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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第5章:章タイトル未定-1
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No.98「龍崎派の動き」

「話って?」


「隊長が退院しました」


「は? 一週間後の予定でしょ?」


「なんでも集まりがあるみたいで、隊員も参加してほしいとの事で集められました」


 零の質問に対し八千草が説明する隣で、神無は欠伸をかいていた。他に集まっているのは、右京と永環、槐隊の四人だった。九人の集まっているこの場に最後に現れたのは八雲だ。


「ごめんごめん、遅れた」


「揃ったところで、だ」


 間髪入れずにそう切り出したのは槐隊長だった。


「集めたわけを話さなくてはいけないのだが、まずは紹介が先だな。実盛永環さん。右京隊長の従妹だそうだ」


「へイどーもご紹介にお預かりいたしやしたトワちゃんです! ヨロスク!」


 かなり浮いた存在の彼女に、槐隊長も扱いづらそうに目を眇めた。


「この度入局する事になった。が、戦闘要員ではない」


「といいますのも、訓練を経ておりませーん。特別処置とかいうやつでいますはい。コネと能力が全てDEATH!」


 包み隠しもせず自分で言うのか、というツッコミを心に留めつつ説明に移る。


「人外対策局には、特別な能力はあるが退魔師にはなりたくないという人の為に特別処置部がある。だが、右京隊長の申し入れにより今回この会議に参加してもらう事になった」


「特処なんて本当にあったんですね」


 槐隊の(むらさき)(まい)が発言する。


「退魔師部との繋がりがないし、身の安全の為にも特処に属する人間だという事自体秘密にしたいと考える方が多いからな。知らない者は多い。そして能力を持っている人間は希少だし、本来は戦闘に加わらない方が好ましい。戦闘員の代わりは作れても、能力持ちについては代えがいない」


「戦闘員の代えは、いる……ですか」


 舌足らずな口調で落ち込む舞に、槐は困った顔になる。


「言葉の綾だ。戦闘員の代わりはいても、舞の代わりがいない事は覚えておけ」


「うん……隊長、ありがとうです!」


 照れくさそうな笑みを浮かべながらえへへと笑う。そんな彼女にだけは甘い槐に親馬鹿チックな何かを感じながら見つめていると、視線が集まっている事に気づいた彼は一つ咳払いをした。


「話を進める。今回集まってもらったメンバーは、龍崎派の信用なる人物だけだ」


「俺も零も白砂派だが」


「問題ない。今から龍崎派だ」


「……なんて強引なんだ。まあ、殺す時は殺すしこだわりはないが」


「俺も」


 神無に次いで零も同意するが、八千草は首を傾げた。


「以前までは龍崎派の気が知れないって否定していたのに、一体どんな心境の変化があったの?」


「……知りたくなったんだよね、俺。兄貴の事」


 何かパッとしない顔でそう呟く。

 零の兄は龍崎派として自分の近くに契約した人外を置いていた。しかし自我の喪失により暴走したその人外に殺されてしまったのだ。

 それからというもの人外に対して否定的だったのだが、このタイミングから逆算をすれば、御祈祷家へ家出している間に何かあったのだと安易に想像がつく。しかしその詳細を知る者はここにはいなかった。


 唯一神無は気づいているようで、その上で言いだしやすいよう先にレールを敷いてくれたらしい。その事を察してか、零は苦笑を神無に向けて浮かべた。


「同意を得たところで本題に戻るぞ。白砂中将の側近が、恐らく何かを隠している。実子隊長は何者かに催眠をかけられ、立て続けにバル隊員は現在行方不明。おかしいとは思わないか」


「側近って?」


 右京が問う。


「白砂の忠犬(いぬ)といえば一条隊だな。今回渦中にある実子隊も実力を買われ側に置かれていたと聞く」


「話を聞けるのは……実子隊の雛ちゃんと朱里ちゃんか。どうする?」


 どうしようかという右京の視線を受け、八雲は軽く思案する素振りをした。一呼吸置き、自分の中で結論に至ったのか頷いた。


「一条隊長については少しでも早く探りを入れた方がいいと思う。バル君が心配だから。でも、まだ外部には漏らさない方がいいとも思う。実子隊への聞き込みはもう少し調べてからにしよう。実子やバル君と同じ隊って事は、良くないところへ情報が筒抜けになる可能性もある」


