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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第三十六章 終業時間が来て

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第152話 更衣室の『男の娘』

「神前先輩!」 


 倒れそうになった誠を抱き起こしたのは第二小隊のアン・ナン・パク軍曹だった。思わずあわててアンの手の中から誠は逃げ出した。


「先輩!」 


 アンはいつものように誠の胸に飛び込もうとするのをなんとか誠は押しとどめた。


「あのなあ……くっつくな!アンには彼氏が居るんだろ?これは浮気にならないのか?それはまずいだろ?」 


「先輩……先輩となら浮気の一度や二度は経験しても良いかもしれないと思ってるんです」 


 そう言うとアンは涙目で誠を見つめてきた。西と同じ十代の最年少と言うことで隊の女性陣とその女装があまりに似合うのでその趣味のある整備班員に可愛がられているアンを泣かせるのは本意ではない。しかし誠はねっとりとしたアンの視線はどうしても苦手だった。


「着替え終わったら外で待ってろ。俺達は月島屋に行くから連れて行ってやる!」 


「え!本当ですか!」 


 満面の笑みを浮かべるアンはそのままダウンジャケットを手にしたまま浮かれて更衣室を飛び出して行った。誠は安堵のため息を漏らすと自分のロッカーを開く。背中で再び更衣室のドアが開いた気配を感じて振り向いた誠の前には整備班のつなぎ姿の島田が立っていた。


「おう、お前なあ。あれどうにかしろよな!」 


 入ってくるなり誠にそう言うと廊下の先で騒いでいるかなめとアメリアを指差した。


「あれ、僕の責任ですか?あの二人が喧嘩をするのはいつもの事じゃないですか。ほっておいてもそのうち収まりますよ」 


 誠は無責任にそう言うと着替えを再開した。


「クラウゼさんと西園寺さんはお前の担当だろ?それに西園寺さんは一度キレると破壊工作に打って出るからな。その度に整備班が修理に回って下手な手間が増えて面倒なんだよ。なんとかしろ」 


 確かにかなめが隊の備品を壊したことは一度や二度では無かった。その度に整備班が修理をするか、整備班ではどうにもならない時には管理部のパートの白石さんのコネでメーカーに安く代替品を売ってもらうことになった。


「担当とかそう言うことでは無いと思うんですけど」 


 苦笑いを浮かべながら上着をハンガーにかけた。


「それじゃあアンだけじゃなくて俺とサラの分もお前が払えよ。これまでの西園寺さんが壊したものの直した迷惑料だ。当然の話だよな?」


 島田はいつものように誠に向って先輩風を吹かせてきた。 


「なんですか?それは!迷惑料って!それって恐喝ですよ!カツアゲですよ!ああ、島田先輩はヤンキーだからカツアゲは慣れてるんでしたよね……でも僕は払いませんからね!」 


 島田の突然の発言に驚く誠だが、すぐに島田がアンとの会話を聞いていたことに気づいて顔を赤く染めた。


「カツアゲなんかじゃねえ!迷惑料がカツアゲに当たるなら、男女を問わないモテモテ野郎の有名税だ。あれだろ?最近アメリアさんが始めたお前が絵を描いてる同人ゲームの通販がうまく行ってるらしいじゃないの。俺にもたまにはその環境を整えてあげている感謝の念を持ってもらわないとねえ」 


 そう言いながら島田は素早くつなぎを脱ぐとビンテージモノのジーンズに足を通しながら誠を見つめていた。


「分かりましたよ!でも今回だけですよ」 


 そう言うと誠はジャンバーを羽織る。目の前では、してやったりと顔をほころばせる島田がいた。


「まあ俺としてはお前のことは買ってるんだ。俺もパイロット志願だったから分かるが操縦技術の上達速度はやっぱりお前さんの方がずっと上だからな」


 島田はそう言いながらロッカーからヘルメットの入った大きなかばんを取り出し、その後ろから手鏡を取り出すと髪の毛を整え始めた。



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