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空腹の朝はとてもツライ

 ミゲルはとりあえず笑ってごまかそうとする。

 赤い髪の先輩はため息をついて右手で髪をかいた。


「まあいい。俺は寮監のロイ、三年だ。何かあったら俺に連絡しろ」


「はい」


 ミゲルがうなずくと、ロイは半信半疑という顔で彼を見る。


「お前の部屋は201、二階の階段あがってすぐの部屋だ。これが部屋のカギだ。スペアはないからなくすなよ。あと壊すなよ」


「はあ」


 なくすのはともかく壊す人なんているのかとミゲルは思ったが、聞き返すのは避けた。


 そして部屋に行き、ミゲルはカバンを適当に放り出し、仮眠をとるつもりで朝まで爆睡してしまった。


「……あれ?」


 彼はベッドの上で目をこする。

 頭が動きはじめて現状を把握すると、まずはシャワーを浴びて服を着替えた。


「あー、どうしよう」


 部屋に置かれている時計を見ると八時十五分を回っていた。


「朝ご飯を食べる時間はないな、これ……」


 とつぶやくと同時に盛大に腹の虫が鳴る。

 昨日の夜から何も食べてないことを自覚してしまったせいだろう。


「腹が減ったら魔法を覚えられないかも……だいじょぶか、俺?」


 と口に出してみたが、彼はどうにも自信を持てなかった。

 制服はない、学生証もない、食べるものだってない。


 そんな現状を改めて彼は認識し、


「魔法の授業がないならサボりたいくらいだけど、カリキュラムがわからないからなあ」


 とつぶやいた。

 サボった授業が魔法に関するものだったら、きっと一生後悔するだろう。


「カリキュラムを把握するまではサボれないな」


 興味あること以外したくない自分に言い聞かせ、彼は部屋を出て寮の外に出た。


「遅いよ!?」


 するとそこにはクロエが待っていて、大きな声を浴びせる。


「うん? 何でクロエが」


 と言いかけてミゲルは、八時二十分にという話を思い出した。


「どうやら忘れてたみたいだね」


 ジト目で彼女に見られるが、返す言葉もなく彼は小さくうなずく。


「ごめんなさい」


 そして謝ったが、同時に盛大に腹の虫が鳴る。


「もしかして朝ご飯食べてないの?」


 クロエの表情が怪訝そうになった。


「昨日の晩も……横になって気づいたら朝だった」


 ミゲルは恥ずかしそうに告白する。

 言葉に出して説明すると、余計に腹が減った気がした。


「ああ、疲れてたんだね。寮に入るくらいだもんね。平気そうだったから、気づいてなかったよ。ごめんね」


 クロエは急に優しくなる。

 いたわりような視線を向けられて悪い気はしない。


「このあと先に職員室に行かなきゃね。そこでフィアナ先生に相談しましょ」


 と彼女は言った。


「うん」


 他に手は何もないよなと思いながらミゲルは同意する。


「さ、ついてきて。こっちだよ」


 彼女にあとを彼はついていくが、魔法のことと空腹のことで周囲の光景はまったく頭に入ってこなかった。


 職員室の近くに行くとフィアナがふたりを見つけ、近寄ってくる。


「おはよう、昨日はよく眠れた?」


 彼女はまずミゲルに笑顔で話しかけてきた。


「眠れましたけど、眠りすぎて何も食べてないです」


 腹をさすりながら彼が答えると同時に、腹の虫が盛大になる。

 彼の気のせいでなければ鳴る感覚がだんだんと短くなってきていた。


「あら、それは大変ね」


 フィアナはすこし悩み、一度職員室に戻る。

 そして彼女は赤い布に包まれた四角の箱を彼に差し出す。


「これはわたしのお昼ご飯のサンドイッチよ。本当はダメだけど、歩きながらでいいから食べて」


「え、いいんですか?」


 思いがけない展開にミゲルは目を丸くする。


「ダメだって言ったでしょう?」


 フェアナは笑いながら言った。


「転入してきて最初の今日だけ大目に見るわ」


「ありがとうございます、女神がいる!」


 単純なミゲルは大いに喜んで包みを受けとる。


「ふぅん、ミゲルくんって、誰にでも女神とか言っちゃうんだ」


 離れた位置で見ていたクロエの機嫌がちょっと悪くなった。

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