二次職 その1
「これはこれは、今回はどのようなご用件でしょうか、ゼロ様?」
「トリガさん、私は様付けで呼ばれるような人間ではありませんよ。今日は転職をするために教会に来ました。修行の方はまだまだ先が長い状態です」
教会に入ると直ぐにこの教会の神父であるトリガさんが駆け寄って来て要件を尋ねてきた。普通は一般人に対して神父などと教会で一番身分が高い人が出迎えになど来ない。これも師匠の弟子になった影響だ。そのおかげで宗教国関連の場所ならばどこも好待遇で受け入れられる。
様付けは現実世界で散々呼ばれているので慣れている。だが、この世界に来てまだ私は住民のために何かしたわけでもないのに『様』をつけて呼ばれるのは納得がいかない。これではただの、虎の威を借る狐と同じだ。
「ゼロ様が何と言おうと私どもがゼロ様のことを敬称なしで呼ぶことなど許されませんよ。かの聖魔典管理神官で在られるリーン様のお弟子様なのですから。それで今日は転職のために来たのでしたね。それでは今から転職の間にご案内します。ついてきてください」
やはり、師匠のネームバリューが大きすぎるからか。中には私に対して不満を持っている人もいるだろう。『リーンの弟子になれたのはただの運』だとか『本当はそんな資格などない』と、そう思っている人がいるはずだ。
確かに師匠の弟子になれたのは運が良かったからだ。私があの場で師匠に勝つことなど万が一にもあり得なかったのだから。だが、師匠は私を弟子にしてくれた。その事実は変わらない。
もし私がふさわしくないというのであれば、そいつは師匠の期待に応えるためにも私の全力を持って叩きのめす。
それに今、私を慕ってくれる人たちもいる。仮に彼らが師匠の弟子であるから慕っているのだとしても慕ってくれていることには変わりない。いづれそれが師匠の弟子だからという理由ではなく『ゼロ』だからと慕ってもらえるよう私はこの世界でやるべきことを成すまでだ。
少しシリアス気味になってしまったがトリガさんに言われるがまま彼の後を追う。
「ここが転職の間です。転職は部屋の中央にある本を触れることによって次の職業が選択可能になります」
そういって転職の間に入るとトリガさんが中央を指さす。そこには辞典程の大きさで表紙に金色の魔術陣が刺繍された書物が鎮座していた。それもただの魔術陣ではなく私たちがアーツを使ったときに出る魔術陣よりも遙かに緻密で美しい魔術陣だ。
「あれは凄い魔術陣ですね。それにしても転職するのにあの本が必要なのですか。私はてっきり神像かなにかに祈りを捧げるのかと思っていました」
「神々が転職のためにわざわざ力を使うことはありませんからね。遙か昔は神官が神々の眷属である天使からの神託で転職を行っていたみたいですが天使と交信できる神官も限られていますし、殆どの人は転職ができなかったみたいですよ」
「それであの本が天使から恩賜されたのですか?」
「いえ、違います。あの本は錬金術の生みの親と呼ばれるグライン=リモールが作り出した最高傑作の1つ万象の理【模擬神器】で、賢神様が所有する神器の能力の1部を真似て作られた書物です」
グライン=リモールってどこかで......ああ!! 師匠から譲り受けた聖書を作った人か。こんなものまで作ってたのかよ。しかし、こんなものが置かれてたら気になってしまうじゃないか。鑑定っと。
「ッツ!?」
鑑定が弾かれた!! それだけじゃなく反撃もしてきたのか? 驚いたことにHPが半分以上削れている。初めてだぞ一回でここまでHPを削られたのは。どんな仕組みしてるのだ? ......そう言えばバーストロックには一撃でHPを全損させられていたのだった。いらない記憶は消しとかなければ。
「鑑定でもしましたか? あれは私たちのような平凡な者が視ていい代物ではありませんよ。噂によればあれは神々にも届き得る限られたものにしか辿り着けない極地。その技巧の全てが込められた深淵級のアイテムらしいですからね。それを何十個と作った彼はまさしく天才、いや天才などでは言い表せないほど優れた人だったのでしょう。そんなことより、その本に手を置いて転職と念じてみてください」
そんなことではないのだがトリガさん。今のは重要情報かもしれないでしょう。要はアイテムの等級の最大が深淵級かもってことだ。まあ、いい。まずは転職を済ませてしまおう。どうせ教会にはこれからも通うからな。
万象の理に手を置き転職と念じる。すると独りでに本が開き、もの凄い勢いで捲れていく。勢いが速すぎてよく見えなかったが今までの私の行動ログが書かれていた。転職で成れる職業はプレイヤーの行動で変わると言うのは本当だったのか。それと保有スキルにも関係がありそうだ。
万象の理が中ほどまでページが捲られたとき突如としてその動きが止まり、私の目の前に複数の職業が開示された。
転職可能二次職
・二級神官
・聖神官
・邪神官
それでは転職の時間だ。




