第167話 楽しめた女将さん
「そんなに落ち込まないでよ。私は楽しかったわよ。親子愛はきっちり描かれていたと思うから親子の客にはこれでも十分伝わると思うのよね」
春子はそう言って彼らがアメリアいじめをしている間に起き上がってお茶を入れていた。だが、彼女が先ほどアメリアの台本の致命的弱点を指摘しているだけに、自分の湯飲みを受け取っても答える気力も無いアメリアがそこにいた。
「意外とこう言うの叔父貴が得意なんだけどな。なんでも学生時代は文芸サークルに出入りしていたとか何とか」
そうぽつりと言ったかなめにアメリアは再び目を光らせた。
「ホント?」
「嘘ついても仕方がねえだろ?甲武の先の大戦前に活躍したて冥王星で戦死した斎藤一学って言う画家がいただろ?あれが確か叔父貴と高等予科の同期でいろいろと付き合いがあって、斎藤が挿絵を描いた発表していない小説が有るとか無いとか親父が言ってたような……」
かなめの言葉をそこまで聞くとアメリアはそのまま部屋を出て行こうとするが、サラとパーラが身をもって止めた。
「だめよ!どうせ隊長は断るに決まってるじゃない!あの人の性根がひねくれてることはみんなも十分承知してるでしょ?言うだけ無駄よ!」
アメリアはそう言ってかなめの提案にすがることを諦めていた。
「今からどう変えるのよ!あんたが書いたんでしょ!後は新藤さんに任せなさいよ!編集の妙って奴で矛盾点もなんとかしてくれると思うから!結局プロには勝てないんだって!」
胴にしがみつくパーラ。右足を引っ張るサラ。そのどたばたを察したかのように現れたのは嵯峨だった。
誠が見ても嵯峨は役に立たないことは大概できるので、小説の一つもかけてもおかしくないと思った。
「神前、何俺の顔見てるの?何かついてる?」
噂の当人はこれまでの聞いていなかった話には関心が無いようで、誠のすがるような目つきにもいつもの間抜け面を晒していた。
「いいえ!なんでもないです!隊長に頼んでもろくなことになりませんから」
とりあえず余計な人物を余計なことに巻き込んで騒動を大きくするのは得策では無いと考えた誠は嵯峨には何も言わないことにした。




