No.20「僕の居場所、日常の在処」
午前七時。自宅までは、寮から電車を乗り継ぎ三十分程度で着く。しかし扉の前では緊張によりインターホンを押そうとする手が震えていた。深呼吸を一回。意を決し押すと、家の中からは段々と近づいてくる足音が聞こえる。それに呼応し、心臓も苦しいくらいに大きく打った。
「はい」
出て来たのは父だ。この家には父しかいないのだから当たり前だった。しかし以前よりも痩せ、やつれているようにも見える。
「た、ただいまっ……」
「……入れ」
チラリとキャリーバッグを見て、何かを察してそう言った。サラリーマンである佐久兎の父は、彼にとっては威圧的で怖い存在だった。銀色の眼鏡をかけていて、常に眉間にシワが寄っている。
「どうしたんだ。人外対策局に所属すると勝手な帰省は許されないんじゃなかったか?」
招き入れられるという表現は適切ではないが、リビングまでの短い道のりで核心に触れられ、つい目を逸らしてしまう。
「その様子だと辞めたのか。ふん、所詮お前はその程度だったんだな」
図星だった。リビングに着くと、呆れたように手に持っていた新聞をテーブルの上に投げる。この場からも逃げ出したくなる気持ちを堪えながら、ただ返す言葉のない佐久兎はリビングの扉の前で佇んでいた。
「転校先の学校はまだ夏休みではないのか?」
普段は寡黙な父だが今日はよく喋る。しかし突然棘がなくなり、他愛もない会話に切り替わった。
「うん」
「そうか。隣の家の由紀ちゃんはもう休みなんだそうだ。ろくに挨拶もしなかったんだろ? 顔を出してきたらどうだ。……それじゃあ、父さんは仕事に行ってくるから」
「うん……。いってらっしゃい」
パタンと静かに閉まる音で、自分以外誰もいないこの家が酷く寂しく感じられた。
父も誰もいないこの家を寂しく思う事があるのだろうか。そんな疑問がふと思い浮かぶ。
「まさかね。父さんが……そんな事思うはずがないよ。深読みしすぎだ」
二階にある自分の部屋に着くと、あの日、つまりテロ事件が起きる前日で時が止まっていた。慌ただしく用意していたせいで少し散らかっている。以前よりも部屋が小さく感じられたのは、背が伸びたのだろうか。
「なんだか懐かしいなぁ」
日常に帰ろうという気持ちを持ちながらも、人外対策局から勝手に黙って出て来てしまった事を気にしていた。そんなわだかまりを振り払うかのように、閉めっぱなしだったカーテンを勢いよく開けてみる。夏の太陽の光が眩しい。目が眩み一瞬だけ瞑ると、声が聞こえた。
「……佐久兎ぉっ?! も、もしかし幽霊?!」
その声の主は今いる部屋のすぐ向かいの部屋にいた。彼女は幼馴染の由紀だ。あちらは清々しい程に窓を全開にしていて、身を乗り出して本当に幽霊でも見ているかのような目で凝視し、混乱していた。声を届かせるために佐久兎も窓を開ける。部屋の熱気が外に漏れるのが分かった。
「幽霊て……。久しぶり」
「久しぶりって、いつ帰って来たの?!」
「今さっき」
意味が分からないといった顔であんぐりと口を開け、惜しみなく間抜けっ面をさらしていた。
「……阿呆面だね」
思わず本音が出てしまう。間髪を入れずに分厚い教科書が十メートルくらいの距離を窓から窓へと通過し、そして佐久兎の顔面にヒットした。そのまま教科書と仲良くベッドに倒れこむ。お茶目でふざけた調子の、
「……あ」
という声が微かに耳に届いた。
数分後、意識を取り戻した佐久兎はコブを手でさすっていた。
「痛たた……。いくらソフト部だからって、もう少しくらいおしとやかにしなよ」
「佐久兎が阿呆面って言ったから!」
起き上がらない幼馴染を心配したのと、教科書を取りにわざわざ家に来た由紀。過去にもよくあった光景だが、いつもなら佐久兎がその教科書を投げ返す形で返していた。
「なんでこう乱暴な女の子が多いかなぁ」
ため息をつくと、今度はしかめっ面になる。嵐の海の荒波のような感情の変化に、ただ翻弄されていた過去を思い出す。しかしいつもその怒りの根源が分からず、決まってこう訊く。
