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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第六章 まあ、実際リアルに魔法少女はうちにいるので

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第33話 歓迎していない娘

「次は茜か」 


 かなめは大きくため息をついた。そして法術特捜の豊川分室となっている部屋の前に誠達と共に立った。


「かなめお姉さまですわね。鍵なら開いてますわよ」 


 中から良く響く女性の声が聞こえた。かなめを押しのけてアメリアは静かに扉を開いた。嵯峨の隊長室よりも広く見えるのは整理された書類と整頓された備品のせいであることは四人とも知っていた。茜は呆れた様子でニヤニヤ笑っているアメリアを見つめた。


「好きなんですね……クラウゼ少佐は。もっと仕事に関係のあることにその情熱を使って欲しいものですけど」 


 そう言うと茜はため息をつくと机の上の情報端末を操作する手を止めて立ち上がった。


「でもこの映画、節分にやるんですよね」 


 かなめは茜と彼女の部下のカルビナ・ラーナ巡査の分の二枚のアンケート用紙を茜に手渡した。


「まあ豊川八幡宮の節分祭は千要県では五本の指に入る節分の祭りですから。東都在住の(わたくし)もよく存じておりましたわ。それに去年からはお父様が流鏑馬をなさることでさらに人出が増えているとか……町おこしには結構なことなんじゃなくって?」 


 そう言うと茜はかなめから一枚アンケート用紙を取り上げてじっと見つめた。


「茜お嬢さんは時代行列は出るけど映画は……」 


「法術特捜は二名態勢。そんな余裕が有ると思いますの?整備班と一緒で仕事優先と言うことで撮影への協力は遠慮させていただきますわ」


 アメリアの出演依頼を茜は即座にはねつけた。


 アメリアのその言葉に誠は不思議そうな視線を送った。


「ああ、神前君は今年がはじめてよね。西豊川神社の節分では時代行列と流鏑馬をやるのよ。全部隊長が市から頼まれて去年から始めたことなんだけど」 


「流鏑馬?」 


 東和は東アジア動乱の時期に大量の移民がこの地に押し寄せてきた歴史的な流れもあり、きわめて日本的な文化が残る国だった。誠もそれを知らないわけでもないが、流鏑馬と言うものを実際にこの豊川で行っていると言う話は初耳だった。


「流鏑馬自体は東和独立前後から数十年に一度は他から射手を呼んでやってたらしいんだけど、司法局実働部隊が来てからは専門家がいるから」 


 そんなカウラの言葉に誠は首をひねった。


「流鏑馬の専門家?」 


「お父様ですわ」 


 アンケート用紙をじっくりと眺めながら茜が答えた。


「甲武大公嵯峨家の家の芸なんだって流鏑馬は。去年は重さ40キロの鎧兜を着込んで4枚の板を初回で全部倒して大盛り上がりだったしね」 


 アメリアはそう言うと茜の机の上の書類に目を移した。誠達はそれとなくその用紙を覗き込んだ。


「県警のシフト表ですね。県警は休むわけには行かないから大変そうですよね。たぶんこの時代行列も観光客が集まりそうだから警備にかなり人手が捕られそうですね」


 誠はその法術捜査の性質上、千要県警など首都圏の警察と連携を取る必要のある茜の仕事ぶりを興味深そうに見つめていた。 


「その大変なところに闖入してきていると言う自覚はあるならそれにふさわしい態度を取ってもらわないとね。それとアンケートは答えますけど映画への協力は法術特捜はお断りします。うちは『特殊な部隊』と違ってそれほど暇じゃありませんので」 


 明らかに不機嫌そうな茜の言葉に誠は情けない表情でアメリアを見つめた。


「まったくお父様には困ったものです。豊川市役所だって『嫌だ』って言えばこんな話は持ってこないのに」 


 そう言いながら茜は再びシフト表に視線を落した。


「じゃあ、失礼します」 


 アメリアを先頭に一同は部屋を出た。


「鎧兜ですか?そんなものが神社にあるんですか?」 


 誠の言葉を白い目で見るかなめ達。


「叔父貴の私物だよ。甲武の上流貴族の家の蔵にはそう言うものが山とあるからな」 


 そう言ってかなめはそのままブリッジクルーの待機室に向かおうとする。誠は感心するべきなのかどうか迷いながら彼女のあとに続いた。



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