第112話 魔法少女に本気で憧れる『男の娘』
『これであなた達は立派な魔法少女で……』
そう言って小熊は力尽きた。
「おい、ここで死んじゃうのか?どうすんだよこれから!投げっぱなしか?」
かなめはあまりに唐突な展開に驚いてそう叫んだ。
「いちいちうるさいですよ。西園寺さん!静かにしてください!」
そんな声に驚いてかなめはアンを見てみた。アンはまじめな顔をして画面に釘付けになっていた。
「おい、アン……」
「静かに!」
アンに注意されてかなめは仕方なく画面に目を移した。その目の前では光を放っている小熊の姿が映し出されていた。次第にその光は収まり手のひらサイズに小さくなった小熊がそこにいた。
『グリン君!』
そう言って小夏は小熊を両手で持ち上げた。小熊はゆっくりと目を開いた。そしてそのあまりにも熱中して画面を見つめているアンに恐怖のようなものを感じて誠とかなめはただ黙り込んだ。
『そんな……死んじゃ嫌だよ……』
そう言う小夏の手の中でグリンは力なく微笑んだ。
「良い奴ですね!グリンは!まったく……三人目の魔法少女か……出たかったな……僕も……あんなフリフリのかわいらしい衣装……そしたらきっと神前先輩も僕の事を見直してくれると思うんだ……出たかったな……」
アンは思わず右手を握り締め目を潤ませた。アンの反応の異常さに思わず誠はかなめを見た。
「まああれだな。ベルルカンは戦争ばっかで子供向けのアニメとか少ないからな。娯楽と言ったら男同士で掘りあうぐらいしかないからな。まあ、アンは東和に来ても掘られてるけど。それにしてもアメリアの奴、なんで三人目の魔法少女にアンを起用しなかったんだ?」
かなめのアンの見方は別として、誠もアンを魔法少女に起用しなかった理由は分からなかった。
「もしかして、嫉妬じゃないですか?アメリアさんは僕に嫉妬しているんです!そうに決まってます!アメリアさんは自分に彼氏がいないのに僕に彼氏が居るのが気に食わないんです!その為の嫌がらせです!まったくひどい人です!」
アンはかなめに向けて静かにそう言った。その口調には押さえているもののアメリアに対する激しい怒りがこもっていた。
「嫉妬ねえ……確かにアメリアは戦地で慰安婦扱いされていた時以来男は居ねえ。それに対してアンには今現在彼氏がいる。ああ見えて、アメリアは結婚相談所に登録して百名近くと見合いして全部断られた経験がある。なるほど、アンよ、それは中々いい見立てだぞ」
その高身長と出産経験があることからハイスペックから自分と同スペックの見合い相手にすべて断られたアメリアのことを思い出してかなめは納得したように頷くとアンの肩を叩いてその推理を讃えた。
二人の邪推に呆れながら誠はそのまま画面に目を向けた。
『グリン君!』
小夏の声にピクリと手のひらサイズの熊が動いた。そのまま手足を動かし、グリンは自分が生きていることに気づいた。
『ごめんね小夏。どうやら魔力が何者かに吸収されているみたいなんだ。僕達はその存在を魔力に依存している。だから元の大きさを保つことが出来ないんだ』
小熊はそう言うと立ち上がって小夏を見つめた。
『でもそれじゃあ……』
不安そうに姉役の小夏と一緒に小夏は小熊を見つめた。
『大丈夫。僕の見立てに間違いは無かったよ。見てごらん、君の姿を!』
二人は小夏のものらしい簡素な姿見に自分の姿を映した。
『えー!これかっけー!最高!グッド!イエーイ!』
そう言って小夏は何度も決めポーズをとり暴れ回った。さすがのサラもこれには驚いて小夏の頭の上に手を載せた。動けなくなった小夏がじたばたと暴れる様。誠は頷きながらそれを眺めていた。




