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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第3章:北海道支部編-1
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No.51「新しい日々」

「現時点で応募総数三千人か。そりゃあすごいにゃあ」


 人外対策局には、最近になってようやく食堂やカフェができた。その他にも様々な施設も新設されたのだが、それはこれから人数が増える事を考慮した上での事だった。

 既にオープンしているカフェテリアには、通信情報専門部(C I S)織原(おりはら)(しおり)と、猫瀬(ねこせ)(すず)の二人がスマホを片手にケーキを食べていた。


「それにしても不思議よね。今までは親しい人を亡くした人しか所属できなかったじゃない? そんなの応募条件に書く事ができないのは分かるけど、これからはその条件を無くす気なのかしら」


「元々その条件って何のためにあるんです? 今まででもたまにそれに当てはまらない人いたし。それにこの組織、身内ばっかの集まりな気がするのは気のせいですかね」


「身内ばかりになるのは、必然的と言っても過言ではないわよ」


 その言葉に眉をハの字にして首を傾げた鈴。黄色の猫目に紅茶を飲む織原の姿を映す。ティーカップを起き、彼女は説明を続けた。


「だってよ、霊感を持つ人間は一般的にどんな人?」


「えぇと、人外遊びでお痛しちゃった人?」


「そう、こっくりさんとかの降霊術とかね。もっと一般的で大多数を占める、最もメジャーなのは?」


「……ああっ、遺伝!」


 鈴がテーブルに手をつき立ち上がる。その際に足をぶつけ、ケーキやティーカップが垂直に跳ね上がった。織原が「落ち着いて」と苦笑しながら言う。


「そう遺伝。もちろん出現しない場合もあるけれど、親のどちらかが霊感を持っているとそれが子供に遺伝したりする。あとは親でなくとも隔世遺伝っていうのもあるわね。となると、自然と身内が集まってきてしまうでしょ?」


 鈴はコクコクと頷いた。


「しかも親しい人を亡くした人となれば、その中でもかなり限定的になってくるし死者(それ)が親兄弟だった場合は……」


「一家に適性者が複数出る事もある!」


「そうなるわ」


 謎解き後の鈴の顔は、スッキリとして爽やかだ。いつもの「如何に楽をして今日という日を過ごすか」という思案顔とは違う。しかしもう一つの織原自身の疑問が解消していない事に、鈴は気がついた。


「じゃあ、条件の意味はなんですかね?」


 これは最初に織原が持ちかけた問いだったが、彼女がそれを口にしたのは鈴が真相を知っているかもしれないと思ったからだ。しかし探りを入れるも期待を裏切られ、皮肉にも自分の質問を鈴に質問として返されてしまった。

 織原は紅茶の水面(みなも)を鏡として代用し、笑顔を確認をしながら努めていつも通りの表情を保つ。そして最大限に自然さを意識し、顔を上げた。


「それよりももっと重要な事を前に聞いた事があるの。……これはあくまで噂よ。だから信憑性はあまりないものだと思ってほしいの」


 念をおす織原に、鈴はただ真剣な面持ちで頷いた。一体どんな真実が語られるのかと思うと、心臓は緊張で大きく脈打ち、じんわりと掌に汗をかいてくる。


「実は、制御装置(リミッター)って誰でも使えるものじゃないらしいの。局員を集めるには、必ず情報収集と分析をして適性があるどうかをみるでしょ。何故かって、不適合者が使用すると人外堕ち、もしくは死亡……なんて事もあるらしいわ」


「な、なんて危ないやつなんですかこれ!」


「嘘よって言いたいところだけど、あくまで噂だってば。嘘か本当かも判らないの。ただ適合者としては、霊感が最初からある人なら近親者の死はなくたっていいらしい」


 でも、と織原は続ける。


「霊感がない人の制御装置(リミッター)の使用は、霊感を強制的に開いてしまう事になるから所謂ショック状態になるらしいわ。その人は人外を見ない人生として生を受けたのに、世界の理に反する事をしたからその分反動が大きいのよ」


