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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第四十四章 法術師と言う存在

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185/201

第185話 厚生局事件の悪夢再び

「ようやく気付かれましたか、神前さん」

 

 穏やかな茜の言葉。誠はこの死体の発見された連続放火事件の詳細について思い出そうとしていた。


「ちょっと検死の結果を見せろよ」 


 かなめはそう言って助手を気取ってモニターの前に座っているラーナの頭を小突いた。彼女は少し不服そうな顔をするが、茜が頷くのを見るとキーボードを叩いた。


「この死体の特異性はその脳の水分の分布状況にあるんすよ。大脳の水分はほぼ蒸発しているのに小脳や延髄の細胞には一切の異常がなかったんす。人体発火なら全身の水分が水蒸気爆発を起こして蒸発しますからこんな状態にはならないんっすよ」 


 画面には脳のレントゲン、CT、MRIや実際の解剖しての断面図までが表示された。この画像に次第に先ほどまで食べていたどんぶりモノの中身が逆流しそうになって誠は口を押さえた。


「何びびってんだよ。さっきは死体なんて見慣れてるとか抜かしてたじゃねえか……さてはろくに見もしないで資料を茜に流してたな?このサボり魔め!」 


 そう言いながらかなめはそのまま横からラーナのキーボードを奪って断面図を拡大させた。


「これが噂の法術暴走か……法術の制御が出来ない覚醒していない法術師にも突然起きる現象……遼州人の宿命のような現象……厚生局の時の外部から人為的に起こさせるそれとは違い、人為的で無く自然に起きる現象ですから防ぎようがない」 


 ぽつりとカウラがつぶやいた。その言葉にかなめは画面の前の顔をカウラに向けた。明らかに呆れたようなかなめの顔を見てカウラは自分が言ったことの意味を気づいて誠を見つめた。


「法術暴走?それってこの前の『同盟厚生局事件』で見られた……」 


 手足の感覚がなくなっているのを誠は感じていた。画像の中の輪切りの脳みそ。ほとんど持ち主が生きていた時代の姿を残していない奇妙な肉塊にしか見えないそれと、自分の視野だけがつながっているように感じた。誠は力が抜けてそのまま上体がぐるぐると回るような気分になった。


「おい、大丈夫か?」 


 そう言って誠の額に手を当てたかなめはすぐに茜をすごむような視線でにらみつけた。


「お姉さま。落ち着いていただけませんか?」 


 茜は表情を殺したような顔でかなめを見つめ返した。しばらく飛び掛りそうな顔を見せていたかなめも次第に体の力を抜いてそのまま近くの狭苦しい部屋には不釣合いな応接用のソファーに体を投げ出した。


「神前。お前もいつかこうなるかも知れねえってことだ。これは法術の能力の種類とは関係なく起きる現象だ。この現象に耐えられる法術師は『不死人』だけだ」 


 かなめはそう言うといらいらした様に足をばたばたとさせた。誠は画面の肉の塊から必死になって視線を引き剥がした。その先のカウラは一瞬困ったような顔をした後、すぐに目をそらした。


「力を持つ。人に無いものを持つ。その代償がどう言うものかそれを知ることも必要ですから」 


 そう言って茜はまだ子供のように足をばたつかせているかなめをにらみつけた。かなめもさすがに自分の児戯に気づいたのか静かに上体を起こしてひざの上に手を組んでその上に顔を乗せた。


「だけど今なんでこういうものを見せるんだ、神前に。茜、コイツを不安にするのがそんなに楽しいのか」 


 かなめのタレ目の視線がいつもの棘はあるが憎めないようなものに戻る。それを見ると茜はかなめの前のソファーに腰を下ろした。



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