第170話 煮詰まって小休止
目の前に以前、誠も見た実家の台所と寸分たがわぬ部屋のテーブルに座らせられていた。思わず吐き気を催したのは以前ここに乗っていたカブトムシの幼虫を思い出したからだった。
「……そうか。これが……春子なのか……もう帰ってこないものとばかり思っていたが……この姿とは言え帰ってきてくれたか……」
嵯峨は先ほどまでの間抜け面から真剣な表情へと見事な切り替えを見せて花瓶に刺された一枝の薔薇の花を見つめていた。
「そうです。春子さんはカウラさんのことを思って洗脳に打ち勝って我々を救ってくれたんです。もしそれが無ければ我々は負けていました。そうなればこの世界もきっと機械帝国の物になっていたことでしょう」
誠はそう言うとテーブルに着く人々を見つめた。カウラは泣きつかれたように呆然とした顔で座っていた。小夏とサラは黙って嵯峨の父親の南條新三郎を見つめていた。
「春子さん……」
嵯峨の後妻南條ルカ役のルカはハンカチで目元をぬぐっていた。
「生き物はすべて死ぬものだ。嘆くなんざナンセンスだな。有機生命体の思考と言うものは今一つ理解に苦しむ……実に詰まらん」
かなめは非情にそう言い放つとニヒルを気取る笑みを作って見せた。
「あなた!機械人形に人の気持ちの何が分かると言うの!そうよ!人は悲しむものよ!悲しむから喜びもあるのよ!機械のあなたにはそんな簡単なことも分からないのね!なんてかわいそうな人なんでしょう」
廊下に出る戸口に寄りかかって立っていたキャプテンシルバーの世を忍ぶ仮の姿、探偵西川要子役のかなめがハードボイルドを気取って吐き捨てたのに地に戻ったカウラが怒鳴りつけた。
「つまらない意見の相違だな。そんな事は世界の危機に比べれば些細なことだ。それよりマジックプリンス。本題に入ったらどうだ?」
かなめはカウラの目つきをいつものように無視して誠と明石にそう言った。
「娘さんたちの協力がなければ同じ悲劇がまた繰り返されます。幸い小夏さんには魔法の素質があります!協力を……お願いしたいんです!」
そう言って下座の明石が頭を下げていた。無茶な設定に苦笑いを浮かべる誠だが、突然思うところがあった。
『あれ、明石中佐は来てなかったよな?きっとあの時にこのシーンも別撮りしてたんだな……アメリアさんも何も考えていないようで考えてるな』
そう思う誠だったが台本どおりちゃんと嵯峨に目を向けた。