 日本人がスラムへ行き、そこの水を飲んで体調を崩すのと同じだろうか。鈴は短絡的にそう考えた。


「精神界を陸地にしてそれを例えるならば、魚が水のないところで生きようっていう無理な話よ。適応して進化しようにも、時間はかかりすぎるくらいにかかるわ。一生を何度繰り返せばいいのかってくらいにね」


 落ち着かず手が寂しいのか、話す間にティースプーンで紅茶をかき混ぜる。鈴はそれを気にせず熱心に次の言葉を待った。


「それでも、ただの一般人だって適性がもらえたりするのよ。イレギュラーがあるって事。別に特段すごい事じゃないわ。修行しても霊感は開けるものだし」


「適性のある人の事がよく分からないんですけど……。どうして近親者が亡くなっただけで、ただの魚が陸でも生きられるようになるんですか?」


「元々霊感がある人はもちろん、親しい人が亡くなる事によって精神界への耐性がつくと謂れているわ。今度は物質界を陸にして例えるなら、一般人は完全に土に足をついているイメージで、適性者と判断される人達は空で鳥みたいに飛んでるのよ。実際は二つの世界の境界線近くを生きているんだけどね」


 連想させられた鳥人間を想像して少し可笑しくなる。鈴の集中力には持久力が欠けていた。それを織原は伝わっていないのだと思い別のイメージで疎通を図る。


「物質界を海に、人を魚に例えるならば、元々霊感のある人はえら呼吸も肺呼吸もできて、親しい人が亡くなった人は普段えら呼吸だけど、肺呼吸もできるようになる進化の過程を歩んでいるってところよ。制御装置(リミッター)で進化の手助けをしているだけ。でも不適合者の場合は、まず肺呼吸するための機能も何も備わってないから、劇的な変化に耐えられないのよ」


「でもたまーに普段見えない人でも見える事あったりしません?」


「人外から干渉をしてきた場合もあるし、年をとってから人外が見えるようになるって事例もあるわ。後者は肉親や友人の死に多く触れてきたかららしいわよ。どうしても長く生きてたらそうなるの。進化しきって肺呼吸手に入れました状態よ」


「うーん……。なんとなくしか分からないような気がします」


 すみません、と付け加えつつ苦笑を浮かべる。すると織原は「まあとりあえず!」と、まとめ文句を言いながら人差し指を立てる。


「親しい人の死を経験した人間という条件は、必要条件ではなく、十分条件なのよ。別に誰かと死別していなくたって、制御装置(リミッター)は使える可能性がある! それは素質次第って事よ! けれど秘密組織として扱いやすかったのが、それだったってだけなんだと思うわ。人肌恋しい人達の憩いの場になれば、簡単に辞めます、さようならとはならないでしょ」


「……檻みたいですね?」


「愛情に飢えてきた人達も多いから、人の役にたっている事で自分を肯定する事もできる。自己肯定感を育てるためには、自分を必要としてくれる何かが必要なのよ。人外堕ちしないためにも、精神衛生には必要な事だわ。檻の中の自由よ」


「……にゃは、にゃははははははっ! にゃんだかブラックー! 弱った人の心に漬け込んで、命懸けで憎しみを糧に人外を倒せってか! そりゃ復讐もできて一石二鳥かもしれないけど……。精神界に近い人達はそれだけでも人外堕ちしやすいのに、そのリスクを高めているようにしか思えないですよ?」


 鈴はこれ見よがしに肩を竦めた。その組織体制は唾棄すべきものだと思ったからだ。


「憎しみのはけ口を作る事で防ごうにも、精神の均衡を崩されてしまえば奈落の底へ真っ逆さま! この組織の存在自体が人間の救済制度に見えているようで、やっぱり適性者は利用されているようにしか見えませんね!」


「そうでもしないと、組織や物質界の存続が成り立たなかったのかもね。そして嫌な言い方をすれば、人外に堕ちないようにと人外を殺してストレス発散している。……これは白砂派の事だけどね。でも、人外対策局との関係は、自覚はなくとも利害の一致でしょ。組織側からしたって人外が増えるのは大変だし、戦力になりうる数少ない大切な退魔師候補を、みすみす取り逃していたら人間は負ける。防戦に持ち込めば、圧倒的不利になるのは人間(こちら)側よ」


