第110話 意外とまともにツッコむサイボーグ
「おい!この状況は無視か?いいのか?ほっといて!器物破損どころかこれは騒乱罪クラスの被害だぞ!建物とか倒れてるじゃねえか!下敷きになった人間の救助とかしねえのかよ!魔法少女は正義の味方じゃねえのか?被害者は見捨てるのか?」
再びかなめの右手が誠の頭に振り下ろされようとするが、察した誠はそれをかわした。
画面の中では走っていく小夏の後姿があった。同時にパトカーのサイレンが響き渡った。その画面を見ながらアンが大きく頷いてみせた。誠は一体なんで彼が頷くのか首をひねりながら再び画面に目を移した。
すぐにはかったように場面が切り替わった。そこはやはり誠の実家の一部屋だった。主に剣道の大会で役員の人などを泊めていた客間の一つ。そこに小夏と奇妙な小熊もどきを正座して見つめているのは小夏の家の隣に住んでいる女子大生役のサラだった。
『そうなんだ……大変だったのね、グリン君……』
サラはそう言うと省かれた小熊の説明に納得しているように頷いた。
「いや、大変とかそう言う問題は良いから。さっきの破壊された町だけでも十分大変なことだから」
そうツッコむかなめが握りこぶしを振り上げるのを誠は察知してかわしにかかるが、今度はそのまま避けた方向にこぶしが曲がってきた。そのまま顔面にぶち当たり、誠は椅子ごと後ろに倒れた。
「おう、大丈夫か?」
かなめは何事も無かったかのように誠を見下ろす。仕方なく誠は今後は避けないことを決めて立ち上がった。
『分かったわ!お姉ちゃんも助けてあげる!二人でその機械帝国を倒しましょう!』
そう言って隣に住んでいる女子大生役のサラが手を差し出した。その上に小夏が、そしてグリンと名乗った小熊が手を重ねた。
「そう言えばさっき三人そろわないといけないとか言っていたような……一人足りなくないか?アメリアの奴、誰かを配役するのを忘れたんじゃないのか?もう一人の魔法少女候補……そう言えばアンの衣装のデザインが無かったな。アメリアの奴、アンを配薬しようとして忘れたな……間抜けな奴め」
小夏とサラとグリンの会話を聞いてカウラが首をかしげた。
「いえ!こういう展開がいいんです!明らかに最初の設定と矛盾した展開!これぞ上級者向け!どう考えても前後で矛盾している設定!いいなあ、萌えるなあ……」
そう言って画面にくっついて見入っている誠にかなめが生暖かい視線を送っていた。
『じゃあ行きます!』
小熊は立ち上がると回りに魔方陣を展開した。三角の光の頂点にそれぞれ小夏とサラが引き込まれ光に包まれていった。
『念じてください。救いたい世界のことを!思ってください。守りたい人々のことを』
そんな小熊の言葉に誘われるようにして画面が光の中で回転する小夏の姿を捉えた。はじけるようにあまりにも庶民的中学生姿だった小夏の服が消えていった。
「あのさあ、神前。なんで魔法少女はいつもこういう時に裸になるんだ?それに服が消えるって……元に戻る時困るだろ?裸だと」
画面に集中していた誠の頭を軽く小突きながらかなめが尋ねてきた。しかし誠はかなめのツッコミに一々返事をするのも面倒なので、画面に集中して上の空で頷くだけだった。




