喧嘩上等? 生意気暴力少女 10
メルは両手でパンティの両端をつかみ、傾きかけの太陽にすかすようにして顔の前に持ち上げた。
光を反射しキラキラと神々しい輝きを放っている。
「それでは不肖、わたくしメルが神妙に検分させていただきます」
「わ、わぁー! や、やめろっ!」
慌てて奪い返そうとする陽夏。だがスカートがめくれてしまうのが気になり、大胆な動きが取れない。
「めぐるちゃんパース!」
巡にむかって下から上に手を振ってパンティを放る。
布きれが宙を舞い、上向きに両手を広げた巡の手元にふわりとパンティが乗った。
これが陽夏ちゃんの……。まだかすかにぬくもりが……。
「か、返せっ」
陽夏が血相を変えて巡につかみかかろうとする。
スカートをおさえつつ小走りでやってきた陽夏の手が、パンティをひったくるその寸前。
ぽたり。
白いパンティが、赤く染まった。
興奮した巡が垂らした鼻血によって。
「あーっ! 血! 鼻血たれてるよ!」
「……え? あ」
陽夏にそう指摘されてやっと気づく巡。その間もぼたぼた鼻血は流れ続け、さらにパンティは赤く染め上げられていく。
陽夏が手元にさっと取り戻すも時すでに遅し。白かったパンティに赤いまだら模様ができてしまっていた。
「うう……、もうはけないじゃんか……」
軽く涙目になる陽夏。そんな彼女を見て二人は申し訳なさそうに謝罪する。
「ヒナちゃん、ごめんね。まさかめぐるちゃんがそんなマンガみたいな事になるなんて思わなかったから……」
「……ご、ごめん」
「このままじゃ家まで帰れないよ……」
「大丈夫、メルちゃんの貸してあげるから」
「えっ、予備のパンツなんて持ってるのか?」
「ん? さっきまでわたしがはいてたやつだけど?」
「やだよそんなの! ていうかなんで脱いでるんだ!?」
「返す時も洗わないでいいからね」
「な、なんで!? あ、洗うに決まってるでしょーが! いい、いらない!」
メルはポケットから取り出した自分のパンツを陽夏に握らせようとするが、頑なに拒否された。
すでに戦意を喪失していた陽夏に向かって、メルはさらに追い討ちをかける。
「でもヒナちゃん! お互いノーパンということは、これで五分だね。ここからが本番だよ!」
「もーいい! あたしの負けでいい! もう帰る!」
「決着はキックボクシングで決めるよ! じゃ行くよ、えい!」
「な、なに考えてんだよ! うわっ、み、見えるって!」
「ほらほら、ヒナちゃんもどんどん攻めてきて!」
メルはためらいなく足を上げて、へろへろの攻撃を繰り出す。
目の前で繰り広げられようとしているノーパンバトルに、巡の興奮度は最高潮に達していた。
うう……鼻血が止まらない。頭がクラクラしてきた。こ、このままだと……、ぶっ倒れちゃいそうだ。
でもこの戦い、僕がきちんと見届けないと! 一秒たりとも見逃せない!
あっ、でもやっぱり無理。もう手がブラッディハンドだよ、どうしよう。
……あっ、そうだ!
その時巡は、左手に巻きつけていた腕時計を外した。
するとまばゆい光とともに、巡の体が女子のものへと一瞬で変化した。
途端に鼻からとめどなく溢れ出ていた出血がピタリとやんだ。
「君たち、はしたない真似はやめたまえ。スカートにノーパンでキックボクシングだなんて、やっすい企画モノのAV以下だよ」
弱冠高くなった声で巡女史は二人をたしなめるように言う。浮かべているのは余裕の表情。
今の巡は性欲が消えた、いわゆる賢者モードである。ただし二次元のおじいさんには弱い。
「ど、どうなってんだ? 急に声が変わって顔も女っぽく……」
巡の変化を見て驚きを隠せない陽夏。陽夏のスカートをつまみあげようと強硬手段に出ようとしたメルがすぐに答える。
「めぐるちゃんは女の子のクセに男の子の格好して性的興奮を得ているんだよ」
「違うよ! なんでそういうウソつくかなぁ!」
「昨日はどっちでオ○ニーしたの?」
「うるさいな! だいたいこっちだととてもそんな気にならないんだよ!」
「っていうことは女の子の時に自分のハダカの写真を撮っておいて、元に戻ってから……」
「考え付かなかったなあ! こういうことになるとすごく知恵が回るね!」
「わたしにも後で写真分けてね」
「撮らないよ! なんであげなきゃなんないの!」
「じゃあわたしのと交換ならいいでしょ?」
「えっ、えっと……い、いやよくないよ!」
そんな二人のやりとりを見て、ゆっくり後ずさりをする陽夏。あれほど勝気だった彼女が、明らかにおびえている。
「へ、変態だ……。こいつら……」
「え? なにヒナちゃん。聞こえなかった、もう一回」
「変態だぁー! もうやだー!」
陽夏は叫びながら屋上の扉へ向かって逃げ出した。
途中転がっていた美道にけつまずきそうになったが、「邪魔なんだよ!」と言って鬱憤を晴らすように動かない彼を二、三発蹴りつけていった。
ギィ、バタンと屋上の扉が閉まると、後には変態だけが残された。
「……あーあ。行っちゃった。メルちゃんのせいで失敗だ」
「めぐるちゃんが早く脱がないからダメだったんだよ」
「そんな別れ道どこにもなかったよね……。……ああ、どうしようこれ」
巡は手に持った血のついたパンティを見て困惑する。
「それ、なんかすっごいいやらしいね。ある意味。……貸して、わたしが明日ヒナちゃんに返すから」
「僕にその言葉を信じろと? これは僕が責任を持ってキレイにしてから返すよ」
「そう言ってネコババする気でしょ!? めぐるちゃんのヘンタイ!」
「しないよ! 絶対に君にだけは言われたくない! 絶対に!」
「ヘンタイでもなんでもいいから渡して!」
「なに開き直ってんの! いや開き直ったというより本性を現したか!」
ぎゃーぎゃーとパンティをめぐった二人の争いは、すっかり日が暮れるまで続いた。
そして美道は二人が帰った後もずっと転がったままだった。