「なんで怒ってるの?」
「人外対策局には女の子が多いの?」
「少ないよ。僕の所属してる隊には二人だけ」
「ふうん。佐久兎の事だからいじめられたりしてるんじゃないの〜?」
意地の悪い笑みを浮かべ、おでこを人差し指で弾かれる。これも小さい頃からだった。中学生までは彼女の方が数センチ程身長が高かったが、高校生になりもうチビだとは言わせないくらいに身長には差をつけていた。
「ほらまた暴力。誰も由紀ほど暴力的じゃないよ」
「デコピンだもん。じゃあどんな人?」
「一人は空色の長髪で、前髪がパッツン。とても優しくて……頭も良くて。とにかく不思議な雰囲気の子」
「そ、それってもしかして、ティアちゃん?!」
「うん、そうだよ」
「わあぁっ、本当に?! めっちゃ憧れる!」
「由紀は黒髪だしショートだし乱暴だし、似ても似つかないよ……」
また教科書を顔面に食らう。そろそろ鼻が平面になりそうだった。痺れる感覚に耐えながら、凶器は返さず手元に置く事にする。三度も食らっては
「だからせめてもと思って、前髪はパッツンにしたの!」
「だからか……」
「知らないの?! 今話題の女子高生と言えば、ティアちゃんと愛花ちゃんなの!」
力説を始めんばかりの勢いの由紀に若干気圧される。忙しいせいで旬の話題を全く知らないため、由紀から聞く全ての事が新鮮だった。
「愛花も?」
「呼び捨て?!」
「同じ隊なんだよ」
「はぁあ、マジかっ! 愛花ちゃんはどんな人?」
「ピンクの髪で耳より下で二つに結んでて、つり目でいつもしかめっ面かな」
「見かけは雑誌とかネットとかテレビで知ってるよ。そうじゃなくて人柄!」
「うーん、ティアとは真逆かな? ちょっとキツくて素直じゃない。でも、ティアには結構心を開いてる感じ。あの二人は仲良いよ」
「なんか有名人と友達ってすごい! あ、佐久兎も有名人か。オーラが無いからすっかり忘れてた!」
「無くてすみませんね……」
相変わらず容赦のない言葉だ。物理的な凶器は取り上げたが、実態のない凶器は防ぎようも取り上げようもなかった。
――確かに僕と他の皆は違う。僕は弱くて皆は強い。オーラなんてなくて、一般人に紛れてしまえば僕の事なんて誰にも見つけられないだろう。あんな事がなければ、きっとその他大勢に分類され、名前もつく事なんて一生なかっただろう。
「じゃあアル君と夜斗君と信太君は?!」
「由紀、興奮しすぎ」
「ごめんごめん、ついね!」
ぺろりと舌を出す。何も変わらぬ幼馴染に心底ホッとする。変わらないものがあるだけで安心できるのは、とても幸せな事だった。
「……そういえば、なんで佐久兎は帰って来たの?」
しかしそう思った次の瞬間には痛いところをつかれる。父の次で本日二度目だった。
「辞めたんだ」
「……辞めた?」
これからまたこの家に住むのだから隠し通す事は不可能だと思い、包み隠さず真実を口にする。勇気のいる言葉だったが、それに由紀は素っ頓狂な声で復唱した。
「な、なんで?!」
「いろいろあるんだよ。……あったんだよ」
――いろいろとはなんだろう。なんで僕は、あの場所から逃げるように去ってきたんだろう。別れの挨拶ができなかったのも僕の弱さのせいだ。人と向き合う事が怖かった。逃げるのかと責めるような事は、決して誰も言わないだろう。きっと皆の事だから思う事すらない。そんな人達だ。けれど出て行く事も辞める事も、認められるのが怖かった。自分は面倒くさい人間だ。それは分かっている。しかし引きとめられなかったら、それはそれで寂しいし悲しい。何がしたいんだか自分でも自分が理解できない。
「なぁんだ、少し見直してたのにな」
つまらなさそうに長く息を吐く由紀は、次の瞬間あり得ない言葉を口にした。
「じゃあ、私が人外対策局に入っちゃおうかな!」
「駄目だッ!!」
思った以上に大きな声が出て、語気が強くなってしまった。驚いた様子で由紀は固まっている。
「あわっ……ご、ごめん由紀」
「もう、冗談だよ。……訊いちゃいけないと思ってたんだけど、何があったの?」
