第137話 何かを思い出させる瞬間
「それに魔力を持たない人間を巻き込むことはあまりに危険が大きすぎる。それに自分に力が無いことを知れば愛する人の力になれない無力感に苛まれて苦しむことになる。王子もそのことを心配されているんだ」
頭を振って明石はそう言ってサングラスに手をやった。
「確かにそうかもね。カウラお姉さんは一途だからきっと無茶をするわ」
サラはそう言って明石の言葉に同意するように頷いた。
「そんな!サラお姉ちゃん!何も知らないでいるなんて!」
小夏はストローから口を離して明石に向かって叫んだ。
「それでも誠二お兄ちゃんいいの?何も知らないで好きな人が戦いに赴くなんて私はやだよ!」
そう言う小夏が演技と言うより本音を言っているように見えて誠は地で微笑んでしまった。
「いつかは言うつもりさ。彼女は察しがいいからな、いずれ気づくはずだ。でもしばらくは時間が欲しいんだ。その時はすべてを話すつもりだ。それまでの間待っていてほしい」
そう言って誠はコーヒーを啜った。彼の言葉に頷きながら小熊のグリンは小夏を振り返った。
「小夏、僕達の戦いは一人の意思でやっているわけでは無いんだ。機械帝国は全世界、いや異次元も含めた領域を支配をしようとしているんだ。個人的感情ははさまない方がいい」
「でも……」
戸惑う小夏に誠は厳しい顔をして視線を向けた。
「そんな個人的感情に左右されるなら君の協力は必要ない。普段の生活に戻りたまえ。君が考えるほど魔法の戦いは甘いものでは無い。この世界の兵器を使った戦いとさして変わらない厳しいものだ。その戦士としての自覚を持てないようならこれからの戦いでは君は僕達の重荷になる」
そう言ってグリンはカウンターから飛び降りた。
「どうするつもり?一人で戦うなんて無理だよ」
悲しそうに叫ぶ小夏の肩にやさしく手を伸ばしたのは明石だった。
「いつかは小夏にも分かる日が来るはずだ。今は黙っていておいてあげてくれ」
そう言うとにっこりと笑う明石だが、その表情が明らかに無理をして作り出した硬いものだったので誠は思わず噴出しそうになるのを必死でこらえた。




