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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第四十五章 物語の結末

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第193話 止めに入る妹

「お姉さま。また喧嘩ですか?東和に来てから荒れてばかりじゃないですか。やはりこの国には愛が無い、恋が無い。なんともむなしい世界だ。甲武に居た頃が懐かしい。甲武に居た頃は僕の周りは恋に満ちていた。誰もが僕を愛してくれていた……神前曹長……『許婚』の君が僕を愛さないのは不自然だとは思わないのかい?」 


 奥の席でモニターをのぞきながら第二小隊小隊長日野かえで少佐が声をかけてきた。


「うるせえな!そんなにエロい事がしてえならとっとと甲武に帰れ!愛だの恋だの言ってる暇が有ったら仕事しろ!今は仕事中だ!恋愛講義の時間じゃねえ!」 


 そう言うとかなめは目を閉じた。


「ここ、置いておきますから。飲んでくださいね」 


 誠はそう言ってかなめの分の甘酒を机の端に置いた。


「いいですね、甘酒ですか。僕の国でも時々飲むんですよ……ほとんど水ばかりで味のしない甘酒ですが、それでも寒い戦場では力になりました」 


 第二小隊三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が甘えた声を出して誠の手の中の甘酒を見ていた。


「ベルルカンにもあるのか。かえで様、私達も休憩と行きましょう。愛なら私が存分にかえで様に与えて差し上げます。どうか、かえで様も私を愛してくださいませ」 


 いかにも飲みたそうな調子で第二小隊二番機担当の渡辺リン大尉がそう言った。そう言われたかえではキーボードを打つ手を止めた。


「そうだな。少し休憩と行くか。風情がある甘酒を飲みながら恋について語るのも悪い事ではない」 


 そんなかえでの声を聴くとかなめは横を向いてしまった。


「西園寺さん……」 


 誠は彼女の正面の自分の席に座った。


「神前。『許婚』だろ?かえで達と一緒にいろよ。アタシが言うのも何だがオメエは本当に色恋沙汰とみると逃げて回るところが有るからな……アタシなんかほっといてかえでと愛し合ってろ。アタシが許可する」 


「お姉さま!そんな無責任な言い方は無いと思うんですけど!僕だってそんな言い方をされたら怒りますよ!愛はそんなに軽いものではありません!」 


 いじけたような調子のかなめにかえでが声を荒げた。目を開けてかえでの顔を見ると、すこしばつが悪そうにアメリアが『変形おかっぱ』と呼ぶ耳にかかるまで伸びたこめかみのところが一番長くなっている髪をかなめはかきあげた。


「飲む。飲めばいいんだろ?そうすればオメエ等も満足するんだろ?じゃあ飲むよ」 


 そう言ってかなめは手を伸ばした。誠はようやく笑顔を浮かべて甘酒をかなめに手渡した。かえでは安心したようにまことを見て頷くとアンと渡辺を連れて出て行った。誠とかなめ。二人は詰め所の中に取残された。


「ごめん。アタシは自分勝手なのは自覚してる。神前にばかり頼りきってる自分が嫌いになってそれでテメエに当たってた……本当にごめん」 


 ぶっきらぼうに手を伸ばして軽くコップを包み込むようにして手に取った。そしてゆっくりと香りを嗅いだ後、一口啜ってかなめがそう言った。


「別に謝る必要は無いですよ。ただ西園寺さんにも楽しく飲んで欲しくて。おいしいものは楽しく飲んだ方がおいしいですよ。いつも西園寺さんも月島屋でラム酒をおいしそうに飲んでるじゃないですか。それと同じですよ」


 誠は嘘も無く自然にそう言っていた。 


「あのさあ、そんなこと言われるとアタシは複雑な気分になるな。オメエにはかえでと言う『許婚』が居るんだ。アタシの事はもっと軽く考えろ」 


 かえで達が甘酒を求めて出て行って二人きりの部屋。少し照れながらかなめは両手で紙コップの中の甘酒を見つめていた。


「ふう、良いな。ひよこもポエム以外に特技があるじゃねえか」 


 ようやく気が晴れたのか少し明るい調子で再び甘酒を含んだかなめがため息をついた。酒豪と言う言葉では足りないほどの酒好きなかなめだと言うのに、なぜか頬が赤く染まっていた。


「なんか顔が赤いですよ?」 


 誠の言葉にかなめは机から足を下ろした。そして素早くコップを置くとひきつけられるように誠を見た。そして突然何かに気づいたように頭を掻いた。


「き、気のせいだ!気のせい」 


 そう言って慌てたかなめがつい甘酒のコップを振って中身を机にこぼした。


「大丈夫ですか!」 


 誠はハンカチを取り出してかなめの机に手を伸ばした。その手にかなめの手が触れた。


「うっ……」 

 

 かなめは大げさに飛びのいた。奇妙な彼女の行動に誠は違和感を感じていた。


「どうしたんですか?」 


「うん……」 


 黙り込んでいたかなめだが、誠の目を見るとすぐに視線をそらしてしまった。


「ああ、ちょっとトイレ行ってくるわ。たぶんアイツ等が来るころには戻るから」 


 そう言うとかなめは早足で部屋を出て行った。誠はかなめの半分ほど甘酒の残ったコップと取残された。


「ねえ……」


「うわっ」


 突然背中から声をかけられ仰け反る誠。明らかに慌てている誠をアメリアはからかうような調子で見つめていた。


「なにかやましいことでもあるのかしら?さっきのかなめちゃんの様子……いつものかなめちゃんと違うような気がするんだけど……誠ちゃん、かなめちゃんに何かした?」


「別に……何もしてないですよ。おいしいものはおいしいって言っただけです。それって変なことですか?」


 アメリアに妙な勘繰りをされるのも癪なので誠はムキになってそう言った。 


「まあ、いいわ。それならその端末しまって頂戴。ラストの撮影の準備、かなめちゃんが戻ったらすぐできるようにしておきましょう」 


 意味ありげに笑うとアメリアはそのまま部屋を出て行った。あっけに取られる誠も部屋の外を歩いているラン達の姿を見て端末を終了させた。



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