「逃げ出したんだよ。命の重さに耐えきれなかったのと、自分の命を懸けられないほどに自分が弱くて。あの輪の中にいて強くなった気でいたけれど、僕は弱いままなんだ。他の皆は強くて、僕はどうしようもなく弱い。ただの足手まといにしかならないと思ったしね。……それだけ」
「それだけって……佐久兎は強いと思うよ。今まで頑張ってきたんだもん」
由紀の慰めの言葉を聞いて、安心している自分がいる。どうしようもなく嫌な人間だ。誰かに肯定されなければ、自分の行動に責任すら持てない。改めて自覚させられ奥歯を噛みしめる。
しかし、何故由紀がそんな辛そうな顔をするのだろうか。佐久兎は訳もわからず困惑した。彼女は悲痛な表情を浮かべ、顔を歪めていた。
「……どうしたの?」
「……私ね、佐久兎がいなくなってから寂しかったの。赤ちゃんの頃から一緒に育ってきたのに、突然いなくなっちゃったから……。そればっかり。佐久兎が有名人になって、どこか遠くに行ってしまうような気がして不安で。自分の事しか考えられなくて、自分以外に目を向けられていなかった。佐久兎達みたいに、視野を広く世界を見る事ができてなかった。……悲劇のヒロインぶってたんだ、私」
――僕がいなくなって、ここまで由紀に影響を与えていたなんて知らなかった。考えてもみなかった事だ。
「いいんじゃないかな、悲劇のヒロインでも」
「……気色悪い事言ってないで荷物開けたら? 片付け手伝うよ」
あっさり恥ずかしい言葉を切り捨てられてしまった。さっきまでの感動ムードは一体何だったのだろう。これが由紀の照れ隠しだと、女心なんて知らない佐久兎は気づかない。
「いやいいよ、着替えとかあるし」
「別に気にしないし。早く渡しなさい!」
キャリーバッグを乱暴にひったくられ、勝手にそれを開けられた。年頃のはずなのに、異性の下着を気にしないのはいかがなものだろうか。そんなツッコミを入れる前に、由紀の顔が青ざめる。
「さ、佐久兎これ……!」
「あちゃあ。いつものくせで持ってきちゃった……」
なんと銃を持ってきてしまっていたのだ。今更返しに行くのもすごく気まずい。しかしこれでは、既に人外対策局員ではないために銃刀法違反で捕まるかもしれない。兎に角、このままでは面倒事になりかねないのは明白だった。
人外対策局の身分証明書も生徒手帳に入れていたからそのまま持ってきてしまっていたし、気づかれないように急いで出てきたせいで、いろいろとボロがある。これだから自分はダメなんだと深く反省した。
「へぇ、こんなの使うんだ! 他の人も?」
「いや、これは援護射撃用のライフル銃だからあまり使われないよ」
「じゃあ普段はどんなの使ってるの?」
「そっちの拳銃」
「こんなんで戦えるんだ! 人外って、めっちゃ大きくて化け物みたいなイメージだった」
「……まあ、いろいろだよ。ちなみに、テロ事件の時にいた僕も混ぜての六人は、あのまま同じ隊。僕と愛花以外は主に刀を使っているよ」
「なんで分かれてるの?」
「戦闘員には二種類あるの。……あんま詳しい事は口外できないから勘弁して」
由紀の目は輝いている。新しいおもちゃを見つけた子供、いや、空腹の犬が飼い主に待てと言われているあの時の目だ。
「えへへ、いいじゃん佐久兎ぉ!」
何がいいのだろうか。機密事項は外部に漏らす訳にはいかない。もう過去の事とはいえ守秘義務がある。
「じゃあもっと皆の事教えてよ!」
「えっと、それは個人情報だから良くない……いや、そんなに悪くない? 拘束力はないから僕の良心に任せられている……?」
自分の良心に全てが委ねられている気がした。
「夜斗君ってさ、怖い人なの? ルックスはカッコいいけど少し荒れてそうっていうか、粗暴そうだし目つきよくないじゃん!」
「夜斗は確かに怖い人だし粗暴だし目が怖いけど、本当はとっても優しくて強いよ」
佐久兎に「勝手に自分を端においやるな」と言い仲間の輪の中に戻してくれた。そんな優しい人だ。
それなのに、佐久兎はキメラを殺した事で悩んでいた彼を助けてはあげられなかった。それどころか、彼を否定するような行動をとってしまったのだ。後悔していた。