「同意だな」


「意義なし」


 八雲の意見に槐と右京が賛同しひと段落する。ここで、ずっと疑問に思っていたような口調で神無が「名無隊は呼んでないんだな」と槐にたいして訊いた。


「彼らは若い。呼ばない方がいいと判断した」


「確かに入局したばっかだが、しかし所属歴の浅い奴なんてこの場にいくらでもいるだろう。……本当は何か気がかりな事があるんじゃないのか? 槐隊長」


「食えない奴だな」


 試すような視線で笑う彼に、溜息混じりにそう応えた。


「名無隊についてなんだが……」


 全員の視線を一矢に受ける槐は、眉根を寄せて鋭い眼光で言い放つ。


「――――疑わしい奴がいる」


 まさか。全員がそんな顔をして説明を求めるような目をした。


「待ってください隊長」


「組織の顔としてスカウトされた人達ですよ?」


「身元は絶対」


「保証されているはずです」


 槐隊隊員の双子、(ひびき)あいと響(ひかる)が、代わる代わるに発言する。後に続いて食いついたのは右京だ。


「疑っているんですか、彼らを」


 信じたくないという動揺の色と、厳しい口調が声音に乗る。


「気分を害するのは分かるが、先入観は良くないな。右京隊長は彼らに関して客観視が向かない。だから、それもあって名無隊は呼ばなかった」


「確かに、そうかもしれない、けど……信じたくないものだね。誰を疑ってらっしゃるんですか」


「言う事で先入観が生まれる。明言は控えたい」


 理由が故に誰も突っ込めずにいる。八雲隊の四人も微妙な顔をするが、それは不満があったのではなく不安ができたからだ。


「野放しにしておくのは危険なんじゃないかな。ティアにだけでも伝えて監視してもらうとか、何かしらの対策を講じないと取り返しがつかなくなってからでは遅いし」


「妹だからと安易に信用するな。……これからはもう、そういう世界だ」


 身内でさえ次の瞬間には殺し合う仲になるかもしれない。言外にそう示唆する言葉に空気が重くなる。


「はーあぁ。めんっどくさいっすマジ〜。イージャンイージャン。お堅すぎだよ槐たいちょーは。頭の中に石でも詰まってんの?」


 その空気をぶち壊す永環という存在を今まで忘れていた。というよりも、永環がほんの少し前までうたた寝をしていたせいで静かだったのだが、目を覚ました直後の会話がアレだったのだ。


「……右京隊長。こいつへの教育はどうなってるんだ」


「んええ、教育? 性教育がなんだって? 兄さんがご指導してくださいますってぇ!?」


「言ってないよ。もう永環、少し真面目になって。失敗できない事なんだから」


「真面目? ナニソレおいしいの?」


 救い用がない彼女に諦めムードが漂う中、空気を変えるために右京が話題を移した。心なしか鋭い視線で睨んでくる彼に、八雲は苦笑をして目を逸らした。


「刀どうするの?」


「祝叔父さんがいないとどうにもできなくて。根っこ取り除くのも簡単じゃないだろうから、返そうかどうかも迷ってるんだ」


「迷ってる? また同じ過ちを繰り返してどうするんだ。八雲が取るべき行動なんて一つだろ」


「今度は上手くするよ。上手くいけば、鬼の力を肉体に取り込む事ができるかもしれない」


「妖刀から体に人外を移すって? 成功の可能性は限りなく低い。栗花落隊長を見てそう言ってるのなら尚更。栗花落隊長はあくまで成功例であって、失敗例は成功例の倍以上ある。リスクが高すぎるって事、判らない程馬鹿でもないはずだよね」


「成功した場合、それは退魔師にとって戦力としての光になる。悪くない話だと思うけど」


 それまでを聞き、右京は呆れたような声を出した。


「何その自己犠牲精神」


「自己犠牲精神の上にヒーローなんて存在が成り立つんだよ」


「ふざけるなッ!!」


 鋭い声が静寂をもたらす。右京が叩いたテーブルの上で、置かれていた物が震えた。普段感情を露わにしない彼の激昂ぶりに、周囲は困惑した。


「……確かにこれは賭けだよ。けれど、このまま鬼喰丸を手放したところで何か生まれると思う? 妖刀は貴重だ。戦力としてあればそれだけ有利だ。僕が鬼喰丸を失ったところで損失しかない」


「もっと大きな損失があるッ!」


 それが何か見当がつかないくらい鈍感にはなれず、仕方無さに苦悩するような呻き声で「わかってる」と答えた。


「わかってないだろ! 本当に日本で要になっている隊の隊長だって自覚はあるの? 八雲を大切にしている人の気持ちを考えた事があるか!? なんのために永環は命を削って呪いを戻した? 八雲の……お前の選択一つで日本の今後に影響だってあるんだぞ! これは決して大袈裟に言ってる事じゃないッ!」


