐の説教癖は東和陸軍の共同部隊長の時からの物だからね。まあ教導部隊なんて言う腕自慢の鼻をへし折る仕事をしていれば自然とそうなっていくんだろうね」 


 そう言って笑うのは管理部部長高梨渉参事だった。目の前の書類に次々とサインをしていく彼の前には、明らかに敵意を持って誠を見つめる菰田邦弘主計曹長が立っていた。


 誠はこの菰田と言う先輩が苦手だった。第二小隊隊長カウラ・ベルガー大尉には、菰田達信者曰くすばらしい萌え属性があった。


 胸が無い。ペッタン娘。洗濯板。前後の区別が無い。


 かなめはほぼ一日にこの四つの言葉をカウラに浴びせかけるのを日常としていた。だが、そんなカウラに萌える貧乳属性の男性部隊員を纏め上げた宗教を拓いた開祖がいた。


 それが菰田邦弘主計曹長である。彼と彼の宗教『ヒンヌー教』の信者達はひそかに隠し撮りしたカウラの着替え写真や、夏服の明らかにふくらみの不足したワイシャツ姿などの写真を交流すると言うほとんど犯罪と言える行動さえ厭わない勇者の集う集団で、誠から見て明らかに危ない存在だった。


 しかも、現在カウラは誠の護衛と言う名目で誠の住む下士官寮に暮らしている。誠がその高い法術能力ゆえに誘拐されかかる事件が二回もあったことに彼女が責任を感じたことが原因だが、菰田はその男子寮の副寮長を勤める立場にあった。誠の日常は常にこの変態先輩の監視下に置かれていた。


「なんだ、神前か。またくだらないことを始めやがって。いくら隊長の命令とは言えそんな市からの要請なんて適当に対応しておけばいいんだよ。役所同士のやり取りなんてそんなもんだ。うちだって他の役所に対してはそうして対応してる。そのくらいの機転は聞かないのか?まったく神前は役に立たない奴だな」 


 誠を嘲笑するような調子で言葉を切り出そうとした菰田の頬にアメリアの平手打ちが飛んだ。


 誠の護衛は一人ではなく、アメリアとかなめも同じく下士官寮の住人となっていた。菰田達の求道という名の変態行為への制裁はいつものことなので高梨も誠も、管理部の女性隊員も別に気にすることも無くそれぞれの仕事に専念していた。そのような変態的なフェチズムをカミングアウトしている菰田達が女性隊員から忌み嫌われているのは当然と言えた。


 いくらアメリアは女性の司法局の隊員ではもっとも萌えに造詣の深いオタクとはいえ、目の前にそんな変態がいることを看過するわけも無かった。しかも菰田は誠に敵意を持っている。戦闘用の人造兵士の本能がそんな敵に容赦するべきでないと告げているようにアメリアの攻撃は情けを知らないものと化していった。


「あんた、いい加減誠ちゃん虐めるのやめなさいよ。そんなに誠ちゃんがカウラちゃんと一緒にいるのが気に食わないの?それと前から言ってるけどカウラはあんたの事生理的に受け付けないんですって!残念だったわね!私も生理的にあんたを受け付けない。そんなしつこくてネチネチした性格の持主なんて好きになる女が出て来るなら一度お目にかかって見たいものだわね……と、言うわけで……」 


 そう言うとアメリアは口を菰田の耳に近づけて何かを囁いた。菰田はその声に驚いたような表情をすると今度はアメリアに何か手で合図をした。それにアメリアが首を振ると今度は手を合わせて拝み始めた。二人の間にどんな密約が結ばれたのか定かではないがそれまで敵意をむき出しにしていた菰田がにやりと笑って恍惚の表情に変わるのを誠はただいぶかしげに見つめていた。


 そして誠と同じように二人のやり取りに呆れているこの部屋の主が口を開いた。



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