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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第5章:章タイトル未定-1
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プロローグ

 暗澹たる鼠色の雲が、節菜(ふしな)と名のついた摩天楼に垂れ込めてきた。


「……歓迎されていないような日だ。最悪の門出だよったくよぉ」


「どうして? どうして歓迎、されてないの?」


 格好つける実盛(さねもり)永環(とわ)にキョトンとして問いかけてくる(そら)へ、数年間使っていなかった表情筋をフル稼動させて笑顔らしい表情を作る。上手く笑えていないのは、彼の引きつった顔を見れば一目瞭然だった。


「ありゃあ時化(しけ)だ。人外が急速に集まる時にできる雲さ」


「時化……?」


「歓迎されんのはバケモノくらいなもんよ。あたしも招かれた客の一人ってわけだけども」


 そんな意味深な言葉を残し、カランカランと下駄を鳴らす。その奇妙な格好に、すれ違う人が振り返る。

 キャラクターが大きく描かれた丈の短い浴衣と、ピンクの兵児帯が幼さを演出している。けれど彼女は成人済みだ。


 たわわな胸が歩くたびに揺れ、歩みを進めるごとに短な丈はギリギリなラインにまで迫る。運動不足で程良く蓄えたムチムチな太ももを惜しげもなく晒しているところを見れば、格好から考慮しても羞恥心は薄いらしい事は明白だ。露出狂の線もある。

 チラリズムに喉を鳴らす男性もいるが、視線を上に移す程に幻滅をする。


 風呂上がりにブローを怠り、癖毛がより濃く現れボサボサだ。髪型だけを切り取れば、まるで八〇年代のアイドルのそれだ。目の下のクマが目立ち顔色も悪いが、日の光を浴びていなかった分肌は白い。


 引きこもっていた事で幼いままの顔立ちだが、しかし体はグラマラスだったり、けれど一昔前の清純派アイドルのような髪型だったり。秋葉原で売っていそうな、オタクを前面に押し出したような服も含め、全てがチグハグだった。


 自分でどうにか改善ができそうな髪と服装さえどうにかすれば、良い意味で男性が振り返ってくれそうなものだが、どうやらその辺に執着はしないらしい。


「あ、あの、どうしてその服なんですか……?」


 客間に現れた時はまともな格好だったのに。言外にそんなニュアンスがあるが、永環はそれにも無頓着だった。


「実盛家の人間たるもの、和服じゃなくっちゃあねぇ!」


 ズレた信念だ。和服だとしてもそれを着て歩くくらいなら、普通に洋服を着てほしい。そう願う彼女の祖母の声が聞こえてくるような気がした。


「そういえば永環さんは、なんの能力(ちから)をもっているの?」


「あたしぃ? そうだなぁ。例えば……」


 隣を歩く天を見下ろし、瞳を覗き込んだ。


「――――否定、かな」


「ひてい……?」


「そ。特定の名前があんのか知らんけど、あたしの捻くれを体現したようなもんだよねぇ! んなっはっはっ! 時間を逆流させられんださ!」


 ヒーローではなく悪者のような顔つきで不気味な笑みを浮かべていたと思ったら、途端に嫌悪感に満ちた表情をした。


「ちっ。にしてもしてやられたぜ。騙されるなんて不覚だわ。このクソガキが! 他人の初恋弄んでるとトモダチいなくなんぞ! まあオトモダチなんてあたしにゃいないけどね!」


 怒りながら自虐する永環に困惑する天。まだ幼い彼にとって、およそ初めて会ったとても個性的な人種なのだ。


「それはそれとして。どのチャンネルかけても節菜(ふしな)ビルの爆発についてだったけど、見た感じガチヤバじゃない?」


 突然落ち着いた雰囲気に戻る情緒不安定な彼女は、ボリボリと頭を掻いて口を尖らせた。


「現場基地の近くらしいじゃん。それに報道陣も危なくて入れないからって人外対策局が会見開いとったけどさぁ、現場の雰囲気掴めないんじゃあたしゃ不安だよ〜。……って、あんたに言ってもしゃあないか」


 休日のオフィス街だった事もあり、被害者は少なく済んだらしい。


「けど、こんなに人外の気配が向かってってちゃあ退魔師の方が死ぬんじゃね?」


 その言葉に、天の顔が強張る。それを頭を撫でて解そうと頭を撫でやり、抱き上げた。


「ほーれ高い高ーい! 安心したまえ少年。あたしがいればあんたんとこの隊長は殺させませんぜ! 待っててねアモーレッ!」


 突然走り出す彼女を、周りの人は奇妙なものを見るような目で避けていく。


「見て! 人々があたいを避けていく! あーはっはっは!」


 天にも判った。彼女は、『イタイ』人間だという事が。


「右京さんに似てないし、キョウレツな人だなぁ……。本当に、実子さんのこと、どうにかできるのかな?」


 不安と動揺は彼女を見れば誰でも感じる事だろう。


「――おお、なんだなんだぁ? 基地にも現場にも、変なのが混じってんなぁ」






 *






「何故ですか! 信太が……ボクの隊の隊員が、現場で戦っているんです! 行かせてください!」


「駄目だ」


 たったその一言で絶望の淵から突き落とされた気分だった。しかしアルは食いさがる。


「お願いします、槐隊長!」


「なんの為の名無隊(・・・)だ。単体で有能だと判断されたからソロ集団としてその名があるんだろうが。隊としてではなく個々の能力が求められる時は、戦力の足りないところに配置されるべきだ」


「ですが……!」


「ですがもクソもねぇ。上の命令は絶対だ。隊長が取り乱してどうするんだよ」


 夜斗がアルを諌める。するとアルはより一層狼狽えた。


「夜斗は心配じゃないの!? 人外の気配がこんなにも沢山ビルに向かって行ってる! 信太は一人だ!!」


「佐久兎と愛花が向かっただろうが。……それでも不安かよ」


 肯定すれば、仲間への侮辱だという事に気づいたアルは、一転し黙りこくる。ティアは隊の意味を突きつけられ、あまり納得がいっていないような顔をしていた。


「強いよ、皆。でも、キツイ状況だって事は明らかじゃないか」


 最後の砦である第三包囲網にまでたどり着く人外はそれほど強いという事だ。通信情報専門部(C I S)から送られてくるリアルタイムのGPSには、信太の近くには新人の中学生しかいない。手薄なのは一目瞭然だった。


 そんな中、新たに現れた人物が名乗り出た。


「アル君達は職務を全うして。俺も、職務を全うするから。……任せてくれるかな?」


 突然登場した彼の顔を見て、驚きながらも三人は頷いた。槐は数日ぶりに見る彼の少しやつれた顔を見て、疑問をぶつけた。


「お前、体はもう大丈夫なのか」


「ええ、俺は元気でしたよ。ずっとね。という事で槐隊長、基地をよろしくお願いします」


「顔色が優れないように見えるが、そんな調子で何処へ行こうっていうんだ」


「何処へ? ……そんなの、決まってるじゃないですか」


 ヘラリと笑顔を浮かべ、羽織を翻す。下駄の甲高い音を立て、一つに結った長髪をなびかせて踵を返した。


「現場へ行くんです。部下(いもうと)元部下(おとうと)を迎えに」

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