たくさんの魔法書が並んでいるのはエモい
クロエのおかげでミゲルは無事図書館へ入ることができた。
「何から読もうっかなあ!」
彼はテンションが高くなって声を出してしまい、
「しーっ」
クロエにさっそく注意される。
「あ、ごめん」
彼は謝ってから館内では静かにという貼り紙に気づく。
この世界の図書館でも同じなんだなと感心する。
「魔法書の棚ってどこかな? できれば四位階がいいんだけど」
とミゲルは要望を口にした。
「四位階ならたしか二階だよ」
クロエは言って右手側の階段を指さす。
「あっちに階段があるから行きましょ」
「うん」
彼女に先導されてミゲルは二階にのぼる。
道中、制服を着ていない彼に怪訝そうな視線を向ける者たちがいたが、本人はまったく気にしていなかった。
「魔法書以外、本当に眼中なさそうだね」
とクロエがぽつりと言ったのも彼は聞こえていない。
彼女が聞き耳をそっと立ててみると、
「四位階、四位階、四位階」
と幼児が楽しそうに歌っているようなノリで、ミゲルはひたすら同じ単語をくり返している。
これにはクロエも苦笑いするしてしまった。
ミゲルは子どもみたいだと思われていると気づいていないし、気づいても平気だっただろう。
二階の大きなゲートをくぐったところで彼は立ち止まり、クロエに聞いた。
「どこから行けばいいの?」
「ミゲルくんが得意な属性次第だよ。何が得意なの?」
彼女は答えてから問い返す。
「闇、風、光の三つだね」
とミゲルは答える。
「え、三つも得意なの!? いいなあ、すごいなあ」
クロエは目をみはって感嘆し、それから羨ましがった。
「クロエはどうなの?」
ミゲルは自分がすごいのかすらわからず、彼女に問いを放つ。
「わたしは土属性だけなんだよね。土属性に適性があるなら地属性も覚えられるって言われているけど、なかなか難しくて」
彼女は複雑そうな顔をしながらも答える。
「地属性ってレアな属性が使えるなら、すごい羨ましい。俺ってレアじゃないんだよね」
ミゲルは本気で言ったし、伝わったからこそクロエは苦笑した。
「闇と光の両方を使える人もレアなはずだけどね」
「え、そうなの?」
彼は知らなかったときょとんとする。
その反応にクロエは思わず彼を見つめた。
「もしかしてミゲルくんの家、普通の家庭なの?」
「うん? 一応両親は魔法使いだよ」
彼女の質問の意図が理解できず、ミゲルは首をひねる。
「ああ、普通の魔法使いの家庭ってことだね。納得」
クロエのほうは彼の答えを聞いて、うんうんとうなずいていた。
「それより闇属性の魔法書ってどこ?」
ミゲルはもういいだろうと自分の欲求に戻る。
「ああ、それならこっちだよ」
クロエは笑いながら、一番右端の棚へと彼を連れていく。
「おおー!」
ミゲルは棚に並ぶ本の背表紙を見て一気にテンションが上がる。
「しーっ!!」
今度はクロエだけではなく、近くにいた女子生徒にも注意された。
「あ、ごめん」
ミゲルは謝ったが、視線は本棚にくぎ付けになっている。
「本は逃げないから」
クロエは苦笑しながら彼を制止しようと試みた。
「うん」
ミゲルはうなずいたものの完全に上の空である。
「ダメだこりゃ」
彼女はあきらめて図書館のルールを教えた。
「読むなら一冊ずつだから。二冊以上手に取るのはルール違反ね」
「わかった」
図書館のルールは耳に入るのか、と彼女は言わなかった。
短時間なのにミゲルの性格がだいぶ理解できた気がする。
「魔法書がたくさん並んでるのがエモい」
ミゲルは目を輝かせながらつぶやき、一冊を手に取った。
「【黒破衝/クラッシュ】の魔法か」
とクロエは表紙をすばやく読みとる。
ミゲルは立ったまま読みはじめた。
「あつかいが難しいものが多いはずだけどな、闇属性って」
彼は何ともないのだろうか、と彼女は思う。




