試し斬り その1
「木材と金属が融合するのは初めてみたけど、こう言った現象は意外と多いんだって。特に魔物の素材って言うのは特殊で魔力を宿す物質に影響を及ぼすことが知られているらしいよ」
「そうなのか。それではこれからの装備はより強力になっていくのか?」
「ん~、必ずしも強くなるわけではないけど何か変わった力を持っていても不思議ではないかな。説明は以上だからとりあえず試し斬りしてみなよ」
アルに連れられてちょっとした広さを持つ部屋に案内される。
この工房は訓練室まで完備されているのか。私が利用することは無いが借りるのに一体幾ら掛かるのか気になるところだ。
「試し斬りって言っても樹王は木刀だから藁とかじゃだめだよね。適当な鎧を持ってくるよ。ドガンが失敗作で処分するって言ってたやつがあるかも」
訓練室に私を案内したアルは試し斬り用の案山子を取りに部屋を出て行ってしまった。
魔力を纏わせれば斬撃属性が付くので藁でも問題ないと言おうとしたがまあいいか。どっちにしろ藁だけでは樹王の性能を測るのに不足だ。素材が何か不明だが鎧なら一定以上の耐久値はあるだろう。
「刃渡りは導魔と変わらないがこちらの方が重量がある。居合で使うには向かないな」
その場で樹王を一振り、二振りと空を切りながら感覚を確かめる。
魔金銀合金とやらがミスリル鋼よりも重いからか右手にはずっしりとした重みを感じられる。だが片手で振るうことは可能だ。これなら片方に導魔か硬魔を持って二刀流でも問題なく動ける。
「これは凄い。展開速度は導魔を超えるな。しかし、魔力伝導性が高すぎるのも考えものか」
次に魔力を流してみる。
魔含の硬木も魔金銀合金も魔力に対して高い適性を有するので簡単に魔力が流せると思っていたのだが想像以上だ。
MPを消費することで一瞬にして樹王に魔力が纏わり付く。
魔力伝導性とは魔力の流れ易さは勿論のこと変換効率も含まれているのだろう。導魔に何時も込めているMP量よりも半分以上少ないMPで魔力が刀身を全て覆った。
だが導魔のように魔刃が上手く形成されない。魔力の刃を形成しようと樹王の切先から魔力を伸ばそうとするがどう言うわけか魔力が樹王に引っ張られてしまう。
魔刃が使えないのは想定外だが感覚からしてもう少し私の魔力を馴染ませれば今よりは改善されそうな雰囲気があるのでこれについては一旦保留にしておく。
樹王を正眼で構え、左から右に斜めから一閃。さらに一閃。
血振りの要領で樹王を振り払い、腰に戻す。それと同時に藁が崩れ落ちた。
「斬撃属性は特に問題は無しか。やはり魔力に鋭さを持たせるだけなら戻されることは無さそうだ」
魔刃で刀身を伸ばすことは出来なかったが導魔のように木刀でありながら斬撃を放つことは変わらずに出来るようだ。
木刀に切断性を求めるなと言う話ではあるが金属製の刀では魔術溶媒として使えないのだから仕方がない。飽くまで魔術溶媒として木刀を握っているのだ。
まあ、メタモルフォーゼがあるので木刀でなくても構わないのだが見た目で油断を誘える可能性も捨てきれない。
それに銀樹刀だとエンチャント・カースなどのアーツが乗りやすい気がする。これも魔力親和性とやらが関与しているのだろう。そう言った面でも金属製の刀より使い勝手が良い。
「お待たせ。て、あれ? これ、ゼロがやったの?」
「魔力操作の応用だ。柔らかい物なら斬ることも難しくない」
「へぇ、ゼロも使えたんだ。それよりドガンから壊してもいい鎧もらってきたよ」
「いや、待て。私以外にもこれと同じことが出来るやつがいるのか?」
「いるよ。でも、ゼロとは逆のことをやってたかな。確か、剣に魔力を纏わせることで刃を潰して鈍器として使ってたよ」
「それも出来るのか。確かに切断力を持たせることが出来るなら逆も然りだしな。ところで、それは誰だ?」
「顧客の情報だから秘密。けど、ゼロも知ってる人だよ」
この話はこれ以上掘り下げても情報は得られないのでやめておく。だが私以外にも魔力を使った応用が出来る人物がいることを知れたのは大きい。話を聞く限り、その人物は金属製の武器を使っているようなので下手をすれば私より魔力操作が達者なのかもしれない。
私が知っている限り金属で魔力伝導性が高いのはミスリルくらいだからな。それか魔物の素材だが結局は他の金属を使い耐久値を上げているので魔力伝導性が下がる。それにミスリルの剣なども柔らかいので合金にしなければ使えない。
これらのことを踏まえ、その人物が戦士であると言うのなら思い当たる節がある。
確証はないが昨日の会合で顔を合わせたし、このワールドクエスト中に共闘する機会もありそうなのでその時に探りを入れてみるとしよう。
「これは処分決定のやつだから切っても凹ましても大丈夫だよ」
藁の代わりに置かれた鎧は露店で売られているような装備よりも質が良く、マーケットにでも出せば即売れしそうな装備であるがドガンさんの悪い癖が出たに違いない。私からすれば試し切りに使うなど戸惑うレベルだがこの鎧もどこか満足が行かない部分があったのだろう。
なら、遠慮なく使わせてもらうまでだ。
魔力を纏わせながら樹王を上段に構え、勢いよく振り下ろした。




