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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第七章 巻き込まれていく人々

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第36話 猫をかぶる『男装の麗人』と食にこだわる『男の娘』

「神前!……来い!」 


 階段を上がって機動部隊の詰め所の前まで来た誠達はランの怒鳴り声にカウラも責任を感じたように誠を呼びつけた。誠も走り出す彼女にしたがって機動部隊の詰め所に飛び込んだ。そして目の前にある黒い塊を仁王立ちしている小さなランが睨みつけている様が二人の目に飛び込んできた。


「オメー等!馬鹿だろ!ここは幼稚園でも遊園地でもねーんだってのがわかんねーのか?追いかけっこが好きなら東都警察の警邏隊に行け!すぐ転属願いの書類を作れ!作り方教えてやるから!」


「なんじゃ?ワレ等もおったんかい」 


 その様子を眺めているだけの、明石清海中佐が大判焼きを頬張っていた。彼は気楽そうにニヤニヤと笑っていた。


「クバルカ中佐。お姉様達に学習能力が無いのはわかってることじゃないですか?」 


 そう言いながらこれも司法局実働部隊のあるこの豊川八幡宮前のちょっと知られた大判焼きの店『松や』の袋を抱えながらかなめの妹である日野かえで少佐が言った。部外者である明石を前にかえではいつもの変態性を隠して凛々しい男装の麗人を演じていた。


 かえでの部下の渡辺リン大尉はあまりのランの剣幕に口をつぐんでかえでの袖を引いていた。


「あーあ。何やってんの。廊下は走るなってのは東和だけのルールなの?甲武では走って良いんだ……かなめちゃんは本当に困ったものね」 


 のんびりと歩いてきたアメリアがこの惨状を見てつぶやいた。


「モノが壊れてないだけましじゃないですか?お姉様方の起こすことでいちいち目くじら立ててたら身が持ちませんよ。まあ僕は身が持たないほど責めてもらいたいけどね」 


 他人事のようにそう言ったかえでにランがつかつかと歩み寄った。誠はどう見ても小柄というよりも幼く見えるランの怒った姿に萌えていた。


「おー、言うじゃねーか!だいたいだな、オメーがこいつを甘やかしているからこんなことになるんだろ?違うか?おい。オメーの性的私生活にとやかく言うと面倒だから止めとくが、オメーは西園寺に甘すぎる。好きな相手にこそ厳しく接するべきだ?違うか?」 


 椅子に座っているかえではそれほど身長は高くは無いが、それでも110センチ強と言う小柄なランである。どうしてもその姿は見上げるような格好になった。その拍子にかえでが抱えていた大判焼きが床に落ちた。


「あ!僕の大判焼きが!大事な食糧なのに!クバルカ中佐!なんてことをするんですか!」 


 突然の叫び声に一同は『男の()』に目をやった。司法局の十代の隊員の二人目、アン・ナン・パク軍曹だった。少年兵にとって食料は銃の次に大事なものだと誠はアンの暗鬱な表情で知った。


「お……お……オメー……!一々大判焼きを落っことしたくらいでガタガタ騒ぎやがって!後で買ってやる!そんな細けーことで大声出すんじゃねー!餓鬼じゃあるまいし。何か?オメーは上司の面子より大判焼きの方が大事だって言うのか?民兵はどうだか知らねーがうち等は軍事警察なんだ。一々大判焼きで大騒ぎされたら身が持たねーんだよ!分かったか!」 


 ランは下を向いて怒りを抑えていた。その姿を見て後ずさる誠の袖を引くものがいた。


「今のうちに隣の管理部に配ってきちゃいましょうよ。たぶんランちゃんの説教モードが始まるわよ」 


 こう言う馬鹿騒ぎに慣れているアメリアの手には嵯峨の作ったアンケート用紙が握られていた。


「じゃあ後できますね……失礼しまーす」


 誠はそう言ってかえでとアンへの説教を始めたランを見限ってその場を離れることにした。 


「おう、その方がええやろ。こっちはクバルカ先任の気が済むまで説教させとくさかいに。あの人は見た目はああじゃが心は大人やさかい、言うだけ言ったら気が済むんとちゃうか?そしたら戻ってこいや」 


 二人に手を振る明石を置いて、誠とアメリアは廊下に出てすばやく隣の管理部の扉を開けた。


 カオスに犯された機動部隊の詰め所から、秩序の支配する管理部の部屋へと移って誠は大きくため息をついた。



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