 織原は確信を持ってそう述べた。


「だから、必要な救済システムよ。……英雄(ぎせい)は、何にでもつきものなんだから」






 *






「全員合格。正退魔師としてこれからの活躍を期待している」


 総勢十一名の仮編成右京隊、実子隊だった少年少女が局長室で横一列に並んでいる。その前には局長の他に、副局長二人と各専門分野の部署のトップ達が並んでいた。


「では、これより配属先の発表をします」


 織原の言葉により、一層緊張の面持ちで言葉を待つ元訓練生達。希望が通らずに他へ配属される事もあると聞き、かなり落ち着かない様子だった。


「では一人目。人外対策局日本本部研究所に配属されたのは、佐渡(さわたり)(あらた)隊員」


「はい!」


 希望通りの配属に、思わず研究所所長の針裏(しんり)を見やる。相変わらずだらしない格好だが、実力は確かな憧れの存在に近づけ歓喜した。実のところ新はオカルトマニアで、その研究に携わる事を夢に見ていたのだ。


「次に、人外対策局日本本部通信情報専門部に配属、榊原(さかきばら)朱里(しゅり)隊員」


「は、はい」


 不安は解消され、厳粛な場であるにもかかわらず直属の上司になる織原を見て顔を綻ばせてしまう。すると彼女は人懐っこい笑顔で返してくれた。


「人外対策局日本本部広報部配属、黒崎(くろさき)直樹(なおき)隊員」


「……は、はい?」


 希望した研究所では名前が呼ばれず、一体どこに配属されたのかとハラハラしながら聞いていたら、なんと一番地味そうな広報部だった。思いがけないタイミングで名前を呼ばれ、語尾が疑問形に上がってしまう。不満気と言うよりは不安気な彼を見て、広報部部長の(むろ)が口を開いた。


「いやぁ、開始一秒でやられたそのキャラが好きになってしまってね。君みたいなユーモア溢れる人がこれから必要になるなと思って、こちらから推薦させてもらったんだ。よろしくね」


「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 笑顔の引きつる直樹。決してユーモアによりあの状況が生み出されたわけではないのだが、穢れや悪意を微塵も感じさせない輝く笑顔になす術はなかった。


 ――まあ直樹君を選んだのは、パシリやすそうだったからだけど。


 そんな心の内の黒さを知らずに、直樹は推薦を受けた事を誇りに思った。


「人外対策局日本本部所属退魔師部に配属されたのは、バルドゥイーン・フォンシラー隊員。アルフレッド・ウィリアムズ隊員。蔦森(つたもり)夜斗(やと)隊員。桃井(ももい)愛花(あいか)隊員。御祈祷(ごきとう)ティア隊員。高園(たかぞの)佐久兎(さくと)隊員。月見里(やまなし)信太(しんた)隊員。……以上、七名です。これで配属先に関する発表は終わります。所属隊についてですが、バル隊員は仮編成実子隊から実子隊へ。元仮編成右京隊の隊員は、継続してメンバー六人を一つの隊として新編成します。詳細は追って通達します」


 退魔師部希望の七人は希望通りだった。元右京隊はそのまま固まった事に内心喜ぶが、右京とはこれで違う隊になってしまった。その事に少しの寂しさを覚える。そしてこの中には一人だけ、まだ名前を呼ばれていない人物がいるのだ。


雪村(ゆきむら)(ぎん)隊員は配属先の都合により、この場での発表を控えさせていただきます」


 諜報部では既に活動しているのだが、表立っての発表はしないようだった。諜報部というのは元からそういうもので、誰がいるのかすら分からない方が都合がいい。


 人数が増えるこれからは、配属発表は制御装置(リミッター)で、これから引き続き行われる制服授与式は各部門で行われるようになるらしい。ちょうど節目に当たった彼らは特異な事が多かった。


