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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第4章:灰の月委員会の存在-1
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No.76「今、危惧(うれう)べきもの」

「――――なっさけないわねぇ。死ぬ一瞬まで思考を止めるなんて馬ッ鹿じゃないの!」


 先程の銃声は愛花が放ったものだった。彼女の正確な射撃により拳銃を手から弾かれた四ノ宮へ、夜斗はお返しだとばかりに腹部に蹴りを入れた。


「うるせぇ。仲間助けんのにつべこべ言うなよ。器小せぇな」


「んなぁあっ! 助けてもらっといてその態度なんなのよ!?」


「こら〜、高二組はすーぐ喧嘩になる!」


 止めに入ったアルを尻目に二人が鼻を鳴らすと、四ノ宮も立ち上がった。


「仲良いね。名無隊……だっけ」


 起き上がった彼は、辺りを一瞥した後に考察しだした。


「周りが騒ぎになっていないという事は、この場所に視覚的にも物理的にも対応する結界が張ってあるって事だね。七年前までは近くで結界師がやってくれてたけど、今は本部のコンピューターからもできるんでしょ。すごいよね、技術の進歩って。これも針裏のおかげかな」


 答えずに表情を消し、アルは質問を口にした。


「……貴方に訊きたい事があるんです」


「何かな」


「七年前に亡くなったはずの貴方は、どうして生きているんですか」


 核心に迫る質問であり、この謎を解き明かす事は重要に思えた。だからこそ答えを求めたのにもかかわらず、それを受けた彼の表情を捉えてからどっと後悔の念が押し寄せた。


「……それはとても簡単な事だよ。君達にだってできる。ただし、それは人として存在できなくなる代償を払う事になるけれど、俺的には安いものだとは思うよ」


「つまり貴方は、人外って事ですか」


「その通り」


 愛花の言葉に頷くと、四ノ宮は自嘲気味に笑った。


「死んだくせに生き返ってまで成し遂げたい事って、なんだと思う?」


「……さあ。あたしには分らないし、分かりたくもないわよ。死んだら死んだでそれまでって決めてるわ」


「本当にそうかなぁ? じゃあ、君も死んでみたら分かるかもしれないね。試してみようか」


 彼の放つオーラが人外特有のものに変化した時、偽りが空気に解け出して本性を暴き出した。ドス黒いオーラが彼の体から滲み出て、周辺の景色を歪めている。

 一目見ればわかる位に、彼が何者なのかを肯定する要素となる。しかし周りの人間は見向きもしない。混乱を招かないよう四人の姿は一般人の目に見えていないからだ。


「さ、退魔師さん。ブールとAMS、どっちが生き残るか勝負だね」


 彼が針裏に似た粘り気のある笑顔を浮かべた時、姿なき冷めた声が聞こえてきた。


「――――おっと。背中がガラ空きっスよ」


 刹那に肉を切り裂く音がする。彼の手には小型のナイフが握られていた。


「やっほぉ、四ノ宮。四ノ宮には後ろにも目がないと簡単に殺せそうっスね」


「…………針裏」


 その瞳にはおよそ怒りというものは感じられなかった。いや、それだけではない。感情が感じられなかった。

 そんな彼の引き裂かれた背中の傷が、不気味な音を立てみるみる再生していく。


「……姿は人なのにいよいよ人外らしいや。死人が生き返ってしかも再生するあたり、食屍鬼(グール)系っスかねぇ。どうしたものやら……」


「七年前は必死に助けようとしてくれたのに、今じゃ必死に殺そうとしてくるなんて悲しいよ」


「しょうがない事っスよ。だって敵だもん」


 無感動な針裏とは対照的に、四ノ宮の瞳へ悲しみが混じった気がした。


「…………こっちにこない?」


「それは、聞けない誘いっスね」


 当然の事のように返す針裏に、四ノ宮は溜息を吐き出した。


「まあそう言うとは思ってたんだけどさ。俺はたまたまここにいたんであって、任務でもなんでもないからもう帰るよ。じゃあね、針裏」


「逃がすわけないっしょ」


 愛花の拳銃をひったくりこめかみめがけ構えるが、ものともせずに四ノ宮は柔らかく微笑んだ。間髪入れずに次の瞬間には針裏が躊躇なく引き金を引く。しかしそれは、空を切るだけに終わった。

