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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第5章:章タイトル未定-1
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No.97「残る本当の課題」

「……うーん。催眠だな」


「どうにかできそう?」


「早くこの部屋から追い出したいから頑張るゾ!」


「理由が酷い……。いやぁ、実子とはいえ女の子連れ込むのも良くないと思うけどさ」


 永環が憔悴している実子の顔を両手で持ち上げ、目を合わせた。


「ローック……解除!」


 時を戻す。時間を逆流させられた本人は、例外もあるがそのショックで気を失う。ガクリと力なく頭を垂れるが、呪術により捕縛されているために体は光の鎖に繋がれたままだ。


「はい大丈夫。……にしても兄さん」


 ギロリと鋭い眼光を覗かせてきた。


「監禁趣味があったなんてね……。そんなドS変態だったなんて……だったらあたしの事拘束して!? 閉じ込めて!? この永環を! 痛めつけてぇっ!」


「……何言ってるの。ないよ俺にそんな趣味。確かにこれは人権的にはアウトってるかもしれないけど、致し方ないからやってるわけで、そんなすすんでやろうとか全然ないから」


 温度差を後ろから眺めていた天は、意味がわからない会話に首を傾げる。


「じゃああたしがァ! あたしが兄さんをあんな事やこんな事をグヘヘへへ……」


「女の子が変な妄想をしない」


「ほら兄さぁん……永環のことぉ、だ、い、て……?」


呪番之弐(じゅばんのに)(じょう)


 空間から青白く光る鎖が伸び、手足を拘束する。


「ああん……やっぱりあるんじゃない……。もう好きにして……。いや、良きにはからえ」


呪番之参(じゅばんのさん)口封(こうふ)


「んんんんんっ……!?」


 梵字の描かれた霊布が永環の口を封じる。


「葛西ちゃんに呪術習って良かった。まさかこんな事に使えるとは」


「どぅわれっだぁああその女ァァアアアッ!」


「……ダメだ。まだ練習が足りてない。永環が喋れてる」


 ふざけるのも大概に術を解くと、永環は借りてきた猫のように大人しくなった。表情には判りやすく影が落ちる。


「兄さん……許してくれたん?」


「何を?」


「…………その、弟の……左京(さきょう)の事」


 ふっと表情を緩め、永環の頭をぽんぽんと撫でる。すると彼女は猫のように片目を瞑って、名残惜しそうに頭を抑えた。


「怒ってないよ。左京の事を永環が大好きだったのも知ってたし、気持ちはすごく解るからさ。……ね、気にしないで。過ぎた事だから」


「過ぎた……事…………」


 踵を返し退室しようとする右京の背に、声を詰まらせながら復唱する。まるで納得がいっていないように寂しげな目をした。


「人ってさ、死んだら終わりじゃないと思うな」


 拗ねた子供ような表情で、酷く冷たい声で投げかけた。すると彼は立ち止まる。


「永環……その考えのままあまり悩まない事。何かあったら連絡して。任務中じゃなければ出れるから」


「……ウィス。お仕事ファイティン!」


「うん、いってきます! テレビでも見ててよ。夕飯、永環の好きな煮物でも作るからさ」


「おおっ! おっしゃあゲームして待ってる!」


「天も良い子で待ってるんだよ?」


「うん! 安全に、いってらっしゃい!」


「はーい。仲良くね」


 ブンブンと手を振る二人に笑顔を浮かべながら、右京は寮を出た。






 *






 諜報部の薄暗い会議室では、暗い面持ちで黒子姿の諜報部部長と班長の六人がいた。

 まずは諜報部部長、隠逸花(いんいつか)蔵之介(くらのすけ)が会議を進める。


「第一班班長、バル少尉の行方は」


「節菜ビルの事件後、その日の内にここから一番近いAブロックの占い街で消息を断って以来、全く足取りがつかめません」


「第二班班長、御祈祷(はじめ)の行方は」


「こちらも全くです。ですが、彼は前局長の弟であり、八雲隊長、ティア隊員の叔父にも当たります。退局した退魔師、御祈祷(かい)の父でもあります」


「御祈祷家は退魔師一家だ。そんな情報は誰でも知っている」


「それが……当日に全員が御祈祷神社、つまり自宅に揃っていたそうです。それに、寮から失踪中だった零崎零も身を置いていました。共謀し彼をどこかに監禁しているのか、もしくはもう処分したのかもしれません」