「次に配属先に関係なく公式の場に赴く時の制服、そして配属先の制服等の授与です。八千草隊員と猫瀬隊員から箱を受け取ってください」


 目の前の幹部の人垣で見えなかったが、背後に二人がいたらしい。キャリーバッグくらいの大きさの箱を端にいる隊員から丁寧に渡して行く。二人は涼しい顔をしているが、正直女性にはそれなりに重い物で、後半くらいになるとやはり鈴の顔には早く受け取れと書いてあった。


「人外対策局所属証明書と、それぞれの分野の免許証は後日の配布となります。以上です。質問はありますか?」


 二秒の間を開けてから、再び織原は口を開いた。


「これで配属発表、制服授与式を終わります」


 ――って言っても、報告会みたいなもんだったけど。今回は適当に終わらせるのね。局長って、案外儀式に無頓着なところがあるのかしら。


 ふうと息を吐き出してから、織原は笑顔を浮かべる。初々しい彼らの顔が夏の頃よりも凛々しくなり、これからどんな成長を遂げていくのかを想像するだけで未来は希望に満ちていた。


 ――顔で選ばれたんだとか客寄せパンダだなんて揶揄されてきた彼らだけど、きっといつか、彼らが退魔師の中で一番の隊になる。……そんな気がするわ。前体制と新世代との狭間で、この子達はどう道を歩んで行くのかしら。






 *






 部屋に帰ってすぐ、元仮編成右京隊の六人は渡されたダンボール箱を開けた。


 まず出てきたのは黒いジャケットだった。ボタンはベタに銀色で、人外対策局のエンブレムである六角形が三角になるように三つ並べられたマークが描かれていた。

 そして透明な袋にはピンが数個入っている。蜂の巣を切り取ったような模様の人外対策局のピン、国旗と英語表記で国名が記されたピン、そして配属先を表すマークのピンだ。


 男女共にジャケットの丈は膝くらいだった。デザインやジャケットの形こそ微妙に違えど、軍服のようだった。大きな襟にある白いラインが印象を引き締め、普段の生活では見慣れない小物が散りばめられていた。

 そして戦闘時の服とブーツも入っている。人外対策局研究所(L A B O)との共同開発らしく、説明書も入っていた。


「えーと、なになに……? 『戦闘服を着たままスキャン登録をすると、衣服を精神界レベルの粒子に分解し変換をして、制御装置(リミッター)に保存する事ができる。一度登録をすると発動時に自動でこの服に切り替わり、とても便利でーす。ジャケットは変換に対応していないのでできまっせーん! でも武器はできますよん』……だって」


 アルは読み上げてから、ふざけたその文面の真偽を確かめるべく着ていた学校制服を脱ぎ始めた。ティアと愛花が慌てて目を逸らす。


「ちょ、ちょっと、脱ぐ時くらいなんか一言言いなさいよ!」


「えぇ、そんなにボクの肉体美が見たいの?」


「なわけないでしょ! 着替え終わったら言って」


「もう終わったよ?」


 本当に着ているのかと恐る恐る目を向ける。しかし言葉通りに着ていて、その着替えの速さに驚きを隠せなかった。


「速すぎない……?」


「ちなみに縄抜けも得意だよ!」


「あんたがマジシャンに向いているのはよく分かったわ」


 着用した姿を見てもやはり軍服のような服で、いかにも組織の制服だ。腰のベルトにはホルスターも付いており、刀の鞘をさしておける器具も付いていた。早速そこに刀や銃を取り付ける。


制御装置発動(リミッターオン)! ……よし、登録した。もう解除していいのかな? 制御装置解除(リミッターオフ)!」


 宙に『登録』と浮かび上がっているホログラムにタッチする。発動しても姿は変わらなかったが、解除をすると足元から服が粒子になっていく。消えていく粒子の下には素肌が見えてくる。


「……あれ?」


 アル自身も戸惑う中、解除が完了した時には、身につけてたのはパンツのみだった。


「きゃあー」


「きゃぁぁああああああっ!」


 棒読みで恥ずかしがる中、本当の悲鳴をあげたのは愛花だった。後退り、ティアを力強く抱き締めながら顔を真っ赤にしている。ティアは苦笑しながら、アルから顔を背けて目を防衛した。


