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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第四章 自主映画会場に着いて

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第22話 頼りになる幼女

「いい加減にしろよな!馬鹿共!とっとと引っ込んで持ち場に戻ってろ!」 


 再び幼女ランの登場だった。しかし、彼女は黒をベースにしたゴスロリドレスと言った格好をしており、よく見ると恥ずかしいのか頬を赤らめていた。かなめもさすがにサラの顔面を握りつぶすつもりは無いと言うようにそのまま痛がるサラから手を離すと、今度はランに目を向けた。


「これは中佐殿!すっかりかわいらしくなって……ぷふっ!やっぱり……本当に……お似合いで……特に見た目の年齢的に……」 


 途中まで言いかけてかなめは笑い始めた。こうなると止まらない。ひたすら先ほど指をさすなと言った本人がランを指差して大笑いしていた。


「おい、聴いたか?あの子……中佐だってよ」 


「すげーかわいいよな。でも中佐?どこの軍だ?……遼帝国?」 


「でもちょっと目つき悪くね?」 


「馬鹿だなそれが萌えなんだよ。分からねえかなあ……」 


 周りのカメラを持ったアニメオタクと思われる大きなお友達に包囲されてランは写真を撮られていた。そのこめかみに怒りの青筋が浮いているのが誠にも分かった。


「すいません!以上でアトラクションは終了ですので!」 


 そう言うと誠はランとかなめの手を引いてスタッフ控え室のある階下の通路へと二人を引きずっていった。小夏とサラも誠の動きを察してその後ろをついていった。


 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開いた。そのまま舞台の袖が見えるがそちらには向かわず舞台の裏側に向かう通路を一同は進んだ。そしてそのまま雑用係をしているらしい整備班員が雑談している前を抜けて楽屋の扉を開いた。


 そんな誠の前に立っていたのはこれまた派手な金や銀の鎧を着込み、そのくせへそを出したり太ももを露出させているコスチュームを着た第二小隊隊長、嵯峨かえで少佐だった。


「ああ、今着替えたところだが……これからどうすればいいんだろう?神前曹長、クバルカ中佐から何か指示を受けているかい?」 


 かえでは何度か右目につけた眼帯を直しながら誠に聞いてくる。だが、その視線が小夏に手を引かれて入ってきたかなめに気がつくとすぐに頬を染めて壁の方に向かってしまった。


「神前曹長!お姉様が来てるって何で知らせないんだ!僕にも心の準備と言うものが有るんだ!でもまあ、『許婚』である神前曹長にならこの僕の恥ずかしい格好を見られても構わない。いや、もっと恥ずかしくていやらしい格好を見て欲しい!そして……君の童貞を……」 


 かえでは小声で誠にささやいた。


「日野少佐!こんなところで変なこと言わないでください!」 


 誠はいつものようにかえでのペースに巻き込まれまいと沸き起こる欲望を押さえながら必死になって叫んだ。


「はいはーい。かなめちゃん!これ」 


 雑用係のパーラがジュースを配ってまわった。


「パーラさんこっちもお願い!」 


 そう言って手を上げるのは、音響管理端末をいじっている整備部の巨漢の大野だった。


「まったく面倒くせえなあ。なんだってこんなことに付き合わなきゃいけねえんだよ」 


 そう言いながらかなめはジュースのプルタブを開けた。そんな彼女を見て大変なものとであったとでも言うような表情でパーラとひよこが箱を抱えて近づいてきた。


「西園寺さん。これ。恥ずかしいですけど我慢してくださいね。クバルカ中佐だって我慢しているんですから」 


 おずおずとひよこが箱を差し出すが、中身を知っているかなめは思い切りいやな顔をした。


 これから上映されるバトル魔法少女ストーリー『魔法戦隊マジカルなっちゃん』のメインキャストでの一人、キャプテンシルバーの変身後のコスチューム。ぎらぎらのマント、わざとらしくつけられたメカっぽいアンダーウェア、そしてある意味、かなめにはぴったりな鞭と言う武器が光っていた。


「やっぱやるのか?舞台あいさつ。これが終わったら。この格好で……あの魔法少女もどきと一緒に……予想はしていたけど現実になると結構きついもんだな」 


 約二時間の上映が終わったら開催される予定の撮影会。昨日もこのイベントが嫌だと寮で暴れていたかなめである。


「ここまできたら諦めた方がいいと思うんですけど。私もかえで様もすでに諦めています」 


 そう言ったのはかえでの副官である渡辺リン大尉だった。彼女もまた肩から飛び出すようなとげのある鎧に胸と股間は大事な部分だけを覆うように作られた際どい衣装、っして機械を思わせるプリントのされたタイツを着ていた。


「あのー、リン?なんか怖いんだけど。それとそのセクシーランジェリーみたいな格好なんとかならねえのか?ここは風俗店じゃねえんだぞ」 


 そう言ったのはかなめだった。


 確かにリンの顔には白を基調にしたおどろおどろしいメイクが施されている。役名『機械魔女メイリーン将軍』。本人は気乗りがしないと言うことがそのこめかみの震えからも見て取れた。そしてその股間と胸の大事な部分のみを隠す衣装も親子連れが見る映画の登場人物とはとても思えない姿だった。


「皆さんおそろいで……」 


 奥の更衣室から出てきたのは両手に鞭のようなバラのツルをつけてほとんど妖怪のような格好をさせられた司法局実働部隊のたまり場『月島屋』の女将、家村春子だった。


「お母さん大丈夫?かなりヤバい格好に見えるんだけど」 


 その姿に少し引いている娘の小夏が声をかけた。


「なに言ってるの!これくらいなんてことはないわよ……ねえ!」 


 そう言って春子はジュースを配りに来たひよこに声をかけた。


「そうよ!いっそのこと私がやりたかったくらいですもの」 


 アメリアはすっかり彩り豊かな衣装に囲まれて興奮しているようで、顔が笑顔のままで固定されているようにも見えた。


「それと、これ神前君ね」 


 ひよこは誠に数少ない男性バトルキャラ『マジックプリンス』の衣装を手渡した。


「やっぱり僕も着るんですね。まあ、デザインしたのは僕ですから仕方ないですよね……今ここで逃げたらたぶん僕は西園寺さんに射殺されるでしょうから」 


 誠もその箱を見て落ち込んだ。


「テメエのデザインじゃねえか!アメリアとサラと一緒に考えたんだろ?それにしてもアメリアが何でこういう格好しねえんだよ!伊達眼鏡の一般教師なんて……誰でもできるだろうが!」 


 かなめは思わず衣装を投げつけんばかりに激高した。


「なんのことかしら?そう言うキャラも必要だって台本を考えた私なりに出した結論なの。映画では監督の言うことは絶対。一役者が逆らおうなんて考えない事ね」 


 そう言って控え室に入ってきた運航部の女子隊員から伊達メガネを受取ったアメリアがコスプレ中の面々を見て回った。明らかにいつも彼女が見せるいたずらに成功した子供のような視線がさらにかなめをいらだたせた。その後ろからは疲れ果てたと言う表情のカウラがしずしずと進んできた。



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