第166話 監督による謝罪
あたりの景色がやみに沈みシーンの終わりを告げた。誠はすぐにバイザーとヘルメットを脱いでカプセルから出ようとして縁に頭をぶつけた。
「神前、何やってんだよ。これは現実だぞ。演技じゃ無いんだからボケなんて必要ねえんだよ」
かなめは呆れたような感じでそうつぶやいた。そして起き上がった誠は腕組みをして薄ら笑いを浮かべているアメリアを見つけた。
「アメリアさん!ちょっとこの展開酷すぎません?もう少し何とかならなかったんですか?矛盾点多すぎですよ。これじゃあ子供だってどこかおかしいところが有るって分かりますよ。なんでいつものエロゲーム作る時みたいに緻密な設定をしなかったんですか?あれの原画を描くとき僕がどれほど苦労をしているか分かります?いい加減は止めてください!」
魔法少女アニメには少しうるさい誠はアメリアにそうツッコんでいた。
「ああ、何も言わなくても良いわよ!台本を書いたのは私。監督も私。責任は取るわ。じゃあ……」
そう言うとカプセルから顔を出す一同をアメリアは満遍なく眺めた。
「典型的なやっつけ。全部私が悪かったです。ごめんなさい」
頭を下げるアメリアに全員が白い目を向けた。役に対する不満と言うより明らかにアメリアの趣味だけで構成された物語にかなめやカウラの視線は殺気までこもっているようにアメリアに突き刺さっていた。
「だってしょうがないじゃない!これ三日で書いたのよ!設定を作る時間も無かったし、一々チェックしている暇なんて無かったの!矛盾してるのも実際撮って見て気付いたのよ」
「期間の問題じゃないと思うがな……多少の記憶力と思い入れが有ればあのようなミスは起きないはずだ。さては二日酔いか何かでぼんやりしている時に書いたな……まあ最近は月島屋に通い詰めでその度に貴様は潰れてたからな。帰ってから深夜に起きて書いたんだろ?その情熱だけは褒めてやる」
カウラはそう言ってあっさり切り捨てた。
「まあ……がんばれ!私も同じ立場ならそうなってたかもしれないから。でもまあ、好きな物を作れるんだから良いじゃない。これもみんなの嫉妬がもたらしてる悲劇だといつものアメリア調で乗り切ればいいのよ」
サラは自分がその立場に無いので無責任な笑顔を向けた。彼女もオタク歴の長い人物である。設定の矛盾に気づいているのは確かだった。
「私はこういうのは良く分からないから」
春子はとぼけてみせた。三人の言葉にアメリアはさらに落ち込んだ。
「新藤さん、撮り直しは……」
ゆるゆると頭をもたげて画面を編集している新藤を見つめるアメリアだが、目で明らかに拒否しているその姿を見てがっくりと肩を落とした。




