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最初は誰でも覚えやすい

「俺ってそんな変なことをしてますかね?」


 とミゲルは不思議そうにライネに聞く。


「ああ……普通五位階魔法をひとつ覚えるのに、一か月くらいかかるものだぞ」


 彼女は愕然としたまま答えてくれた。


「え、そうなんですか?」


 ミゲルはおやっと思って聞き返す。

 そんなにかかった記憶がないと首をひねる。


「……最初のうちは、七位階は比較的すぐに覚えられるものだが、すぐに限界は訪れる。私の家では記憶制限と呼んでいる」


「記憶制限、ですか」


 だんだんと魔法が覚えづらくなるなら、たしかに制限がかかっているようなものだろう。


「カッコイイ表現ですね」


「その答えは予想してなかった……」


 ミゲルの率直な言葉にライネは苦笑する。


「だが、お前の人となりをすこし理解できたかもしれん」


「俺はただの魔法好きですよ?」


 彼女の言葉にミゲルは不思議そうに言った。

 理解が必要なことは何もない、と彼は本気で思っている。


「はは、お前が思うのならそうなんだろう。お前の中ではな」


 ライネは愉快そうに笑い出す。


(お、好きなセリフが出た)


 ミゲルは内心すこし感動する。

 実際に言われるところに遭遇し、しかも対象が自分なのは計算外の喜びだ。


「なんだ、急にニヤニヤして? 変な奴だな」


 当然ライネに彼が喜ぶ理由がわからず、怪訝そうにする。


「いえ、個人的な問題です」


「なら気にしないが、女の顔を見てニヤニヤするのは変質者だから気をつけろ」


 ライネは鼻を鳴らしただけで追及はしてこなかったが、かわりに辛らつな言葉を投げてきた。


「きついけど、女子はそうですね。男にしておきます」


 男だったら犯罪者予備軍に間違われないだろう、とミゲルは安直に考える。


「いや、男相手にやっても無礼だから慎めよ!?」


 ライネは思わず叫ぶ。


「あ、はい」


 そういうものかとミゲルは素直にうなずいた。


「何か調子くるうな……」


 ライネは頭に手を当ててゆっくり首を横にふる。

 頭痛をこらえているような表情になっていた。


「大丈夫ですか?」


 ミゲルは純粋に心配する。


「イラっとするけど、悪意がないのはわかるから難しいな」


 ライネは舌打ちをこらえながら答えた。

 悪意がゼロだったせいで怒りが空回りしてしまう。


「まあいい。お前は大した逸材だな。どうだ? 一つ私と手合わせをしてみないか?」


「え、いいんですか?」


 彼女の提案にミゲルは食いつく。


 上級生とは簡単に試合ができないと思っていたのだから、逃がさない手はないという気持ちが強い。


「やはりお前は変わっているな」


 とライネは微笑む。


「私相手だとほとんどの男は尻込みするのに。勇敢なのか、それとも怖いもの知らずなだけか」


「たぶん後者です」


 ミゲルが言うと彼女は上機嫌な笑い声をたてる。


「自分で言うのか! まあお前らしいと思ってしまった私の負けかな」


「はぁ……?」

 

 勝った負けたはどこから来たのだろうとミゲルは思う。

 このふたり、会話が成立しているようで微妙にかみ合っていない。


 幸か不幸か、どちらもそのことに気づいていなかった。


「まあいい。魔法決闘は無理だが、魔法互撃マジックマッチなら下級生とでもできるから、それをやろう」


「何ですか、それ?」


 ライネの発言にミゲルは首をひねる。


「ああ、転入したての一年なら知らないよな。はじめる前に説明してやる。いまは場所取りのために移動しよう」


「わかりました」


 ミゲルは素直にうなずき、彼女のあとをついていく。

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