第116話 亡国の姫君と言うどこにでもある設定
『亡国?忘れたな。アタシは血の魔導師。機械帝国の世継ぎである黒太子カヌーバ様に忠誠を誓う者。テメーのような小物とはスケールが違うんだよ!』
そう言ってランは余裕の笑みを浮かべた。その手に握られた鞭をしならせて機械魔女メイリーンににらみを利かせた。
『ふっ、ほざけ!カヌーバ様のご寵愛はこのメイリーンが独占している。好みも心も体もすべてカヌーバ様のモノだ。カヌーバ様に心も体も隅々に至るまで愛し愛されたことのない貴様に何を言う権利が有ると言うんだ!』
機械魔女メイリーン将軍はわざとランから視線を外してつぶやいた。誠はリンの台詞が完全に台本の意図から外れたアドリブであることをすぐに理解した。
『黒太子、カヌーバ様!アタシにグリンと言う小熊とその眷属の討伐の命令をくれ!あの程度の雑魚なら瞬殺してやる!さあ!命令しろ!』
ランはいつものかえでに対する上官口調で黒太子役のかえでに向けて偉そうにそう言った。
「あいつ本当にぶっきらぼうなしゃべり方しかできないんだな。それにこれじゃあどっちが偉いか分かんないじゃないの。子供が見たら混乱するよ」
そう言いながら嵯峨はポケットからスルメの足を一本取り出し口にくわえた。
「あの、隊長。それはなんですか?」
思わず誠はくちゃくちゃとスルメの足を噛んでいる嵯峨に声をかけた。
「ああ、これか。茜がね、タバコは一日一箱って言ってきたもんだから……まあ交換条件だ。スルメは一日一袋茜が買ってきてくれる。その分食費が浮く。つまみも浮く。良いことずくめで羨ましいだろ?」
そのまま嵯峨はくちゃくちゃとスルメを噛み続けた。誠はその視線の先、ドアのところの窓から中を覗いている和服を着た女性を見つけて嵯峨の肩を叩いた。