――弱さを僕の個性だと言ってくれたのに。注意深く、慎重。やはり弱さの裏返しだと孤独な今では思ってしまう。
「アル君は?!」
――ああ、今はもうあの五人とは関係ないのか……。なのに、今でも仲間みたいな口ぶりで話してしまうのは何故だろう。
「アルはハーフで、隊にとってはお兄さんみたいな人かな。よく皆を見ていて、冷静な判断ができて、行動力があるかな」
「じゃあ信太君!」
「とにかく元気。弟みたいな存在で、とにかく真っ直ぐで友達思い。戦いでは、たまに優しさが仇になっちゃうんじゃないかなって思うな。……皆、優しいし強い。でもそれぞれ違う優しさと強さなんだ。僕はいつも後ろから背中を追い続けてきたから、よく分かってる……」
――――つもり。
あくまでつもりで、本当に理解かっているのかが判からない。憧れは理解とは真逆にあるものだと思うから。憧れは恋みたいなものだ。恋は盲目。憧れは理解ではなく、大げさに言ってしまえば神格化。片思いが楽しいっていうのは、相手を美化して良いところしか見ていないからだ。
僕は皆の理解者でいれただろうか。
皆の背中はとても頼もしく、いつも凛としていた。頼りない僕とは大違いだ――
「佐久兎、考え事?」
「あ……ごめん」
「ううん。あのね、佐久兎のお父さん寂しそうだったよ」
由紀の言葉を理解するのに数秒かかる。空白の時間を彼女が埋めた。
「少しやつれてたでしょ? 佐久兎のお父さんさ、お母さんが亡くなってから仕事ばっかで、ろくに会話もできなかったとかいろいろ悔やんでるみたい。うちのお父さんと夜に飲んでる時に、偶然聞いちゃったの」
「本当に父さんがそんな事を……?」
信じられない。それが率直な彼の感想だった。
「人外対策局に突然行っちゃって心配ばっかりしてたし、ついに独りになってしまったって、珍しく泥酔しながら愚痴ってた」
「まさか、あの父さんがそんな事……」
「不器用なんでしょ! 皆が皆、うちの親みたいに親バカ丸出しなわけじゃないって事だよ!」
取るに足らない自分を気にかけてくれていた事が、素直にとても嬉しかった。しかしまだまだ半信半疑で、父のそう言う姿が全く想像がつかないのだ。
「あ、そうだ。朝ご飯食べたの?」
「まだだよ」
「よっしゃ! うちから持ってくるから待ってて」
そうして元気よく高園家を出て、すぐ隣の佐々木家へ入って行った。その間に一階に下りてリビングで待つ。なんとなくテレビをつけたが、流れてくるのは平和なニュースばかりだ。一般人という身に戻って思ったのは、物騒な事から遠ざかれるこの生活がとても平和だという事だった。
そして彼女は三分もしない内に帰って来る。
「はい、サラダにベーコンにコーンスープにパン! 全てお母さんの手作りです!」
食べ慣れていた味が蘇り、つい二、三ヶ月前までは由紀の母が作った料理を彼女の家で食べていた事を懐かしむ。
「美味しい!」
「でしょ!」
頭の中では最近家庭菜園でも始めたのかなど、パンを小麦粉を練って焼いたのかなど無意味な事を考えていた。手作りなんてスーパーで材料を買ってくるところから始まるに決まっているのに、今はそうして気を紛らわせた。
「……あれ、愛花ちゃんじゃない?」
由紀の言う通り、確かにテレビには愛花が映っていた。休日のショッピング中の風景だ。しかしこれは先週のものらしく、テロップには『謎の六人組、桃井愛花編』となっていた。
という事は他の五人の特集もあったのだろうか。社会現象となっていたのは知っていたが、本人の断りもなしに特集が組まれてしまう事があるのを初めて知った佐久兎は、有名人の辛さを初めて痛感した。
『今日はショッピングですか?』
『はあ、そうですね』
『お気に入りのブランドは何ですか?』
『あの、プライベートなんで』
彼女らしい淡白な受け答えだ。
「……大変そうだね。愛花ちゃん」
「いつもこんななの?」
「知らないの? 結構こんなだよ」
「へぇ、僕こんな事なかったなぁ」
