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限界を超えるのはカッコイイ

そしてある日のこと、朝ご飯を食べながら父ゲイルがミゲルに問いかける。


「どうだ、ミゲル? 調子のほうは?」


 地下室を練習場として与えられてからというもの、ミゲルは両親にも近況を一切報告していなかった。


 そのせいで父は最初だけ調子がよかったのだろうと解釈していた。


 今日話しかけたのは、上手くいかないときだってあるとなぐさめてやろうという、親心からである。


「うん? 闇の五位階を覚えたよ。言ってなくてごめんね」


 そうと知らずミゲルはうっかり報告を忘れていたと、バツが悪そうに打ち明けた。


「おいおい、ウソだろ……」


「さすがに信じられないけど、ミゲルだしもしかしたら」


 父は持っていたフォークをポロリと落とし、母は頬に手を当てる。

 母のほうが驚きに耐性を持っているようだった。


「ど、どんな魔法なんだ?」


「【暗刻叫/スクリーム】ってやつ」


 父の問いにミゲルは得意そうに答える。

 彼は単純に両親は褒めてくれるだろうと思っていたのだった。


「そ、そうか……」


 という父の言葉のあと、沈黙が舞い降りたので彼はおやっと思う。

 

「実際に見てみたいな。ご飯がすんだら地下室に行かないか?」


「いいよ」


 父からの提案をミゲルは即座に快諾する。


 やっぱり彼も人の子で、誰かに習得した魔法を見てもらいたいという欲求はある──というわけではない。


(五位階魔法が習得できると見せれば、他の魔法書を見せてもらえるはず!)


 という期待だけで彼は動いている。

 そう、彼はすでに自力で読める魔法書はすべて読んでしまったのだ。


 そんなミゲルが次に目指すのは「新しい魔法書の閲覧許可」だ。

 そのためにはぜひともアピールしておきたい。


「私もこの目で見たいわ」


 と母が言ったので、食べ終わったところでミゲルは父とふたりで母の洗い物を手伝った。


「場所は地下だよね」


 とミゲルが聞く。


「もちろんだ」


 うなずいたゲイルが三人のうち先頭になって、彼らはすっかりミゲルの部屋化していた地下室に揃う。


「じゃあ行くよ」


 右横にふたり並んだ両親に誇示するように、ミゲルは呪文の詠唱をはじめる。


「《夜に目覚めるもの。影よりはい出るもの。わが下に集い、大気をつんざけ【暗刻叫/スクリーム】」


 彼は闇の衝撃波を前方に放つ。


「本当に習得しちゃったのね」


 母は愕然としている。


「それに魔法の詠唱がかなり速いな……あんなに速く唱えられるものなのか?」


 父は驚きながらも疑問符を頭の中で並べていた。


「ねえねえ、見てくれた?」


「ああ」


「ええ」


 ミゲルは得意満面に両親に駆け寄り、そこで彼らが放心状態に近いことに気づく。


「何と言うか、すごすぎて理解が追いつく気がしない」


「えっ?」


 ミゲルは父の言葉にきょとんする。


「父さんは四位階使えるんじゃなかった?」


 だから父のほうがすごいだろうと彼は視線で言った。


「そ、そうか。そこからだったか」


「教えてなかったのね。確認しなかった私のミスでもあるけど」


 両親は動揺し、何かを悔いているような顔になる。


「ミゲル、よく聞いてくれ」


 ゲイルはしゃがみこんで視線を息子に合わせ、その小さな肩に手を置いた。


「普通の人間が習得できるのは、四位階が限界なんだよ」


「えっ……」


 ミゲルは一瞬何を言われたのか、理解できなかった。


「それ以上の位階を使えるのは英雄と呼ばれる人くらいなんだ」


 と父が言うと、


「ミゲルはもしかしたら英雄クラスかもしれないけど、早熟なだけという可能性も高いのよ」


 母が優しく微笑みながら続く。


 彼らは息子が将来打ちのめされないようにと、いまから諭しておこうという考えで一致している。


「そうなんだ」


 ミゲルは驚いたものの、すぐに自分なりの答えを見つけてしまった。


「じゃあ普通じゃなくなればいいんだね」


「……えええ」


 両親はわが子がとんでもないことを言い出したと面食らう。


「限界を超える! うん、カッコイイ!」


 とミゲルは両親をよそに決意してしまった。


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