 諜報部の報告会で、第二班の班長がとんでもない事を言い出す。その言葉の重さは、関係者とされる人物の面々によって倍以上に膨れ上がった。


「全員怪しくないとは言い切れないと思います」


「だとしたらそれは由々しき事態だぞ。二班内から怪しい動きがないか一人ずつに見張りをつけろ。……ただし」


 全員にも、自分にも言い聞かすようにゆっくりと言葉を続けた。それは、文字に起こした時に傍点を打つくらいの重要さを意味していた。


「その状況事態、灰の月委員会の罠かも知れん。また、彼らの中に裏切り者がいる可能性も同等にある。細心の注意を払い、何かあれば仲間との合流を優先し単独での戦闘はなるべく避けろ。一筋縄ではいかない面子だ。いいな?」


「御意」


「他に何か報告がある者は?」


 蔵之介の問いに、誰も挙手せず微動だにしなかった。


「よし、これで会議を終了とする。解散!」


 報告会が終わり会議室を出ると、第二班専用の部屋に戻る。班員の四人は何もせずにただ椅子に座していた。忍耐力が必要な仕事を請け負う性質上、一時間など苦でもないのだ。

 視線だけを班長である猿飛(さるとび)喜助(きすけ)に移すが、四人の姿勢は直さずとも既に整っていた。


「会議で決まった事を伝達する」


 言いながら、感情の読めない顔で腕を組み着席する。


「我々の御祈祷祝捜索任務についてだが、関与の疑いのある四人に一人ずつ張る事になった」


 班員の四人は黙したまま頷く。


京介(きょうすけ)は八雲隊長を。信楽(しがらき)は零崎隊員を。萌音(もね)はティア隊員を。俺は御祈祷魁を担当する。戦闘になるような事があれば迷わずに逃げろ。仲間の合流を待って行動する事を遵守しろ」


「御意!」


 三人は立ち上がり指示通り目的の人物を張り込みに向かう。一人取り残された少年は、班長の名を呼んだ。


「猿飛班長。俺は」


「銀。君はティア隊員とも八雲隊とも接点があるから向かない。引き続き御祈祷祝の捜索を頼む」


「接点があるからこそです」


 自分が一番の適任だと食い下がる銀に、困ったとでも言いたげに眉を歪めた。


「普通は外してくれと言うものだけどな」


「人間関係を築くのは、いざという時に懐に入りやすくするための行為。持ち腐れては勿体無いと思いますが」


「流石雪村家というべきか……。君には情というものがないのか?」


「仕事に情はなければいけないものなんですか」


「……なきゃいけないあってはいけないとか、そういう理性的なものじゃないと思うぞ」


「諜報部は常に中立な立場で人を見なければならない。そう教えてくださったのは、紛れもなく猿飛班長です」


「そういう意味では向いている。けどな、目上の人間に従順である事も必要だ。組織の忠犬(いぬ)なんだからな。俺の命令に従え」


「……御意」


 口元以外動かさずに答えると、猿飛が一言残して出て行った。


「訓練生時代は、まだ人情味があったのにな」


「…………訓練生時代は……ですか」


 返事はなかったが、その言葉に銀は心を締め付けられた。


「今と……何が違う」


 己に問うが、答えは出ない。考えるだけ無駄だと立ち上がるが、その思考は尾を引いた。振り払うように廊下を無表情で歩く。

 ふと訓練生時代の事を思い出す。懐かしく思うが、それだけの感情だった。

 けれど、現在行方不明のバルを心配する気持ちはある。


「人情味……意味、人に対しての心の温かさ。……心の、温かさ」


 意味は分かる。けれど、行動に変換しようとすると分からなくなるものだった。


「……何をすれば、温かい?」


「好きな人と触れる事。そうすれば自然と温かさが出てくるもんじゃないの?」


 いつの間にやら零崎零が横にいた。

 気づかないなんてありえない。一種の恐怖心が芽生えた。


「深い考え事をしていると、周りが見えなくなって背後から刺されるよ?」


 彼の普段通りな物騒な口ぶりで受けた忠告は、ただいま実感させられたばかりで反論の余地がなかった。零が敵だったら、今頃はもう死んでいたはずだ。


「基地内だからって気を抜いちゃダメでしょ。今じゃ誰が敵か判んないんだからさ」


「すみません。気をつけます」


「へえ、敬語使うようになったんだ」


「まあ……。それより、さっきのアドバイスだとお前には好きな人がいるのか?」


「言ったそばから敬語ログアウトかよ。俺には彼女がいるよ」


 銀が黙したまま目を瞬かせている。信じられないという思いを顔に滲ませながら、やがてからかわれているのだろうという結論に達し、本気にした自分が馬鹿だったと再び歩き出した。