「ほら、佐久兎って影薄いから!」
悪気なんてさらさらない調子でそう言われると、言い返す気力すら削ぎ落とされる。心に刺さった棘は一体どうしてくれるのだろう。棘に塗られた毒はやがて身体中に周り、マイナス思考という症状が現れ始める。
――どうせ僕は何の取り柄もない空気ですよ。
「じゃあ私、今から塾の夏期講習だから!」
「あ、そうなんだ。いってらっしゃい」
「うん、じゃあまた明日!」
夏の太陽みたいな笑顔は信太に似ていた。数時間前までは一緒にいたのにもう懐かしく思える。隣のベッドで寝息を立てている彼は、いつも芸術的なまでの激しい寝相で毎朝作品を作り上げているのだ。それは寝癖であったり、体勢であったり、布団の形だったりする。
「……皆、今頃は学校かなぁ」
そう呟きながらパソコンを開く。元々ネットの匿名掲示板を見るのが趣味で、久々にとれた趣味の時間に少しの高揚感を覚える。しかし大多数を占めるのは、人外対策局関連のスレッドだった。
ファンクラブなるものもネット上に存在している事も知る。まるで信者だ。盗撮画像も上がっている。
「これ、法律云々的にいいのかな?」
つぶやきサイトでも有名人の盗撮画像が日常的に出回っている。仕方が無い事なのかもしれないが、度々問題になっているのも事実だ。
つぶやきサイトのタイムラインを煽っていると、気になるものを発見する。
「なんだこれ?! ある高校で起こった人外の事件は、人外対策局所属のあの少年が故意に起こした……?」
誰がこんなデマを言い出したのだろうか。決して許せるものではない。すぐにキーワード検索をしてみる。
「……は、初めて見た。すっかり話題の中心だなぁ。それにしても夜斗大丈夫かな? 酷い事言う人もいたもんだよ。……ってぇ、僕のフォロワー数がすごい?!」
自分のつぶやきサイトのプロフィール画面に移ると、驚きの数字が目に飛び込んでくる。
「今まで気づかなかったよ……。通知もすごい。返信なんて今更してもなぁ。あ、でも最新のは今日だ。……もしかして他の皆もしてるのかな?」
ネットは恐ろしい。すぐに特定されてしまっていた。東京在住の佐久兎という名前だけで、ヘッダーもプロフィール画像もネットで拾った綺麗な景色の画像とうさぎの画像だというのに。
「いや、名前が珍しいせいかな。あ、ティアだ……!」
なんとフォロワー数が桁違いだ。名前はそのままティアで、他にもティアという名前の人がいるが、プロフィール画像の空色の髪が目印となっていた。最新の更新は昨日の夜だった。
「あ、僕フォローされてる!」
なんとティアは先に佐久兎を見つけていたのだ。いつ頃フォローしてくれたのだろうか。そして他にも対策局の人をフォローしているのではないだろうか、という考えに行き着く。ティアのフォローしている人から探してみる事にする。
「アルだ! アルにもフォローされてたんだ」
顔の写っていないプロフィール画像。しかし制服でアルだと分かる。最後のつぶやきは昨日の午前三時くらい。内容は夜斗の寝言についてだった。いつ頃彼は睡眠をとっているのだろう。それとも寝言で起きただけだろうか。
「愛花もだ……。本当にティアとは仲が良いなぁ」
ヘッダーはティアとの写真だった。名前は律儀にフルネームで、性格に似合わず几帳面な愛花らしいといえば愛花らしい。
夜斗と信太もいた。そして信太のプロフィール画像を見て笑ってしまう。人面太陽が両手に空間除菌消臭剤を持っているのだ。つぶやきも関連性があり笑ってしまう。聞いた事もなかったが、空間除菌消臭剤で除霊ができるというものだ。
皆が自分の事をフォローしてくれていた。それが佐久兎にとっては嬉しかった。
何気ない日常。非日常に足を突っ込んだはずだった彼らは、もうすでに日常に生きていた。佐久兎にとって、今では皆といない方が非日常なのだ。
「僕はこのままどうなってしまうんだろう」
不安で逃げてきたはずなのに、あの場所にいない事が酷く不安だった。
――寂しいのは辛かった。孤独は楽じゃない。しかし群れるのも、楽ではなかった。