「あ、米印で小さく注意書きがあるな。うーんと『制御装置(リミッター)の中にその服そのものが保存されるので、解除をすると消えます。注意してね! 普段は服を着た状態で変身すると思うので、裸になる心配をするのは登録時だけでオッケー!』……だとよ」


 夜斗は「服を着ろ」とその後に付け足す。それに従い脱いだ制服を再び着直し、ワイシャツのボタンを閉め始める。


「えーん、針裏さんの意地悪ぅ。ボクったら純粋無垢なナイスバディ晒しちゃった」


「へぇ、アルは童て……」


 信太の口を佐久兎が手で塞ぐ。


「そういう事さらっと言わないの。それに、アルならもう絶対に卒業し……」


 アルが佐久兎の口に人差し指を押し付け黙らせる。


「女の子の前でそういう話はダーメッ!」


 愛花は鋭い殺気を放ち、ティアは終始苦笑していた。結局アルの純粋無垢説の真偽は分からず終いだが、とりあえず各自登録しようという事でお開きになる。

 自室に戻りティアと愛花は着慣れない服に着替えていると、愛花がすごいという言葉を連発する。


「へぇすごい! だよねぇ、見かけスカートだから驚いたけど、戦闘服なのにスカートは無いわよねぇ、そうよねぇ。キュロットだってすごい! サイズもピッタリすごいわ!」


「わあ便利。刀とか持ち歩かなくても、これで制御装置(リミッター)から呼び出せるんだね! 本当に針裏さんってすごい人だったんだぁ」


 他の人よりは多く関わってきたが、ここで初めて研究所所長の偉大さを実感する。


「でもこれ、発動する前に襲われたらどうするのかしらね?」


 登録ボタンを押し、変身を解きながら愛花が疑問を口にする。


「うーん、そうだよね。あの刀がなかったら太刀打ちできないや」


 刀を頭に思い浮かべ手にするような仕草をすると、その手の中に光の粒子が集まってくる。それが一秒もかからずに形成したのは、紛れもなくティアの刀だった。


「……わぁお、出てきちゃった。これどうしよう」


「出てきたわね。どうしたら消えるのかしら?」


「やっぱ同じくぱあって消えるのかな?」


 言っているそばから刀は粒子になって消えていく。握っていた手には何も残らない。


「技術の発達って恐ろしい……!」


 制御装置(リミッター)がどれ程進んだ技術の結晶の代物なのかや、見かけによらず針裏は素晴らしい人なのだという事を思い知らされる。


 物質界とは対照的な世界、精神界との融合技術が退魔師にはとても必要なものだった。急速にこの技術が進んだのは針裏が研究所で働くようになってからで、今まで退魔師が毛嫌いしてきた精神界を交えた技術を発展させるなど、新しい風を吹き入れたのも彼だ。


 そんな彼が認められるまでは逆風が吹き荒れたが、トップに君臨するのはすぐだった。技術革新と意識改革の第一人者の彼は、局長にも腕には信頼を置かれている。一目を置かれる存在でありながら、その素行は問題のある問題児。頭の良い不良並みに扱いにくい存在だった。


「残念なのは身だしなみと性格だけなのに」


「あはは、学者の鏡みたいだよね」


「針裏さんにとっては天職でしょうね、研究者」


「じゃあ私の天職はなんだろう?」


「カウンセラー」


「え?」


「カウンセラー」


 間髪入れずに二度も同じ事を言われ、ティアは愛花を心配そうに見る。そして過去を振り返るように目線を斜め上に向け、唸っていた。思い当たるものがなかったようで直球で問いかけてくる。


「悩み事でもあるの……? あ、私に話せないなら局のカウンセラーさんもいるし……」


 ――やっぱこの反応の通り心配性すぎて向かないかしらね。


 彼女らしいやという思いで笑顔を見せると、怪訝そうに小首を傾げた。肩から滑り落ちる長い空色の髪が、柔らかくティアの肌を撫でた。

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