「絶対信じてないな。なーんで皆信じないかな」


「…………そうだ」


 思い出したように、銀は振り返る。


「気をつけた方がいいぞ」


「何が?」


「油断していると、寝首をかかれる」


「誰にだよ」


「さあな」


「……意味わかんね」


「その方が幸せかもな」


 言い残し、今度こそ去っていく。残された零は片眉を上げ、ちょうど鳴った着信音にスマホを取る。


「……今からかよ。ま、今日は非番だからいいけど」


 溜息をつきながら踵を返した。

 着いたのは約束時間ぴったりだったが、先に来ていた相手はふくれっ面だった。


「遅い!」


「ごめんごめん。待った?」


「待った。二十秒くらい」


「大差ないじゃん。どうしたの急にデートしたいなんて」


「だって……卒業してからまだデートできてないじゃん」


「一ヶ月やそこらじゃん」


「一ヶ月だよ!? 大学とバイトで忙しいからって、そんなの酷すぎる! いきなり音信不通にもなるしさ!」


 ――重〜っ。大学と仕事で忙しいって分かってんならワガママ言うなよ。


 価値観のすれ違いで、二人は高校時代からギクシャクしていた。零は溜息を飲み飲み言いたい事をグッと堪え謝る事にする。


「ごめんって。最近本当に忙しかったんだ」


 彼女の表情はますます不機嫌に傾いていく。


「この前だって、零君住んでるとこの近くでビルの爆発があったから心配ですぐ連絡したのに出ないし! 返ってきたのは夜中だよ? どんだけ心配したか分かってる!?」


 どれだけ心配してくれたのか、優しい彼女の事だから言われずとも伝わってくる。それに、着信履歴にもメッセージにもそれは刻まれていた。


 ――仕事だったんだよ、なんて、言えないよね。俺が何者なのかを言えたら、こういう喧嘩もなくなるのに。


 あの日は、倒れた八雲の代わりに神無と二人で夜中まで仕事をこなしていた。後処理もあれば報告書もあった。現場と卓上の仕事二つに追われ、やっと一段落できたのが夜中の二時だった。時間はここ以外に取れないだろうと食事をとりながらも返信をし、間も無くして戦った身体を癒すために就寝したのだ。


「ごめん。なんか奢るから許して」


「ほんと!? クレープがいい!」


「デブると出荷されて家庭に出回っちゃうんじゃない?」


 機嫌を直してくれた刹那に、染み付いた軽口が勝手に出てきた。まずいと思い彼女を見るが、いつものように「も〜う!」と言って、軽く二の腕を叩いてくる程度だった。食べ物の力は偉大らしい。


 クレープを食べ終えてから、近くのファッションビルに立ち寄った。女子はオシャレに忙しいらしい。


「あ、これ可愛い……」


 ピンクゴールド色の指輪に見惚れ足を止める。店員が購買意欲があると判断し彼女に近寄ってきて、案の定勧めてきた。


「こちら、人気で残り一点なんですよ。はめてみますか?」


「あっ、は……い?」


 はいと頷こうとして、値段に目が止まる。


「一十百千……ご、ごまんyen……。今月はもうキツイ……」


 あみの背中の輪郭が崩れていく。元気が萎んでいく様子に声をかけようとすると、突然背筋を張って笑顔を振りまいた。


「やっぱ急いでるんでいいです!」


 あみはそそくさと店を後にして隣の服屋に入る。零は怪訝な顔で後を追った。


「どうしたのさ。気に入ったみたいだったのに」


「ま、まあね! 急に気に入らなくなった!」


「そう?」


 会話の途中、タイミングを選ばずに制御装置(リミッター)が鳴る。周りに気付かれないように受けると、耳元で八千草の声が聞こえてきた。


『至急、帰宅してきてください。知らさなければならない事があります』


「……了解」


「ん? なんか言った?」


 小声で返した声に、彼女は敏感に反応した。


「バイト、急にシフト入ってくれって連絡きてさ。行かなくちゃ」


「そっか……。呼んだのも急だったもんね、仕方ないよね。気をつけて行ってらっしゃい!」


「うん、ごめんね。バイト終わったら連絡する」


「待ってまーす!」


 こういう時には理解を示してくれる良い彼女で良かった。しかし、同時に無理させてしまっている事に申し訳ないとも思う。嫌な顔一つしないで送り出してくれた彼女が、自分の背中に向かって手を振り続けていると思うと心が痛んだ。


 帰り際、元来た道を戻る。チラリと彼女が見ていた指輪を確認した。

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