 四ノ宮が流れる人混みの中に消えたのだ。


 物質界には干渉しない弾丸を見失った頃に、非現実感から解放された四人の耳は音を取り戻した。

 強敵を目の前にした四人の時を再び動かしたのは針裏だった。


「さ、解散。ここに突っ立ってても仕方が無いしね〜」






 *






「俺の勝ちだ」


 首まで後一センチ。そこで零は刃先を止めた。


「あはは、強いなあ」


「ティアが篦棒(べらぼう)に弱いわけじゃないから心配はないよ。むしろまあまあ強い方」


 先輩の遠回しな褒め言葉に困った顔で頬をかく。両手を軽く上げ降参ポーズをすると、彼は鼻を鳴らしながら刀をおさめた。


「今は訓練室にいるから刺しても斬っても撃っても死なないように調整してくれるけどさ。もし仲間だと思っていた人が敵だったら、さ……こんな風には戦えないよね」


「それは辛いですね」


「敵がさ、人間だった時……」


 口ごもり言葉に迷う零に、ティアは察して言葉を紡いだ。


「人殺しは大義名分がなくちゃあ辛いですよ」


 人外と人の境界線。姿だけでは到底線引きができない。だからこそ心を惑わせる。人外の姿が皆化け物そのものならば、迷う事もないだろうに。


「けれどこれは仕事ですから。それを盾に、私は人も殺してしまうのではないかと思います。人外と同じように」


「顔見知りが敵だったら?」


「……説得しようと試みるんでしょうかね。それとも、有無を言わせず敵とみなすんでしょうかね。私は敵の中に顔見知りがいるとしても、瞬時に敵だと頭を切り替えられる自信がありません。残された可能性にすがると思います」


「それが普通だよね。ただ、迷って自分がやられるような事があれば……」


 ティアからは零の後ろ姿しか見えない。言葉の続きを待ちジッと見つめていると、彼はおもむろに振り返って予想通りの事を吐き捨てた。


「その前に俺が、斬っちゃうよ?」


 訓練室から出て行く背を見送り、一つ息を吐いた。そこに次の客が来る。


「おっ、ティアー! オレと模擬戦やんねぇっ?」


「え、ええ……」


「少し疲れたから休んでからでいい?」と訊こうとするが、餌を前にした犬のように目が輝いている信太にNOとは言えなかった。


「てやぁっ! とりゃあ! うおっとっと……」


 いちいち声に出す信太に、ほぼ無言のティア。両極端の二人の戦いは刹那的に勝負がついた。

 両者ピタリと動きが止まる。


「私の勝ち、だね」


 柔らかい笑みを浮かべながら、鼻に鋒を向けられていた。


「クソォ〜ッ!」


 地団駄を踏む信太にヘラッと笑顔を浮かべ床に座った。


「いつまで勝てるかなぁ」


「何言ってんだよ。オレ、絶ッ対一生勝てねぇもん。声出した方がいいって右京さんに言われて出してるけど、それでもボロ負けじゃん」


「珍しく弱気だなぁ」


「それはティアもじゃん」


「…………え?」


「いつまで勝てるかなぁとかなんか、弱気!」


 感傷的になっていたのかもしれない。

 今後起こるであろう組織同士の戦いや、まだ見えない黒い何かの足音に怯えてさえいたのかもしれない。

 それに気づかされた時、彼女は即座に抜刀し信太へ斬りかかった。それをなんとか受け止めるが、信太は混乱に変顔のまま固まった。


「ティアァアアッ!?」


「――――やっぱり、自己判断で仲間は殺せる気がしないよ」


「え、ど、どういう話の流れ!?」


「ここは訓練室! よし、相手は何があっても死にません! オーケー!」


「何がぁ!?」


 八つ当たりじみたティアの攻撃に、信太はタジタジになりながらも何度も負けを体験する事になる。


「オレ、もう何回も死んでんだけどぉおおおっ!」


 ティアの高い様々な能力は身体的増強剤の役割を果たす霊力の強さにも所以するが、信太には初めから人外が見えていたわけではない。

 その違いはやはり大きく、天然物と養殖物の格の違いを思い知らされる。


「もう一回だティア!」


「せ、千本ノックコースかな……これ」


 しかし負けに腐る信太ではなく、勝ちに傲るティアではない。

 努力家な二人が三十回目の対峙をしようとしていた時、ガラス張りの訓練室の廊下を歩いていく人影を見た。


「訓練場に結構人いるけどよ、あんま他の隊の人と話さないよな」


「あはは、なんだか壁があるよね。同期と同じ隊の隊員以外は、通学の電車の中でよく見かける程度の人みたいな感じ」


「ほんとそれ! 最近やけにピリピリしてるしよ!」


「ああ……そうだね。ブールの事とか支部増設のせいかな?」


「人員募集って支部を作るためなんだろ? だったら支部長とか超多くなんねぇ?」


「四十七都道府県あるからね。局長含め四七人だとして……わあ、会議とか本部で集まる日があったら大変になりそうだね」


「二つの派閥以外にも問題が起きそうだな!」


「わ、笑えないよ……」


 まだ見ぬ未来を憂うティアだった。

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