 それを受け、しばらくの沈黙の後に静かに首を振った。


「……死ぬだけなら、良くはないけど、話としては終わらせられる。けどさ、暴走したら誰が止めんの? 仲間に殺させる気?」


「そうはならないさ。解決策を見つけたんだ」


 そつ告げる八雲の顔には、危うい何かが浮かんでいた。嫌な予感を胸にそれを聞き出す。


「解決策?」


「鬼喰丸に、人の血を与える事」






 *






「一条隊長」


 廊下で呼ばれて振り返ると、そこには八雲隊の八千草がいた。


「……なんだ」


「そーんなピリピリすんなよー。周りの空気に静電気走るわ!」


「…………」


「……うあれ、スベった?」


「なんのために呼び止めたのか聞いたんだが」


 訓練生時代の同期だが、部署の違う二人の距離感は微妙なものだった。


「せっかちだなぁ。そんなセカセカしてるとすぐ死ぬよ?」


「用がないならもう行く」


「あーあーあー待ってよ! つれないなぁもう」


「早く言え。俺は忙しいんだ」


「忙しい? 白砂さんの忠犬として野山駆けずり回る事? それとも……」


 八千草が声が戸惑いを孕んだようにひそまる。意味深な視線を受けた一条は横目で彼女を睨み、やがて痺れを切らして歩き出す。


「――――それとも、人攫いに?」


 呼び止めるような質問に、


「……なんの事だか」


 しかし返事はするものの、歩む足を止めようとはしない。


「見たんだよね。爆破事件のあった夜、バル隊員と一条隊長が夜中に寮を出て行くのをさ」


「それをどうして人攫いだと? 随分な事言ってくれるじゃないか」


 ――食いついた。


 立ち止まり振り返った彼を見て、八千草はそう思った。


「白砂さんに実子隊長とバル隊員を見張ってろって指示されていたらしいじゃない。にもかかわらず、一条隊長たる人がその監視対象を見失うなんてヘマはするはずもないと思って」


 何が言いたい。そんな目で射抜かれ、八千草は目も顔も身体も彼から逸らしたい衝動に駆られながらも必死に睨み返した。


「……なら、可能性は一つよね。……実子隊長が催眠をかけられたって話にも、バル君が失踪した件にも、関わっているんでしょ?」


 怯えながらも飼い主を守ろうとライオンに立ち向かい吠えてる子犬のような目の彼女に、一条は一つ溜息を漏らした。


「随分と他の隊員が知れるはずもない情報を持っているんだ。盗聴されていたのなら大問題だ」


「それは肯定って受け取っていいの?」


「まさか。俺が知らない事も知っている事への嫌味(しょうさん)さ。話は終わりか? さっきも言ったけど、俺は先を急ぐんで」


「待ってよ。まだ話は終わってない。一条隊長……いえ、一条君。友人として訊くわね。一条君は退魔師側の人間? ……それとも、ブール側の人間?」


 震える声をなんとか誤魔化し言い終わる。返答が怖くて鼓動がうるさい。


「ふん、愚問だな」


 けれど、答えはたったそれだけ。それだけを残して、彼は八千草を廊下へ置き去りにする。

 緊張が過ぎ去り、力尽きたように近くの壁に身を預けた。その場にへたり込むと、制御装置(リミッター)に向けて言う。


「これでいいんですか? 八雲隊長」


『うん、助かったよ。……ごめんね。八千草ちゃんが、一条君の事好きだって知っておきながら』


「いいんです。……たまには役に立たなくちゃ」


『いつも力になってくれているよ。ありがとう』


「こちらこそありがとうございます。……では、仕事に戻りますね」


『うん、八千草ちゃんも根を詰めすぎないようにね』


「ありがとうございます、隊長」


 通話が切れてから、自分の頬を全力で叩いて気合いを入れ立ち上がる。けれど、すぐに不安そうな顔になった。


「一体、何が起こっているの……」


 好きな人が本当は敵なのかもしれない事。事件や失踪が重なる不穏さ。どれもこれもが重なって、キャパシティーがオーバーしそうだった。


「でも、皆だって辛いんだ。……頑張ろう!」


 落ち込みながらも自分を律して一歩踏み出した時、背中に衝撃を感じた。


「な……に…………?」


 視界の下の方で、刀身が見えた。刺されたのだと自覚するまでに時間はかからないが、声が上手く出ない。壊れかけの人形のような不自然な動きで背後を確認する。


「なんで……さっきまで、話してた、のに……」


「なんでって?」


 刀身を抜き、支えをなくし膝から落ちていく彼女に向けて語りかける。笑みを浮かべ、床に横たわる彼女を見下ろしながらこう告げた。


「――――必要な事だからだよ、八千草ちゃん」


 それきり、八千草の意識は途絶えた。

 白い床を濡らす血が、どんどんその面積を広げていく。

 刀身に血が這う姿は、深紅の血を舐め吸っているようだった。

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