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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第三章 第二ラウンド始まる

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第15話 宣戦布告の意味するところ

 アメリアの流麗な顎のラインから水が滴った。山越えの乾いて冷たい冬の風が彼女を襲った。そしてその冷たい微笑は怒りの色に次第に変わっていった。


「小夏ちゃん……これはなんのつもり?この寒空の下水風船爆弾なんて……これは私への宣戦布告と受け取っても良いのかしら?覚悟はできているんでしょうね?」 


 アメリアは一語一語確かめるようにして話した。基本的に怒ることの少ない彼女だが、闘争本能を強化された戦闘用人工人間であるアメリアの怒りが爆発した時の状態はかなめとのいさかいの場面で何度も見ていた。そんな彼女を怒らせた小夏が無事では済まないだろうことは誠にもわかっていた。誠とカウラはいつでもこの場を離れる準備を整えた。


「そうだ!宣戦布告だ!この寒さの中、水の冷たさで凍え死ねばいい!いくぞ!連続水風船アタック!」 


 二月前、熟れた柿をアメリアに思い切り投げつけた時と同じように小夏は無邪気な表情で笑った。


「お仕置きなんだけど……かなめちゃん風に縛って八幡宮のご神木に逆さに吊るすのとかえでちゃんがかなめちゃんにして欲しがっているみたいに鞭か何かでしばくのとどっちがいい?いいえ、どっちかなんて贅沢は言わないでどっちも食らわせてあげようかしら」 


 アメリアは指を鳴らしながら小夏に歩み寄った。ここまできて小夏もアメリアの怒りが本物だとわかってゆっくりと後ずさった。


「ああ、アメリア。居たか。何ふざけてんだ?小夏の相手なんてするだけ時間の無駄だぞ。アタシ等は急ぐからそいつの相手は頼むわ。行くぞ神前」 


 いつの間にか追いついてきていたかなめが誠の肩を叩いた。カウラも納得したような表情で小夏とアメリアをおいて立ち去ろうとした。


「敵影発見!えい!」 


 小夏の叫び声と同時にかなめの背中で水風船が破裂した。すぐに鬼の形相のかなめが振り返った。


「おい、こりゃあ!なんのつもりだ!ただで済むと思ってるのか!糞餓鬼が!」 


 突然の攻撃と背中にしみるような冷たい水。瞬間核融合炉の異名を持つかなめである。だが今回は隣に同志のアメリアがいることもあって彼女にしては珍しくじりじりと小夏との距離をつめながら残忍な笑みを浮かべた。


「ちょっとこれは指導が必要ね。かなめちゃん。普段はどういう風にかえでちゃんを調教してるのかしら?マゾでない人にその方法を用いるとどうなるか私は見てみたいの。ちょっと現役の『女王様』の手並みと言うものを私にも見せてくれるかしら?」


 アメリアは指を鳴らしながら小夏に近づいて行った。 


「おお、珍しく意見があうじゃねえか。いいだろう、アタシがいつもかえでを気持ちよくしてやる方法を小夏の奴で試してやるよ……アタシが東都の租界で男女を問わず店にやって来たドM共を満足させた手並みを見せてやるよ。小夏の奴、今日でアタシの手によって少女を卒業して女になれるんだ。さぞ本望だろうよ」 


 振り向いて逃げようとする小夏の首をかなめは押さえつけた。アメリアはすばやく小夏が手にしている水風船を叩き落した。


「あっ!」 


「ったく糞餓鬼が!」 


 かなめは小夏の顔面をつかんで締め上げた。アメリアは小夏の両脇を押さえ込んでくすぐった。


「くすぐったい!死んじゃう!アタシ死んじゃう!」 


 小夏は笑いながら叫んだ。彼女の同級生達はじっとその様を見つめていた。


「神前、少し聞きたい事が有るが、日野少佐のどこが変態でマゾなんだ?ただ小夏は普通にくすぐられているように見えるのだが。それに日常的にこんなことをしているのなら変態では無く馬鹿と呼ぶのが正解だと思うのだが」


 純粋無垢で淫靡に汚れたかえでの望む世界を知らないカウラは誠に向けてそう尋ねた。


「そりゃあ人前で西園寺さんがかえでさんにしているようなことを小夏ちゃんにしたら二人は即逮捕されるからですよ……まあ、公衆の面前であれをやったら猥褻罪ですからね」


 誠はかえでが喜んで見せて来る自分のかなめに調教されている場面の動画を何度か見ていたのでそう答えるしかなかった。


「そうか……日野少佐は犯罪行為に手を染めているのだな。島田ばかりでなく西園寺や日野少佐まで犯罪者とは……うちが『特殊な部隊』と呼ばれるのも当然だな」


 カウラは純粋なカウラなりに納得しているようだった。


 誠はかえでの調教風景を具体的に説明せずに済んだことにほっと胸をなでおろしていた。


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