第149話 とりあえず休憩に
『おい、アメリア。ちょっといろいろといじりたい場面があるんだが……少し休憩ってことにならないかな』
映像担当の新藤の声が響いた。誠から見てもアメリアの監督ぶりには疑問点が多々あった。視聴者としてプロとして手が加えたくなる新藤の気持ちも痛いほど良く分かった。
『そうですか、じゃあしばらく休憩しましょう』
アメリアの責任者としての一声で、バイザーの中に映っていた画面が消えた。誠はそのままヘルメットを外してカプセルから起き上がった。
「あー疲れた……あっ!おはぎ取っておいたのに食べちゃったんだ!ずるいんだ!」
いち早く飛び上がるようにして起きていた小夏が入り口に置かれたおはぎが入っていた重箱が空になったのを指して膨れっ面をしていた。
「だって硬くなったらもったいないじゃない!それに食べたのは明石中佐。あの人の食べる量が尋常じゃないのは月島屋にあの人が来るたびに散々見てたじゃない」
そう言ってサラは重箱に蓋をしていた。
「よし、それじゃあ仕事に戻るぞ」
そう言うとカウラは誠の襟首をつかんだ。小夏とサラ達がにらみ合っている状況を見物していた誠はかなめの手を引っ張って会議室から廊下へと歩き出した。
「なんだよ神前。アタシは仕事は終わってるんだよ!」
そう言って逃げ出そうとするかなめに誠は泣きついた。
「僕の端末の画面をどうにかしてくださいよ。西園寺さんが僕の端末をここの映像しか映らないような設定にしてったじゃないですか。あれじゃあ僕の仕事が出来ませんよ」
廊下に出た誠の言葉にかなめは頭を掻いた。そして思い出したようにかなめが手を打ったところから彼女が自分のしたことを忘れていることに誠はただ呆然としていた。
「分かったよ。しかし、オメエ等は仕事が遅いねえ。まあ生身の限界って奴か?便利だろ、機械の身体も」
かなめは得意げに右腕を晒して人工皮膚の継ぎ目を見せて自分がサイボーグであることを自慢して見せた。
「電子戦対応装備のサイボーグを基準で判断されてはたまらないな。人間にはそれぞれ向き不向きと言うものがある。貴様には端末を使った仕事や戦闘は向いているが絵を描いたりすることは苦手だろ?いわゆるそう言うことだ」
そう言ってカウラはかなめを余裕の表情で一瞥するとそのまま実働部隊の部屋へと向かった。部隊長の余裕を見せられたかなめは明らかに含むところがあると言う表情でカウラについて歩いた。
「まあ、しゃあねえかな。隣の怖い警部殿の面目を潰すわけにもいかねえだろう……しな!」
そう言うとかなめは法術特捜の間借りしている部屋のドアを開けた。ドアには茜が張り付いていたが、誠と目が会うと空々しい笑顔を浮かべて茜は奥へと消えていった。
「信用ねえな、神前は」
「え?僕がですか?」
不満そうな誠の声を聞くとかなめはいかにもうれしそうな笑顔を浮かべて早足で詰め所に向かった。さっさと部屋に入ったカウラに二人は顔を見合わせてドアを開いた。
かなめの言葉に誠も部屋の中をのぞき込んだ。
「まあいいや、神前ちょっと待ってろ」
誠のモニターは相変わらず映画の画面が映し出されていた。
すぐさま画像が切り替わり、茜に指示されたプロファイリング資料が映し出された。
「ああ、西園寺さんありがとうございます。これでようやく仕事ができそうですよ」
誠はそう言うとかなめに代わって自分の席について早速資料の画像をいじり始めた。
「そうか。それなら今隊長室に呼び出された奴の分までがんばれや」
かなめはそう言うと自分の席に戻った。
「呼び出された?」
そう言ってカウラの顔を見ると彼女はすぐにドアの外を指差した。隊長室をノックしているアメリアの姿が見えた。
「ああ、安城さんが来るのが分かってれば対策も立てれたのにねえ。カウラの奴、知ったんだろうな」
連続放火事件のファイルをモニターで眺めながらコメントをくわえる作業を続けているかなめが画面を見たままそう言った。嵯峨がどうしても下手に出なければならないまじめに仕事をすることを要求する相手、それが安城秀美少佐だった。司法局の特殊部隊でも一番精鋭とされる機動部隊の指揮官の来訪で嵯峨が形式的なお小言をアメリアにしなければならなくなった様子を見ながら誠は大きくため息をついた。
「カウラさんも大変ですね。やっぱり下士官で良かったかもしれない」
誠は入隊直後に降格を食らったことを少しだけ感謝した。かなめは机に足を投げ出してそのまま天井を見ながら人の悪そうな笑みを浮かべていた。誠はようやく連続放火事件の資料の整理を終えて最後の車上荒らしの事件の資料を探すために画面をスクロールさせていた。
「でもこれでしばらくはアメリアに付き合う必要もなくなるな」
そう言ってかなめは笑った。それに誠は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「じゃあ仕事がんばれよ」
かなめに言われて誠は苦笑いを浮かべた。誠はようやく仕事を再開した。




