会合
時刻は13時。昼時は過ぎ、太陽も既に傾き始めている。そんな頃になって私はギルドにある会議室に向けて足を進めていた。昨日はウォルターさんに事のあらましを伝えてからログアウトし、再びログインするのが先ほどになってしまった。
本当は起きたらすぐにログインする予定だったのだが現実の方で少しだけ体を動かしたくなったため5時間ほど道場に籠っていた。それと早朝に姪が来ていたのでその相手を務めることにした。
姪もAWOをプレイしているため自然とゲーム内の話になったがどうやら姪は王都ではなく迷宮の街にいるようだ。私は依頼を受けていたため王都の詳しい話をすることは出来なかったが姪は迷宮の街に攻めてくる魔物と既に交戦したらしい。
話によれば今のままなら前線維持は難しくないが魔物の数または質が上がると手に負えなくなる可能性もあると言う。ただ、今はプレイヤーが街から出て積極的に魔物を狩りに行っているのが現状なため街に立て籠もる戦術を取るのなら住民の冒険所もおり、最悪な事態は防げるようだ。
「来たか、ゼロ。昨日は大変だったようだな?」
「PKががっつり絡んでいたからな」
会議室に入って一刀の下に向かうと早速昨日の話題が飛び出した。私の話はどういう訳かギルド内に広まっているようで投げかけられる視線が鬱陶しかった。
「やっぱり赤の雨だった?」
隣に座っていた聖が問いかける。今回の会合は一クランから3人まで出席できるため私以外に一刀と聖が来ているのだ。それはそうと聖の質問に『久遠もいたがな』と答える。それを聞いて聖は苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。
「やっぱり久遠もいるよね。どう? 勝てた?」
「いや、甘くみても引き分けだな」
「そこまでか? お前はカンストしてるだろ、それでも勝てない程なのか?」
「久遠のヤツもカンストしているようだからレベル的には五分だな」
「そう言うことか。それで引き分けに持っていけること自体が凄いがな」
それから数分程3人で情報交換をしていると会議室に全員が集まり、会合が始まった。
「定刻通り全員が集まったので会合を始めます。まずは現状から。始まりの街は現在においてもスタンピードの予兆は見れず、鉱山の街では鉱山から魔物が溢れ、これに対して冒険者が交戦中。森林の街は魔物が攻めてきてはいるが数が少なく問題ないとのこと。迷宮の街についても同様に冒険者の活躍により被害は出ていないようです。それに対してここ、王都では既に大量の魔物が襲来しており、王国兵士にも負傷者が出ています」
一昨日までは魔物は探さないと見つからなかったのに今では防壁の上に立てば魔物の姿を簡単に視認できる。それらが全てこの街に攻めてきているのだから一大事だ。
ただし、経験値稼ぎに躍起になるプレイヤーがオリジナルスキルを使用して狩りをしているおかげもあり大事には至っていない。
「このまま行けばこのスタンピードが終わるまで防衛は出来るでしょう。ですがイベントクエストであることやPK集団、つまりプレイヤーが関与してスタンピードが起こっていることを考慮すれば残りの時間でさらに攻防は激化すると私たちは考えています。これについては全員が同じ意見と言うことでいいでしょうか?」
教授の問いに全員が頷いた。
「それではこれからの対策について話していきたいと思いますが、その前にゼロさんが魔の森でPKと戦闘しているのでその時の情報を共有してもらいます。製品版になってPKと戦闘した方はこの中で少数でしょうから敵方の実力を把握しておくことは非常に重要です。ゼロさん、お願いします」
「了解した。ここからは私がPKと戦った上で感じた実力について話そう。教授も言った通りやつらは確実に攻めに来る」
「ちょっといいですか? 何故断言できるか根拠を教えていただきたいですね」
話の腰を折ったのをすまなそうにアーサーが質問を投げかけて来た。
「PKによって既に一つの村が壊滅した。根拠としては十分だろ?」
「ちょっと待て!! その話は本当か!?」
「ああ、本当だ。最後までは見ていないが住民が殺されていくのはこの目で確かに見た」
「ッ、テメェ! 人を見殺しにしたって言うのか!」
「リーダー落ち着いてください!」
「ふざけんなよ! 放せ苉亥須、あいつは民間人を守るくらい容易く出来る実力を持ってんだよ。それが見殺しだと!」
「ゼロさんにも何か訳があったはずです。一旦落ち着きましょう」
「クソが! それなりの訳があるのかよ、ゼロ!」
「第一に私一人で戦い続けても数の差で必ず負けていた。第二に村人よりも優先すべき人物がいたからだ」
「やっぱ許せねぇよ! 人数差で負けてたから逃げた! 大多数の命より個の命を優先した! 何のための力だ! 何のために俺たちは生き返れる!」
「そのくらいにしとけ、少々見苦しいぞ」
「お前もか、龍角! お前たちに俺の気持ちが分かるのか! 助けたくても助けられない。何故なら力が無いからだ!! それなのに力を持つヤツはその力を人のために使わない!!」
激怒に駆られ席を立った烈慈円怒を押さえ込むように偉丈夫の男、龍角が立ち上がった。




