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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第四章 自主映画会場に着いて

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第20話 不機嫌なかなめ

「皆さん!ここで当部隊西園寺大尉によるストリッ……フゲ!」


 そこまでアメリアが言ったところでかなめは彼女の前に積まれた同人誌を一冊丸めて思い切り叩いた。ヘッドロックをアメリアにかけるとワイシャツの下のふくらみが際立った。そしてそんなかなめの姿に観衆は盛り上がった。


「ナイスよ……かなめちゃん。その反応を待っていたの」 


 首を締め上げられながらにんまりと笑うアメリアにかなめの腕の力が抜けた。アメリアは器用にそこを抜け出し手をたたいて観客に向き直った。


「それでは皆さん!では受付を開始します!」 


 アメリアはそう言うと彼女の体を張った芸に感心する知り合い達に愛想笑いを浮かべながら手を広げた。いつの間にか受付と書かれたテーブルに座っていたカウラが準備を済ませて先頭に立っていたアメリアの知り合いらしい無精髭の男から札を受け取った。


「それでは鑑賞料は五百円になります。……それじゃあこれがお釣りで……」 


 準備が念入りだったわりにカウラはこういう客を相手にするのは苦手らしくなんともぎこちない感じで受付をした。だが、一部の熱い視線が彼女に注がれているのが、そう言うことには疎い誠にもすぐに分かった。


「誠ちゃん、ちょっと列の整理お願いできるかしら?それと何もしないで観客を怖がらせているだけのかなめちゃんは邪魔だからそのまま帰っていいわよ」 


 アメリアは恨みがましい目つきで観客をにらみつけているかなめに向ってそう言った。


「なんだと!コラァ!アタシが邪魔だって言うならアタシが出たシーンを全部カットしろよ!アンだけ恥ずかしい思いをしたんだ!アタシが何処にいようがアタシの勝手だろうが!」 


 食って掛かろうとするかなめを押さえつけて誠はそのまま受付のロビーから外に並んでいる列の整理に当たることにした。とりあえず今のところ混乱は無い。だが……。誠は隣に立っているかなめの様子を伺っていた。明らかに不機嫌である。右足でばたばたと地面を叩いていて、観客達を嘗め回すように見つめた。


 元々それほどかなめの顔つきは威圧的ではない。どちらかと言えばその特徴であるタレ目が愛嬌を誘っている顔だと誠は思っていた。遼州や地球の東アジア系にしては目鼻立ちははっきりしていて美女と言って良い部類に入る顔である。


 だが、明らかに口をへの字にまげて、ばたばたと貧乏ゆすりを続けていて、しかも着ている制服は東和軍と同じものを冬だと言うのに肘まで腕まくりしていた。一部のミリタリー系のマニアが写真を取ろうとするたびに威嚇するように目を剥いた。先ほどのアメリアとのやり取りで一回り大柄なアメリアの頭を楽に引っ張り込んだ力を見ていた客達はそんなかなめにはむかう度胸は無いようで静々と列は進んだ。


「なんか、僕はすることあるんですかね……第一、サイボーグの西園寺さんがこれだけ威嚇してるのに混乱を起こすような人が来るとは思えないんですけど」 


 噛み付きそうなかなめの表情を見ると不器用で何度も釣の勘定を間違えているカウラの受付で苛立った客達もするすると会館のロビーへと流れて行った。トラブル対応係と言われた誠の出番は無さそうだった。


「そこ!タバコ!喫煙所の場所ぐらい分からねえのか!」 


 そう叫んでかなめが一人の迷彩服の男に近寄っていった。誠もこれはと思いそのままかなめの後をつけた。


「禁煙ですか……消します!すいません!」 


 かなめの迫力に負けて男はすぐに持っていた携帯灰皿に吸いかけのタバコをねじ込んだ。それを見ると不思議そうな顔をしてかなめは誠の待つロビーの前の自動ドアのところに帰ってきた。


「くそったれ、もう少し粘ったらタバコを没収してやろうと思っていたのに……当てが外れたぜ」 


 そう言うとかなめは今度は自分でポケットからタバコを取り出しそうになってやめた。その様子を誠に見られていかにもバツが悪いと言うように空を見上げた。次第にアメリアの交友関係から発展して集まった人々はいなくなり、町内の見知った顔が列に加わっているのが見えた。


「おい、もう大丈夫だろ?大体客もさばけられたみたいだし。カウラの所に戻ろうぜ」 


 そう言うとまるで誠の意思など確認するつもりは無いと言うようにかなめは受付へとまっすぐに向かっていった。誠もそれに引き摺られるようにして彼女の後を追った。



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